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3話

入り組んだダンジョンには、いくつもの空間がある。

通路の先に広がる小部屋、天井の低い洞、崩れかけた広間。同じダンジョンでも、それぞれの空間はまるで別の場所のように性質が異なる。

そうなると、当然そこに住む魔獣や植生も大きく変わってくる。


ミミックが訪れたのは、他の空間に比べて一段と大きな場所だった。

天井は高く、壁の亀裂から滲み出す水が地面を潤している。

そのため床には、厚く苔が広がり、淡く光る菌類が点在していた。


空気はひんやりとしており、常に湿り気を含んでいる。

他の区画にありがちな血や腐敗の匂いはなく、

代わりに、土と水が混じった静かな匂いが漂っていた。


この空間では、争いが少ない。

それを示すように、床には砕けた骨や爪痕は見当たらず、

苔の絨毯は長い時間、踏み荒らされることなく保たれている。


理由は明白だった。

ここを支配している主のおかげだ。


広間の中央に、それは横たわっていた。


体高は三、四メートルほど。

重心の低い、丸みを帯びた巨体が、苔に覆われた地面に横たわっている。


分厚い皮膚の上には深緑の苔が根づいている。

呼吸に合わせ、微細な胞子がふわりと舞い、

広間は淡い光に包まれていた。


頭部には、大きく湾曲した角。

表面には淡く光るキノコが定着し、一帯を照らしていた。


半ば閉じた瞼の奥で、目がぼんやりと光っている。

敵意はなく、ただ静かに周囲を感じ取っているだけだ。


その腹の下、苔の上には一つの小さな影が寄り添っていた。

魔獣の子だ。


この魔獣は、普段はとても温厚。

一日の大半を眠るか、コケやキノコを食べて過ごしている。


だが、敵意にはとても敏感だ。

わずかな害意、視線の揺らぎ、距離の詰め方――

それらを見逃すことはない。


特に、子に向けられたものとなれば話は別だった。

その瞬間、眠たげな気配は霧散し、巨体は一転して、縄張りを守る存在へと変わる。


暴れれば、この空間そのものが崩れかねない。

それほどの力を持ちながら、

普段はそれを使う必要がないだけだ。


ミミックは、そっと距離を詰めていった。苔を踏み荒らさないよう、少しずつ進む。

魔獣は何事もないように横たわったままだが、眠たげな眼はミミックから離れない。

その視線は鋭さよりも重さを帯び、一挙手一投足を測っている。


ミミックは、そこで動きを止めた。

そして、蓋をわずかに開く。

内部から赤ん坊をそっと持ち上げて、抱え込むように見える位置へと差し出した。


赤ん坊は眠っている。

小さな胸が、かすかに上下していた。

その姿を見た瞬間、魔獣の眼差しが変わる。


しばらくの沈黙の後、

魔獣は、ゆっくりと瞼を閉じた。


どうやら、敵意がないことを理解してくれたようだ。


魔獣の傍に近づいて、赤ん坊の頭と体をしっかりと支えながら、魔獣の乳首に近づけた。

ぼんやりと目を覚ました赤ん坊は、うつらうつらしながら探るように口が開き、乳首に触れた。


次の瞬間、小さな吸う音が立った。

喉がきゅっと動き、胸が規則的に上下し始める。


数分経つと、その間隔は次第に長くなり、まぶたが、再びとろんと下がった。

半分開いたままの目は焦点を失い、口はまだ乳首を捉えたまま吸う力だけが弱まっていく。


もう一度、小さく吸って――

それきり動きが止まる。

赤ん坊は、そのまま眠りに落ちていた。


授乳は成功した。


日が巡り、赤ん坊の授乳と眠りを繰り返すうちに、

ミミックは二つの悩みを抱えるようになっていた。


一つは、日課であった巡回に行けなくなったこと。

理由は単純。赤ん坊が授乳を終えても少し経てば、腹が空いたと泣き出すからだ。

一度だけ巡回に連れて行ったことがあったが、途中で泣き出され、帰ってくるのに苦労した。

だからといって赤ん坊を置いていくのもなんだか落ち着かない。


二つ目は、赤ん坊の身体の変化。

抱き上げたときの重みが、明らかに減っている。

体つきも、少しずつ細くなってきているし、泣き声も弱くなってきているように感じる。

魔獣のミルクが、人間の赤ん坊に合っていないのか。

ミルクそのものに問題はなく、十分な量を飲めていないのか。

あるいはその両方。


赤ん坊が泣き出せば、ミミックはすぐに授乳していた。

間隔を空けることもなく、求められるまま与えてきた以上、量が不足しているとは考えにくい。


そうなると、可能性が高いのは前者。

魔獣のミルクが赤ん坊に適していない。


どちらにせよ、早急に手を打たなければならない。

これは赤ん坊の成長――ひいては命そのものに関わる問題なのだから。

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