Episode:102
「いや、そういう意味じゃなくて」
「そちらが何も言わないのに意図を理解しろなど、無理難題を言われても困りますね」
答えが予想外だったのだろう、もう一度唖然としてから、従業員は話し始めた。
「えぇとだから、下級生が食べに来ないんだ。上級生が来ないのは演習だから分かるんだが、下級生が来ないのはおかしいだろう?」
「そうですね」
カップに入ったスープを口に運びながら同意する。
(……イマイチですね)
しばらく置いてあったのか、スープはやや冷めていた。火から下ろしたての熱々のほうが美味しい種類なのに、これはあまりよくない。
従業員のほうは、タシュアの同意の言葉を「話の続きを促している」と解釈したらしい。また話し始める。
「なんか、下級生が講堂に集められてるらしいんだが……何か知らないか?」
「ご自分の目で確かめてきてはどうです?」
「え、でも、見張りが」
「先ほど入ってきたときは、怪我でもしたのか倒れていましたがね」
自分がやったことは棚に上げて言う。
「ホントか?! それなら、もしかしたらあの子達に夕食を――あ、そうだ、奥に逃げてきた生徒が1人居るんだ。いろいろ知ってそうだから呼ぶよ」
気を利かせたつもりなのか、バタバタと従業員が奥へ走っていった。
(食事中のところで、走らないで欲しいのですがね)
しかも頼んでも居ないのに、さらに人が増えるらしい。
だが奥から覗いた顔を見て、タシュアは別の言葉を口にした。
「こんなところで、何をしているのです」
「先輩こそ、なんでここにいるんですか」
言いながら厨房の奥からイマドが出てくる。
「私は単に、任務帰りで仮眠していただけです。あなたこそ、何故講堂に居ないのですか」
「こっちが外にいる間に、あいつらが勝手に集めたんですよ」
「島内にいるのに命令が分からないのは、問題だと思いますがね」
言いながら考える。
自分も気づかなかったのでそうではないかと推測していたのだが、やはり一斉放送等は使われなかったようだ。おそらくは教官が寮へ出向いて、低学年だけを集めたのだろう。
(講堂に上級生を入れないため、といったところですか)
タシュアがそうだったが、大掛かりな演習があっても上級生、特に上級隊は任務がらみで寮に残っていることがある。
だが人質にするなら無力なほうがいい。そのために全員集めようとして上級生に知られるより、多少取りこぼしたとしても、人知れず下級生だけを集められる方法を取ったのだろう。