―戦― 01:ルルゥー始まり
世界を覆う毒・ウラノメトリア。ありとあらゆるものに降り続くそれは、まるで終わらない報いのないような雨のようなものだった。
少なくとも、ルルゥにとっては。
「ねえさま」
隣に立つ双子の姉に、降ってくるそれを掌で受け止めようとしたができず、戸惑いながら声をかける。
「これ、なんでしょう?」
ウラノメトリアという名を知らないルルゥは、雪のようだと思っていた。きっと姉ならばコレを知っていると思っていたのに。
「なにを言っているの、ルルゥ」
姉は見えていないようだった。いや、コレはそもそも見えないものではあるのでその反応は正しい。
ルルゥは目を少し見開き、そして視線を空へと戻す。ちかちかと明滅するような光を放つこの雨を、姉は見えていないという。雨や雪のように、はっきりと目にもできず、手に触れる感触すらない。幻にしては魅惑的であり、そして恐ろしいものだった。
微かな光を発するそれらは地面にも、石にも草木にも、家屋にも降り続けている。そしてそこに沁み込みように消えていく。もちろん、ひとの身体にも。
ポルックス家の邸の中に戻るように母が声をかけてくる。穏やかな母親に姉が元気よく返事をして駆け出す。そんな姉の姿に反応が遅れた。そして微かに伸ばした手を引っ込める。
(……ねえさま、転ぶからってあれだけ言っているのに)
お転婆な姉は生傷が絶えない。そのことを両親は心配している。自分よりも優秀な出来の姉は、ルルゥにとっても大切な存在だった。
掌を握り込み、ルルゥはゆっくりと歩いて邸に入っていった。今日は転ばなかった姉が大きくこちらに手を振っている。……いずれ姉も自分もどこかの家に嫁ぐのだろう。
ルルゥにしか見えないその光景のことを、彼女はほぼ話すことはなかった。見えてはいけないものが見えているということは、彼女にとっては鬱陶しいものでしかなかったからだ。
(きんいろの、雨……)
表現するなら、それは黄金のような光だった。
「戦」の章、開始です。
トゥラーザ国の双子の軍人姉妹、ルルゥ=ポルックスの物語となります。




