Episode:105
「あなたはどうするのです?」
「俺ですか? 食ったんでまた出ますよ。アイツ1人に任せとくわけにゃいかないんで」
「ありきたりですね」
もっとも、それが悪いわけではない。時間を稼いで援軍を待つのは定石だ。だが、確実に勝ちに持っていくには足りない。
こちらの言葉が意外だったのだろう、怪訝そうな顔でイマドが訊いてきた。
「そういう先輩はどうするんです?」
「何もするつもりはありませんよ、今のところは。もっとも暇ですからねぇ……さて、この状況ですとどちらにつくと面白いですかね」
後輩は表情を変えなかった。ただ多少雰囲気が変わった気はするから、何か考えてはいるようだ。
その後輩に視線を向けたまま言葉を続ける。
「油断しきった目の前の後輩を捕らえても面白そうですね。ルーフェイアも釣れるでしょうし、高く売れそうです」
「――あいつらじゃ踏み倒しそうですけど」
後輩が軽口を叩いたのとほぼ同時に、あらぬ方向から嬌声が響いた。
「ごっはーん! おっなかすいたー!」
「ミルドレッド、ここは騒ぐところではありませんよ」
言わずと知れた学院一のトラブルメーカーが、取り巻きを連れて食堂へ入ってくる。
「えーでも、お腹すいたしー」
「だからと言って、騒いでも空腹は治らないと思いますがね」
言いながらざっと見た感じ、勝手に出てきたわけではなさそうだ。武器を手にした教官たちが、子供たちの後ろに居る。
(食事だけはさせることにしましたか)
見た感じ五月蝿さに耐えかねて渋々のようだが、放置よりはマシだろう。あるいは、ミルドレッドが大騒ぎしたのかもしれない。
(まぁ考えがあって……とは思えませんが)
もし仮にあったとしても、彼女の場合起こす騒動で帳消しだ。
入ってきた人数は、およそ2クラス分ほど。順番に食べさせるつもりらしい。
「誰かー、ごはんー」
「おうっ! 座れ座れ、今すぐ食わせてやる」
厨房から従業員たちが飛び出してきて、食堂内が慌しくなる。
と、教官の1人がタシュアへ視線を向け、足音も高く寄ってきて声を上げた。
「何故ここにいる!」
「夕食を摂りに。ここは食堂ですから」
答えが意外だったのか、一瞬教官が立ち尽くす。そしてすぐ、また声を荒げた。