Episode:103
「で、あなたはそのまま逃げ回っていると」
「逃げ回ってるっつーか、たまたまダチと一緒だったんで、見つかったときとっさに教官たち引き付けただけですってば」
イマドはあまり深く考えずに言ったようだが、見過ごせない情報だった。
「ダチと」と言うからには、外に他にも居たはずだ。だとすると案外逃げた生徒が居そうだ。
「その後逃げているなら同じだと思いますがね。ところで、他に誰が講堂から逃げ出したのです?」
タシュアの問いに、後輩がすらすらと答えた。
「逃げ出したってより、捕まらなかったってほうが正解ですけど――アーマルとヴィオレイ、あとシーモアとナティエスが逃げてますね。他に診療所にも何人か居るとか。ミルのヤツは逃げてたけど、なんか捕まったらしいです」
「あれを捕まえてどうする気やら……」
思わずそんな言葉が口を突いた。
何しろあのミルドレッド、ありとあらゆるものを引っ掻き回す天才だ。敵に居てもたまらないが、味方に居たらもっと困る。
そんなものをわざわざ捕まえるというのだから、物好きとしか言いようが無い。
教官たちのレベル低下は予想以上だと思いながら、タシュアは確認した。
「逃げ出したのはそれだけですか?」
「俺も全部は知らないんで。あーあと、ルーフェイアのヤツが逃げてます」
「おや、命令無視とは珍しい」
ルーフェイアは良くも悪くも優等生で、教官に逆らうようなことはまずしない。なのに逃げ出しているというのは興味深かった。
だがそれを横からイマドが否定する。
「あー、別にアイツ、講堂から逃げたとかじゃないですよ。一番最初に居なくなっちまって俺ら探してたんですけど、地下牢に入れられてたらしいです」
「何をしているのやら」
ある意味ルーフェイアらしいが、そんなところに入れられるとなると素直も行き過ぎだ。
だいいち普段の彼女の素行から見ても、何か非があるとは思えない。逆に言うなら言いがかりでしか収監できないわけで、ならば徹底的に説明を求めれば済む話だ。
けれど大人しく収監されたというのだから、それもせずに言いなりだったのだろう。
ただ今は「逃げている」というところから考えるに、牢破りはしたようだ。
(よくまぁあの子が、そんな型破りをする気になりましたねぇ)
深く考えず他人に従うだけと思っていたが、多少は考える頭が出来てきたらしい。
「で、ルーフェイアはそのまま霍乱ですか」
タシュアの言葉にイマドがため息をついた。
「さっきまでここに居ましたよ。けどあいつ、俺の身代わりしに飛び出しちまったんで」
「彼女に囮を任せて自分は食事と」
からかわれて、更にイマドが大きなため息をつく。