Episode:115
「付くにしたって、ふつうこっちだと思うんだけどね」
「んーでも、あの先輩、いじわると毒舌で有名だし」
ルーフェはいい人いい人言ってるけど、ぜーったいそんなことない。
あの先輩けっこういじわる。すぐ周りやり込めて、やられたって人もいっぱい。
だいいちルーフェだってしょっちゅう泣かされてるのに、なんであんなに懐くかな?
まぁそういう先輩だから、副学院長についちゃうってのはありそうだけど……。でもひどい目に遭ってるのはこっちなの、分かんないのかな。
とはいえ、あの先輩が敵に回っちゃったら、すっごく厄介だと思う。
なにしろルーフェが言うんだから、実力は確か。もう3年くらい前だけど、ルーフェとイマドとタシュア先輩の3人組で、突入演習の最短記録も出してるし。
「あぁもう、どうしてこう面倒なことばっかり起こるかなー」
「こういうときは悪いほうへ転がる、っては言うけど、たまんないね」
シーモアの言うとおり、ホントに八方ふさがり。
ともかく副学院長を何とかしなきゃなんないわけだけど、どう見たって戦力不足。先輩たちがみーんな演習島だから、戦えるのなんてホントに数人ってとこ。
対して教官は、なんだかんだ言ってもあたしたちの「先生」なわけで。
筆記教科は別として、実技担当なんて言ったら、やっぱり手も足も出ない。ルーフェは別かもだけど。
それからなんたって、集められちゃってるチビちゃんたちが足かせ。評判のことがあるからうっかりやれないとは思うけど、でも怪我したりしない範囲でひどい目に、っていうのは十分あり得るわけで。
それを考えると、迂闊なこと出来ないもの。
これに加えてタシュア先輩が向こうについちゃったとか……サイアク。
「ともかく、集まったほうがいいよね」
「そうですね。このままでは埒が明きません。せめてルーフェイアたちと合流して、策を練らないと」
言いながら学院長が、わざわざ用意してたって方の通話石を手に取った。
「誰か居ればいいのですが……おぉ、カーコフ先生、これをお持ちでしたか」
自分で自分が笑顔になるのが分かったり。
だってカーコフ先生って、実技の先生。だから今は、演習島に行ってるはず。そこと連絡が取れたってことは、つまり演習島の先輩たちとも連絡取れたってこと。
「先生、状況は――おや、既にご存知とは」
学院長がびっくりした顔してる。でもあたしももちろん驚いた。
だって演習島とここって、連絡取れてなかったはず。なのにカーコフ先生、どうして知ってるんだろ?
「――なるほど、10年生のAクラスの子が知らせに行きましたか」
話を横から聞いててまたびっくり。あの距離を知らせに行ったなんてすごい。
「ええ、私は何とか。そちらと同じAクラスの子が、助けてくれていますよ」
学院長がニコニコしながら言う。褒められた感じがちょっと嬉しい。