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―開― 15:幽玄 世界会議 後編


「では、これからの戦争の話をしよう」

 ずらりと円状に座っている首相たちの年齢はさほど差がない。彼らの背後に立つ、それぞれの国を代表するかのような軍服姿のハンドラーたちが場違いに見えるほどだった。


 連合国テラスト。かつて残虐非道とされたハンドラーのアネモネが所属していた軍事国家であり、九つの国の集合体だったそれ。

 痩身で神経質そうな表情の男の背後には、深紅と漆黒の軍服を着ている、ほぼリゲルと同じくらいの年齢の男女が立っていた。一人は無表情の眼帯の美少年。もう一人は視線を彷徨(さまよ)わせている挙動不審な赤髪の少女だ。どちらか一人が、賊を追い払ったハンドラー候補生なのだろう。

 ヨリルアの首相は視線を動かして確認をする。どう見てもリゲルと同じ子どもが、五大国の首相の後ろにいる。若ければいいというわけではない。有能なハンドラーだけが、ここに居るのだから。


「ほぉ」


 どこか感心したように、アスバの首相が声を洩らした。彼女の背後には、(だいだい)の軍服を着たいかにも自信満々という様子の娘がどこか(さげす)んだ視線でじろじろとテラストとトゥラーザ、そしてヨリルアのハンドラーを見ていた。あの様子からして、彼女は貴族出身の軍人なのだろう。

 貴族には貴族特有の所作がある。ファルスの首相の後ろに立っている二十歳くらいの青年も堂々として、笑みまで浮かべていた。それとは逆に、興味などないと言わんばかりの雰囲気なのが、貴族ではないハンドラーたちだった。ただ命じられたのでここに居るというのは、その雰囲気から察することができる。


 リゲルも一応貴族出身ではあるが家門は没落し、名ばかりのもので矜持(きょうじ)などもない。暮らしに困っていたから軍に入っただけのリゲルはハンドラーの才能があったわけだが、軍属になった貴族は苗字を名乗れない規則がある。破門されているからだが、どれだけ有能な軍人になろうと、貴族の領地管理を放棄して国の消耗品となった者の価値は貴族社会ではないに等しいのだ。


(五大国のハンドラーが、揃いもそろって十代後半の子ども……)


 おそらくスコアクラスは最高値である(セブン)に近いもののはず。二人いる場合は片方はハンドラー専用のラヴァーズということだ。壊れにくいラヴァーズがいるというのは、諸刃(もろは)の武器である。相性が良過ぎると、代替品がきかなくなる。

 トゥラーザ国の若い男の背後には双子の少女が立っている。紫色の軍服を着ている彼女たちは他国からすればどちらが姉で、どちらが妹なのか区別がつかなかった。


 十代の兵士は珍しくもない。問題なのは、それがハンドラーであるということだ。スコアが高くなければここにはいない。多少性格に問題があろうと、能力によって選ばれただけなのだから。

 ぎり、とヨリルアの首相が小さく歯噛みした。

(リゲルと同等……と、みるべきか)

 五大国を除き、あからさまな若さを持っているハンドラーは97の國くらいだった。黒髪黒目の少年は飄々とした態度で口笛を吹いた。にやついているのを咎めないのは、咎めるべき者がここにいないからだ。


 対話で解決できる時間はもう過ぎている。取引ができる有効な手段はもはやどこにもない。

 敗北宣言をしてしまうか、それとも相手を退(しりぞ)け、もしくは他国を従属させるか。

 一番に口火を切ったテラストの首相が続けた。

「戦争は国を疲弊させる。我が国に降伏すれば、荒らしはしない」

 はっきりと響いた声に、興味を示さないハンドラー以外は反応し、空気がひりついた。大胆不敵にもほどがあるが、おそらくグラス戦争からテラストは他国を占拠することをずっと狙っていたはずだ。なにが理由であれ、97の國の事件が真実であるならば、この国は軍事力で応戦するはずだ。


「国務の頭がよくもまあ、堂々と」


 (あざけ)るようにファルス国の首相が言い放つ。

「他国の資源を狙うハイエナの本性が出たということかね」

「どこの国も資源は底を尽き始めているのは事実。『差し出せるもの』が、もはやどこもない。あるのは、『すべて』だろう?」

 二つの国の頭の言葉に、その他の国は様子見を通していた。

 各国の内部紛争は尽きないため抑止の軍が存在する。そしてその最前線で戦うのが、ハンドラー。彼らは自国の民たちが少ない資源の奪い合いをしているのを鎮圧し続けているのだ。だがそれも、もう無理ということだろう。

 戦って負けても、属国になるわけではない。97の國が名を奪われず、占拠もされていないのは……。

(他国に堂々と入って『資源を奪う』。これではまるで)

 ちらりと背後のリゲルを見るが、彼は両手を腰に回してぼんやりと立っているだけだ。こんな少年ではあるが命令には逆らわない。当然ながら、実戦経験もある。


(侵略戦争……!)


 いや、侵略ではない。欲しいのは『資源』のみ。資源を消費する『ほかのもの』は不要だ。国という境界線を引いている以上、そして自国を存続させるための戦争なのだ。どこの国も他国の蹂躙(じゅうりん)を受け入れるわけにはいかない。これは話し合いの場ではなく、ただの宣戦布告の場にすぎない。

 貴族たちが黙ってはいないだろうが、『ハンドラーのみ』同席可能ということですべての答えは出ているも同然だった。階級に関係なく、軍事力をもってすべてを解決する、ということだ。

 資源を消費するのは国民も含まれているため、そこに階級という垣根はない。すべての人間が対象になる。貴族だけを守る、権力のある者だけを守るなどという生易しい段階はすでに通り過ぎているのだ。それでもそれぞれの国は他国への侵略をしなかった。


 すべては、三百年前のグラス戦争があったからだ。


 九つの国の集合体であるテラストから、トワイライト・レガリアという少数精鋭部隊が現れ、彼らの中でも最もハンドラーのスコア数値の高かったアネモネが暴走し、敵味方問わずに蹂躙をしたため、『一時的に』テラストの内側から、そして外側からアネモネを鎮圧することとなった。

 アネモネが処刑されてから数年後、改良されたマギナに乗るハンドラーはラヴァーズをつけることで軍事力としてより有効で効率的な『武器』となる。グラス戦争時には、ハンドラーは独力で戦うこととされていたが、それでは使い潰すことになるうえ、アネモネのように暴走されては大きな犠牲を伴うこととなるからだ。

 記録すらない、古い時代……喪失技術の時代に創られた最悪の兵器の残滓であるウラノメトリアによってあっという間に人口は減ったという。人間は約百年生きることができた個体もいたそうだが、今の時代にそんなことは不可能だ。

 なまじ知能があるだけに、人間は意地汚く、生きることに固執し続けている。滅びることを受け入れられない。


「国を挙げてねじ伏せるのも資源を使う……いっそ、代表のハンドラーたちで勝ち抜き戦でもすれば話が早いのでは?」


 アスバの首相である女性の口からの言葉に、背後の少女がにやりと笑った。


「冗談じゃない! 遊びではないのだ! そもそも『国の代表がそんな子どもばかり』というのも情けない!」


 どこかの国の代表がそう言いだすと、(なら)うように「そうだそうだ」と言い始める。その中に、五大国は入っていない。彼らは目を細めるだけだった。ヨリルアもまた、自国最強のハンドラーであるリゲルが、この少年が大人しく負けるとは思っていない。

 対話で解決できない。それをはっきりと思い知らされる。

 ハンドラーたちにアネモネの(てつ)を踏ませるわけにはいかない。踏ませたら自滅してしまう。

 とうとうトゥラーザの首相がお手上げとばかりに肩を大仰にすくめてみせた。

 話は平行線になることを誰もが理解していた。まったくもって、意味のない場である。



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