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 地獄の洞窟

 暫くしてオーストラリア軍のトラックが数台、玄関の前に停車しました。


伊藤(元衛生兵)さん達と緒方(元軍医長)さん以下元ラエの野戦病院医療班は先頭のトラックに乗り込み、先導する事になりました。

私はトラックのバンパーポールに『赤十字の旗』を括り付け、急いで乗り込みました。

二台目に金田さん、徳丸さん達が乗り込みました、

そして三台目のトラックにはオーストラリア軍の将校と兵隊さん達が乗り、海岸線をハンサ方面に向かいました。

途中、白旗を掲げて進む日本兵の集団とすれ違いました。

彼等は見るも無惨な姿で、マダンに向かって歩いて行きます。

オーストラリア軍の車輌を見ても何も反応を示しませんでした。


 三台の軍用トラックはアイタペの元日本兵達が籠(コモ)る洞窟の近くに到着しました。

そこからは全員がトラックを降り、川沿いを徒歩で向かいます。

暫く進むと、またあのガジュマルの樹の上から、


 「止まれッ!」


の声が掛かりました。

緒方さんが『赤十字の旗』を高く掲げて、


 「伊藤サンから知らせを聞きました。迎えに来ましたよ」


と大声で伝えました。

すると樹から降りた元日本兵は急いで洞窟の方に走って行きました。

暫くすると洞窟の中から元部隊長代理(菅原元中尉)が、三人の兵隊を伴い私達の前に現れました。

菅原さんはオーストラリア軍の将校を見ると不動の挙手の敬礼をし、手に持った『軍刀』を両手で差し出しました。

オーストラリア軍の将校も菅原さんを見て敬礼をすると、軍刀を丁寧に『片手』で受け取りました。

将校は、


 「センソウハオワリマシタ。オタガイニ、ニドトアジワエナイケイケンヲシマシタ。イマノワタシハ、アナタタチヲタスケルセキニンヲ、オッテイマス。サア、ワタシタチヲ、ソコニ、アンナイシテクダサイ」


と言いました。

私はオーストラリアの将校の言葉を聞いて、涙が止まりませんでした。

確かに、『二度と味わえない貴重な経験だった』のですから。


菅原さんは暫くの間、将校をジッと見詰めていました。


そして肩を落とし、深々と頭を下げ私達を洞窟に案内しました。

洞窟の前には、沢山の痩せた元日本兵が整列して居(オ)ります。

全員が俯いています。

菅原さんは、その中の一人に何か話しをています。

すると、全員がオーストラリア軍の将校の前に集まりました。

将校は五人のオーストラリア兵を呼んでトラックに乗せる様に指示しました。

多数の残兵はトラックに向って歩き出します。


 菅原さんは三つ目の洞窟に緒方さん以下の医療班とオーストラリア将校、金田さん、徳丸さん達を案内しました。


三つ目の洞窟は伊藤さんが地獄と称した、傷病兵が集められて居る洞窟です。

菅原さんがニッパ椰子の葉で編んだ扉を開けました。

ハエが数十匹、外に飛び去り、暗い洞窟に『光』が差し込みました。

最初に緒方さんが洞窟を覗きました。

すると緒方さんは俯いて『深く合掌』しました。

暫く動かない緒方さん(元軍医長)・・・。

私達医療班も洞窟の中を覗きました。

私は直ぐ目を瞑(ツム)りました。

金田さん、徳丸さん達も覗きました。

そしてオーストラリア軍の将校も覗きました。

将校は覗くやいなや、


 「Oh Jesus Christ !」


と叫びました。

誰も中には入って行けないのです。

洞窟の奥の壁に軍服を纏った二つの遺骨が、太陽の差し込む光に照らし出され『戦争の惨禍』を見せ付ける様に、寄り添いながら亡くなって居ました。

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