Episode:106
「上級隊は演習だろう!」
「任務でしたので」
それだけ答えて、タシュアは軽食の残りを口に運ぶ。
目の前の教官は何か言いながら武器を向けようとしたが、別の教官が来て何か囁き、結局何も起こらなかった。
(こういう損得勘定は出来るのですねぇ)
ならば今回の騒動の損得も計算すればと思うが、彼らにとってはメリットのほうが大きく見えたのだろう。
この間にイマドは姿を消していた。イザとなるとプライドなどあっさり捨てて、なりふり構わないタイプなだけある。
(――さて、後輩たちはどう出ますかね)
少しは慌ててくれると面白いが、その辺が確認できないままだ。まぁどさくさ紛れに急いで姿を消しているので、多少は本気にしたかもしれないが……。
そうしているうちに、別の一団がまた入ってきた。順番にと言ってもかなりハイペースで入れ替えるつもりらしい。
(うるさくなりましたね)
普段の食堂に比べれば、がらがらと言っていい程度だ。だが人が入ってくればそれだけ騒がしくなる。
お茶を飲み終え、トレイを手にタシュアは立ち上がった。
「ど、どこへ行く!」
「どこへ行こうと自由だと思いますがね。私の場合演習は任務で免除されていますし、講堂へ行く必要もないはずですし」
教官たちにしてみれば目の届くところに置いておきたいのだろうが、従う義理はなかった。
それで退学と言われても、タシュアとしては一向に構わない。学院にある程度従いつつ居ついているのは、単にそれが楽だからだ。別にここを追い出されても、生きていくくらい何とでもなる。
「ご馳走様でした」
言いながら食べ終えたトレイを所定の位置に置き、食堂を出る。
ダメージを与えて置き去りにした教官は見当たらなかった。既にどこかへ運ばれたらしい。
(さて、どこへ行きますか)
月明かりの下考える。そもそもが任務を早く片付けたがための空き時間だ。予定などあるわけがなかった。
現時点でいちばん面白そうなのは、この状況を引っ掻き回すことだ。双方が互いの思惑で動いているところへ、両方に対して横槍を入れる。大混乱は必至で、いろいろな意味で楽しい見世物になるだろう。
だが。
(面倒ですしねぇ……)
確かに面白いは面白いのだが、労力に見合わない気がする。