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―開― 10:97の國 野営訓練ー襲撃


 ナナミは「は~」と溜息をつく。

「なんでハンドラーの学校なのに、わざわざこんなことせにゃあかんの……」

「マギナが破壊されたら徒歩で戻ることもある。色々想定しているんだ」

「わーってるよ。練習機くらい貸してくれてもいーと思うのさ、おれは」

 ぶちぶち言いながらも、周囲に目を配っている。なんだかんだと、ナナミはやる男なのだ。


「あんま話したことないよな。よろしく」

 人慣れしたようににこっと笑うナナミに、穏やかな笑みで応じたのはケイドだった。(だいだい)色の軍服姿なので、アスバ国の出身なのはすぐわかる。

「ど、どうも」

「ただのバーベキューならいいのに。キャンプならいーのにな~」

「ナナミ、ケイドが困ってるじゃないか」

「そうよ!」

 エニフとナシラから同時に叱られ、「うへえ」とナナミは情けない声を出す。

「真面目すぎんだよ……。あ~、リシウスはどっから攻めてくるかなぁ」

「陣取り合戦じゃないのよ? 一週間生きるのが目標なの」

「いや~。でも出発の合図がしたと思ったらあいつさっさといなくなってたから、おれらの食糧奪いに来るかもよ?」

 それも一つの手ではある。それぞれ手頃な場所に陣取り、拠点を作って七日間生きるのが今回の課題だ。指定された範囲から外に出ると大きく減点されることとなっている。


彼女(ニアナ)を放置して一人で乗り込んでくるとは思えないな。トーのいる班には狙われてるだろうから」

「あー、そういやそうだ。確かにリシウスにぎゃふんと言わせる絶好の機会かもな」

「ギャ、フン……?」

「死語だよ死語! あーもうやだやだ。空を見上げてもどんより。おれの心もどんより」

 どんよりではない空などないというのに、ナナミは本当に不思議な男である。そもそもバーベキューの道具など一切ない。


「蝉はうるさいし、暑いし、食糧は三日もてばいいほうだから、調達しろってことだよな」

 ぶつくさと文句が尽きないナナミに、ケイドは苦笑している。気にしないでと、ナシラが彼に目配せをしていた。

 標高や位置を確認しながら、エニフが荷物の確認をする。雨の心配はないのだけが幸いだ。日陰を作らなければ体力は消耗していく一方だろう。水場の確認もしなければならない。それが飲み水として使えるかも。


 火を(おこ)すのに乾いた枝も必要だ。分担して動くのが一番いい。

「二人一組で動こう。ナシラは……」

「お邪魔になるからおれは、えーっと、ケイドと行くわ」

「おっ、お邪魔じゃないわよっ!」

 真っ赤になって否定するナシラに対して(うなず)く真面目顔のエニフ。ナナミは物凄く嫌そうな表情を浮かべる。それからすぐに同情的な視線を向けた。

「ナシラ……がんばれ」

「ち、違う! そんなんじゃないわ!」

「んで、ケイドはおれでいい? やっぱ女子とがいい?」

「いや、僕はきみとでいいかな」

 困ったように後頭部を()くケイドに「違うから!」と必死にナシラが(わめ)いている。気にせずにエニフが方位磁石を取り出した。

「時間も決めて、周辺に気をつけて行動すること。教官たちが指定したからには放置されてる山とは思えないけれど、そう思っていたほうがいい」

「はいよ~」

 軽いナナミの返事に、そこにいた三人が心配そうな表情を少し浮かべたのだった。




 焚火のために乾いた手頃な枝を集めながらエニフとナシラは進んでいた。獣道(けものみち)とまではいかないが、それでもあまり遠くまで行くと迷子になりそうだった。二人とも、山に入ったこと自体が初めてだ。

 黙々と周辺を探索しながら枝を拾っていくエニフに、ナシラはどこかそわそわした様子であとに続いていた。


「エニフ!」

「? どうかしたかい?」

 なにかあったかと振り向く彼に、ナシラは頬を赤くして少し肩を落としている。

「ナナミと組んだほうが早かったのに。ごめんなさい」

「謝ることはない」

 軽く首を左右に振ってみせるが、彼女はそれでも表情が暗いままだ。ラヴァーズ候補の少女たちよりも体力はあると自負していてもそれでも、色々な面で男性には敵わないのだと知っている。


「……ニアナは女性だ」

「え?」

 真っ直ぐに見てくるエニフに、ナシラは戸惑いの声を洩らす。彼は少し(うつむ)いたまま続けた。

「あれほど自信がなくても、彼女のスコアに届かない。彼女ほどの才覚があれば、国に戻ってハンドラーになっても誰かを守れると思う」

「…………」

「戦闘面ではリシウスにも(かな)わない。あれほど強ければ、易々(やすやす)と誰かを守れるのにと思う」

「そう、ね」

 ナシラも頷く。ないものねだりではあるが、あの二人ほどの力量があれば多少は、誰かを守るために行動できるのではと思う。


 守るために軍人になるのだ、とエニフは言外にいっているのだ。だから才能のある者を(うらや)む。羨むが、努力は(おこた)らない。

 別の国だ。お互い頑張ろうと声をかけることはできない。場合によっては敵対することもあるのだから。

 しばらくして、ナシラは小さく(つぶや)く。

「ニアナ、って……どんな子だったかしら?」





 二日ほど経過すると、用を足して戻ってきたナナミが妙な表情をしていた。なにか拾い食いでもしたのかとエニフが(うかが)う。

 空は夜の闇に塗り潰されている。焚火を囲んでいた面々は、ナナミが口を開くのを待った。

「……トーの班だと思うんだが、あいつらなんか目的があって移動してるみたいなんだよな~」

 その言わんとしていることに気づき、ナシラが呆れる。目的はおそらく、リシウスの班だろう。

「本当に馬鹿ね。返り討ちにされるわよ」

「夜であることと、リシウスが隻眼だからそれを狙ってのことだろう」

 エニフの言葉に「あーまあなあ」とナナミが(ひと)()ち、そのままケイドの横に腰をおろした。ケイドが少し横にずれてくれたので広くなったことに軽く「さんきゅ」と言うや、頬杖をついた。


「確かに座学も実技も日中だし、それが終わるとあの二人は宿舎から出てこないからな~。謎の多いことで」

「たしかに」

 あまり発言しないケイドが小さく頷いている。彼はあぐらをかいているナナミとは違い、丁寧に足を抱えて座っていた。

「闇に紛れれば一泡吹かせるって思うかもだけど、おれはそうは思わないね」

「そう、ですか」

「うん。後ろから近づいてもすぐ気づくからなー、あいつ」

「あなた自分がうるさいってこと、気づいてないの?」

 ナシラが信じられないというように顔をしかめ、ちびちびと水を飲んでいる。飲み水はまだ探しているので節約中なのである。

 おはよー、と近づく姿をエニフも散々見かけているので、口を出さないようにしていた。

「ナナミも()りない」

「おれは諦めの悪い男なんだよ。だって、どー考えたってリシウスがマギナに乗ってるほうが強いじゃん」

 ハンドラーとしてはリシウスのスコアはそれほど高くはない。だが適性はある。ニアナではなくリシウスがハンドラーとなって戦うほうが、断然いいとナナミはずっと思っているのだ。


 マギナはハンドラーの動きをそのまま模倣して動くマシンだ。そう考えれば確かにリシウスのほうが適任とも言えた。だが彼にその気がないのをナナミ以外は痛いほど知っている。ニアナではなくおまえが~と言い出すナナミを、彼が容赦なく殴っているのを何度も目撃しているのだ。


「ハンドラーに適性がないと自在には動かないんだぞ、ナナミ」

「でもしょせんロボじゃん」

 彼がよく口にする『ロボ』というものを三人は理解できない。


「武器だって、色んなの使えたほうが強いしいいと思うんだよなー」

「マギナアームズのことを言っているのか? それこそ、適性がなければ使えないぞ」

 エニフはここにきて、ナナミの無知さに戦々恐々としていた。そういえばナナミは座学を時々寝ていることがある。試験はほぼ実技なので、(かん)で動かしているのかもしれない。


「マギナアームズは普通は一つしかないんだが……」

「え~?」

「高濃度のウラノメトリアを含んだ鉱石で造られた棒状のものが一般装備だ」

「でもほかにあるんだろ?」

「あるにはあるが……カレイドアームズほどの武器は、国に一つあればいいほうだ」

「かれ……? ん?」

 ナナミの様子にナシラもケイドも、(あわ)れむような瞳になっている。まだあと半年以上ある。その間にナナミが座学をさぼらなければいい。

 適当に動かしているらしいナナミだったが、正式なハンドラーになるならば「わからない」「知らない」では済ませられない。

「マギナアームズよりもさらに純度の高い鉱石を使った武器だ。実物は見たことはないが」

「へー」

 ふつうに感心しているので、とうとうナシラが顔を手で覆っている。ケイドは苦笑いを浮かべて「はは」と声を洩らした。本気で心配するように見てくるエニフに、ナナミは「どした?」と首を傾げている。

「やはりハンドラーというのは、神への冒涜にほかならない」

 ぼそりと呟くケイドに「それはナナミだけよ」とナシラがうめいた。




 期限の一週間目の夜。それは起きた。

 士官生たちは明日の朝には下山できると安心しきっていた夜だった。士官学校の棟が、突然轟音と共に火を噴いたのだ。



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