Episode:107
(まぁ、様子を見ますか)
自分が居るとは教官たちは思っていなかったようだし、イマドをからかっておいたので生徒たちも慌てているだろう。
意図したわけではないが、両方の陣営に横槍を入れた格好だ。なら少しのんびりして、また何か動きがあってからでも十分だ。そもそも、何かをする義務も無い。
ふと見ると、目の前の図書館の扉が少し開いていた。この騒ぎで閉め忘れたらしい。
(借りていきますか)
たしか、面白い新刊が入っていたはずだ。
ふらふらと館内へ入り、面倒なので灯りをつけぬままとりあえず棚を見たところ、首尾よく目当ての本を発見した。
手にとって勝手に貸し出し手続きをし、片手に図書館を出る。
(一旦戻りますかね)
このままこの辺をウロウロしていても、しばらくは何も起こらないだろう。だったら部屋へ戻って学内の様子を魔視鏡でさぐりながら、のんびりしていたほうが楽だ。
図書館の外へ出ると、低学年たちがわさわさと動いていた。食堂を出てくるグループと入るグループとが、入り口の辺りで右往左往している。おそらくタイミングが一緒になって、狭い入り口を塞いでしまったのだろう。
(少し考えればいいものを)
そんなことを思いながらも横目で素通りし、講堂もそのままスルーして、タシュアは一旦自室へ戻った。
(さて……)
2台あるうちのひとつ、学内用の魔視鏡を立ち上げる。
部屋を出る前に確かめたとおり、学内の通話網は生きている。だったらそこを傍受すれば、大体のことは分かるはずだ。
(教官たちのはこれでしたね)
本来通話石は、傍受が非常に難しい。オリジナルの石と共振する子石の間でしか、通話が成立しないためだ。
だが横断的に通話を可能にする高位通話石が発案されたことで、そこへ割り込む形で傍受ができるものへと変貌していた。
タシュアが何度か魔視鏡を操作すると、発声器から音が流れ出す。
(活発ですこと)
低学年の食事の入れ替えの様子、あるいは講堂の様子が、次々と報告されていた。
傍受される可能性を承知で偽の情報を流している可能性もあるし、使われている魔視鏡網自体もこれひとつとは限らないが、それでもおおよそのことが分かりそうだ。
(あとは待ちますか)
教官たちの騒々しい報告を頭の片隅で聞き取りつつ、タシュアは図書館から借りてきた本を広げた。