Episode:108
◇Natiess
「あぁぁ、貴重な魔法陣が」
壊れた牢見ての学院長の最初の台詞が、それ。入ってた誰かさんのことは、ちっとも心配してない。
しかも学院長ったら、あっちこっち触りながら嘆いてるの。
「この牢と魔法陣、300年以上前に敷設されたものを改良しながら来た、歴史あるものなんですよ」
「歴史ある牢ってヤかも」
思わずあたし、つぶやいちゃった。
だって、そんなものに歴史あってもねぇ。どうせだったらもっと、綺麗なものとか凄いものに歴史欲しいもの。
学院長のほうはそれどころじゃないみたいで、しゃがみこんだり伸び上がってみたり。
「……学院長、とりあえずここ離れますよ。教官どもが戻ってきたらヤバいですから」
見かねたシーモアに言われちゃったりして、これじゃどっちが年上だか分かんない。
「修復に幾らかかるやら……これでも一応、文化財としては貴重なんです」
「分かりましたから、とりあえず隠し通路」
言ってシーモア、学院長を引っ張ってってる。
にしても、この学院の建物がそんなに価値があったなんて、ちょっとオドロキかも。古いだけだと思ってた。
ちなみに古い建物だってだけあって、隠し通路のひとつが地下牢隣の物置に続いてたの。で、あたしたちそこから潜り込んだんだけど、誰も居なかった。牢の中は空っぽだし、見張ってる人も居なくて。
要するに、ルーフェ(だと思う、たぶん)が脱獄しちゃって、見張ってた人も探しに行っちゃった、ってことみたい。
ただ幸い牢は、思った程は壊れてなかった。上のほうに鉄格子のはまった窓があったって学院長は言うんだけど、被害はそこが大穴になってるくらい。たぶんあそこから出てったんだろうな。
とりあえずそれ以上見るとこなさそうだから、みんなで隠し通路へ戻る。
「建物崩れなくて、よかったですねー学院長」
「確かにそれは僥倖ですが、地下牢が……」
学院長、やっぱりちょっとショックみたい。
「あれを修理するとなると、大変なんですよ。いったい幾らかかるやら。学院もそんなに余裕があるわけじゃないんですが……」
そこか、と思っちゃったり。まぁ確かに何をするにも、世の中お金が要るわけだけど。
「だったら学院長、ルーフェイアに請求すりゃいいんじゃないかい? あの子だったら出せるだろうし」
「あぁ、確かにそうですね」
シーモアの提案に、学院長がなるほど、って顔をする。