Episode:116
「そちらはどうですか? ――え、船が? ではすぐには戻れませんね……」
カーコフ先生の話が聞こえないから分かりづらいけど、どうも演習島、船が無くて戻れないみたい。
――どうしよう。
これだと頼みの綱の先輩たち、せっかく気づいても戻ってこれない。それじゃ気づいてないのと変わらない。
「なるほど、そちらへ行っていた先生方は、もうこちらに向けて演習島を出たと」
今だってどうにもならない状況なのに、これで教官増えちゃったら……。
演習島へ行った教官たちのうち、どのくらいが副学院長の味方なのかは、実際にはわかんないと思う。
けど間違いなく学院長派のカーコフ先生は、取り残されちゃってるわけで。それを思うと、ほとんどは副学院長の一派なんじゃないかな? って気がする。
「そうなると面倒ですね……船が調達できればいいんですが」
学院長の声もちょっと暗かったり。当たり前だけど。
その時、シーモアが隣ではっとした顔になったの。
「どうしたの?」
「いや、船あるかも。――学院長、訓練島は?」
シーモアに言われて、学院長も「あっ」って顔になる。
「確かにあそこには、船が――カーコフ先生、今のは聞こえましたか?」
通話石の向こうの先生に、学院長が訊いた。
答えは聞こえないからわかんない。けど学院長の表情から見て、向こうも同意した感じ。
「ええ、ええ。行ってみる価値はあるかと。訓練島を預かる彼も、私の友人ですし」
学院長が「彼」って言うのは、訓練島の船着場に居るおじさんのことかな? だったら先輩たち、来られるかも。
「ええ、あとは……」
「静かに!」
学院長が言いかけたとこで、シーモアが低く鋭く言って。
(どうしたの?)
小声で訊いたら、彼女が低く答えた。
(誰か来たっぽい)
思わず身体が硬くなる。だってここに誰か来るって、隠し通路が見つかった、ってことだもの。
学院長が小声で状況を知らせて、通話をやめる。
それからあたしたち、黙りこくって耳をそばだてた。
しん……と静まり返る通路の中、確かに遠く、何かがガタガタいう音。靴音にも聞こえる。時々何かが反響したみたいな音は、声なのかな?
どっちにしたって、悪い知らせ。ここはあたしたち以外居ないはずなんだから、物音がすること事態おかしいんだもの。
ただずーっと聞いてたら、少しずつ遠くなってった。ここ全体が迷路みたいになってるから、どこをどう行けばいいのか分からないんだろうな。
(移動しましょう、こっちです)
通話を打ち切った学院長を先頭に、あたしたち狭い通路を歩き出した。