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真紅の鉄壁と恐れられる辺境伯へ姉の代わりに私が嫁ぎます!  作者: 小野寺雀


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19/19

19.


ギィー…___


「わぁ……」


アルマンにエスコートされ進んだ扉の先には、淡いピンクや黄色に塗り替えられた壁紙やキラキラとしたシャンデリアが光り輝いていた。

雲ひとつない窓から差し込む日差しの助けもあり、暗い印象だった書庫の中はかなり色合いが増し可愛らしい雰囲気に様変わりしていた。


「…気に入ってもらえただろうか?」

「………はい」


レアナは息たっぷりにそうこぼした。

あの夜にすでに一度入ってはいたが、まだ未完成だったのと手元のランプ一つでとにかく本を探すのに必死だったため、その時とはかなり印象が違っていた。

それにこれがレアナのために改装した、というのは嘘ではないようだ。

本棚はしっかり床に固定されており、その高さはどれもレアナが取れるくらいの低さに統一されていた。

そしてレアナの視線は、暖かな日差しが差し込む窓際に置かれた大きな可愛らしいソファで止まった。


「このソファも君のために用意した。好きに使ってくれ」

「まあ…ありがとうございます」


アルマンの微かに添えられた指先に促されるままレアナはそのソファに近づき、太陽の温もり溢れるふかふかなソファに腰掛けた。


「ふふ…とても暖かくてここで本を読んでいたら寝てしまいそう…」


太陽に近い木の上で本を開いたままうたた寝をしている幼い頃の自分がふと浮かび、レアナは思わず笑みをこぼした。

あぁ、よく姉様に声をかけられて飛び起きていたわね…


「あ…いえ、申し訳ありません。そんなはしたない事…」

「いいんだ。それだけくつろいでくれたら私も嬉しい…他も案内しよう」

「あっ…はい!」


くるっと背を向けて歩き出すアルマンを追いかけるようにレアナは立ち上がり、眉間にシワを寄せ緩んでいた頬を引き締めた。


「今まであった本はこれで全部だ。ここからは新しく…」

「はい……はい…」


早口で本棚の説明をしていくアルマンの横を、レアナはいつかのように頭と足を必死に動かしついていく。


「以上だ…わからなければまたいつでも聞いてくれ」

「ありがとうございます」

「………」

「……?」


レアナは頭の中でさっきの説明を復唱し、何から読もうかと心の中だけでワクワクと胸を躍らせていると、アルマンは少し離れたところで彼女をじっと見つめたままピクリとも動かない。


「旦那様?どうされたのですか?」


心の中が漏れていないかと不安になりながらレアナはまた顔に力を入れ直し、ゆっくりとお淑やかにアルマンの元へ近づいていく。


「いや…なんでもない…」


彼はそう言うが下の方では硬く拳を握り、顔は引き攣り眉間のシワが深くなっていく。


「しかし………」


体調でも悪いのかと心配になり見上げるように彼の顔を覗くと、黄金の瞳は徐々に濃く深く赤みを増していっているように見えた。

そして気づけばレアナはその綺麗な色の移り変わりに見惚れ、吸い込まれるように二人の距離は近くなっていく。


「………」

「………」


自然と伸びた小さな手は温かなアルマンの頬にたどり着き、ずっと待ち侘びていたような…恋焦がれていたような安堵感に包まれるレアナはルビーのような瞳をうっとりとした表情で見つめ返す。


「………アルマン様」

「ヴゥ〜…ッ!ダメだ!」

「ッ!……私…ごめんなさい…そんな……」


アルマンの口から低く空気を震わせる唸り声が漏れると、すぐに放たれた強い言葉と一瞬で離れていく温もりにレアナはハッとしながらも冷たく胸が締め付けられるような寂しさに襲われる。


「あ…いや………時間切れのようだ」

「え?…」

「あの夜からもう…2週間近く経っている。これ以上近づくのは危険だ」

「あ…そう…ですね…」


そういえばそんなことも言っていたわね…

なんてまだ少しぼんやりと浮ついている頭であの日のことを思い出しつつ、彼は自分のことが嫌で離れたわけではないのだと思うと少し胸のつかえが軽くなる。

旦那様は…私の血を欲しているの?私のでよければいくらだってあげてもいいわ…ここに来る時に覚悟はしてきたもの。この身体が少しでも旦那様の役に立つのなら…

レアナはさっきの温もりが恋しくなり、込み上げてくるものを抑えながらじっとアルマンを見つめた。


「あぁ…頼むからそんな顔はしないでくれ…」


そう言って目線を逸らす彼にまた胸がキュッとしながらも、私今どんな顔をしているのかしら…笑ってはいないはずだけど…なんて考えが頭の片隅に薄らと浮かび上がる。


「すまないが今夜の夕食を共にすることはできなそうだ…」

「はい…わかりました………あのっ!」

「ん?…」


レアナはふわふわと浮ついたまま、書庫の扉に手をかけるアルマンの背中を無意識に呼び止めた。

振り返りやっと交わった黄金の瞳は、思いの外レアナの心を飛び上がらせる。


「………その…明日の朝食には…お会いできますか?」

「……………あぁ、たぶん大丈夫だろう」

「よかった…」

「ッ………」


レアナはその言葉通り、ただただ明日には会えるのだと思うとそのことが嬉しかった。そしてそれは気の緩んだレアナの頬を簡単に緩ませた。

明日には会えるってことは…今晩また狩に行かれるのよね?


「旦那様…お気をつけて…」

「あぁ…」

バタン___


チラッと横目だけを向け、アルマンは逃げるように扉の向こう側へと消えていった。


「……………ッ〜〜〜!?」


そして彼のいなくなった扉をしばらく見つめていたレアナは頬に両手を当て急に声にならない叫びを上げた。

え…ちょ………え待って…私さっき旦那様になんて事をしたの!?だ、旦那様の頬に…私触れたの…よね?

え?いやいやいや…いやいやいやいや!

な…えぇ!?…………でも…………

瞳を赤く染めた旦那様も野生味が溢れていて…


「………素敵」


どんどんと熱が上がっていくのを頬で感じながらぼそっとひとりつぶやいたのだった。



ギシ…___


「…………………はぁ〜…」


レアナは自分が何の本を手にしてるのかもわからないまま、窓際の暖かなソファに腰掛け何度目かわからないため息をつく。


「………ん?」


そしてまた緩み始める頬を引き締めるように顔を上げると、レアナはあることに気づいた。


「あんなのあったかしら…?」


ソファの少し離れたところに、見たことのない立派なテーブルと一脚の椅子がポツンと置かれていた。

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