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プロローグ
ふわふわ、ふわふわ。
暖かい風が花弁をゆらりと持ち上げて、ネモフィラの優しい香りを運ぶ。
少女は目を細める。目の前の少年の、春風に揺れる黒い髪を眺めた。彼は花畑にしゃがんで、熱心に花を吟味している。当然だ。彼の主である少女に献上する花は、ここらで1番綺麗なものでなくてはありえない。
少女は息をつく。雲ひとつない空を見上げた。今日はなんて良い天気なんだろう。
「フィーネ様」
呼びかけた声に少女が振り返ると、少年は悩んだ末に選んだ1輪のネモフィラを持って彼女を見上げていた。
「わぁ、綺麗!」
「…失礼します」
彼は少女の三つ編みの先を引き寄せて、結目にその花を差し込んだ。彼女の淡い栗色の髪に、ネモフィラの青がよく映える。
「よし」
「よしじゃない、下手くそ!これじゃすぐ取れちゃうわ」
少女は不格好に飛び出た茎の部分を、右手でくるくると結目に巻き付けて結ぶ。
「ふふふふ、どう?可愛い?」
「ええ、とても」
そう答えて破顔した少年の髪に、少女は不意打ちとばかりに左手に持っていた花を差し込んだ。
「わっ!なんですか」
「えへへ、おそろーい!ヴェルったら可愛い〜」
「……」
可笑しそうにころころ笑う少女を、顔を赤らめた少年が不服そうに見つめる。ふと強い風が吹いた。2人は足元でさわぐ花畑を見て、どちらからともなく笑い合った。




