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真紅の鉄壁と恐れられる辺境伯へ姉の代わりに私が嫁ぎます!  作者: 小野寺雀


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18/19

18.笑顔


「はあぁ〜…」


レアナは何の感情も湧かない本をゆっくりと閉じ、大きなため息をつく。


___「おはよう…レアナ」

   「レアナ?君が好きそうな…」 

   「レアナ…レアナ………」

「ッ…あぁ〜!」


そして何処からともなく聞こえてくる彼の鼓膜を震わす低く艶やかな声が次々と頭の中でこだまし、咄嗟に滲み出た自身の声で強制終了させる。

もう私ったらどうしちゃったのかしら…というか旦那様も旦那様よ!あの夜からもう当たり前のようにレアナレアナって言ってくるし…そりゃまあ名前なんだから普通呼ぶんだろうけどさ…私はまだ旦那さ………ア、アルマン様って呼ぶの全然慣れないのに…


「ア、アル……あぁ〜私本当になにしてるのかしら…」


鏡に向かって微笑みながら練習をし始めたところですぐに止め、もう何度目かわからない小さな叫び声を上げながらまた本を無意味にめくる。

あの夜は色々なことが起こり過ぎて記憶が曖昧だけど…


___「あまり笑わないでくれ…」


「………」


私の笑顔ってそんなに変かしら…まあでも、そうよね。元々旦那様が望んでたのは姉様なんだし…姉様はいつもお淑やかに小さく微笑んでいたわ。やっぱりもっとちゃんと姉様らしく淑女らしくしなさい、と言うことよね…姉様の美しい微笑みはどんなに頑張ったって私には出来っこないけど…

レアナの目線は開いていたページのさらに奥の所を小刻みに漂っており、下がったままの頬はどんどんと硬くなっていく。


「………そう、そうよ…私はお姉様の代わりに来たの。役目はちゃんと果たさないと…」


コンコンコン___


「はい」

「奥様失礼致します。朝食の準備が整いました。」

「そう…今行くわ」


眩しい朝日が差し込む窓を見つめ、レアナは口元にキュッと力を入れ直し自室を後にした。




カチャ___


「レアナ?」

「……は、はい」

「あまり進んでいないようだが、口に合わないものでもあったか?」

「いえ!そんなことありませんわ」


レアナは硬く短く微笑み、フォークで小さなひと口を口へと運ぶ優雅な反復動作を再開する。


「そ、そうか…」

「………はい」


レアナはまた小さな笑みを向けるが、アルマンの反応は思ったほど良くはない。

ほら、こんな姉様の足元にも及ばない笑みではダメね。もっと練習をしないと…

小さい頃から私よりずっと厳しく礼儀作法を教え込まれていた姉の姿をふと思い出す。

顎の角度や目線の動き、微笑み方など徹底的に教え込まれるのだが、姉ベアトリスは常に笑みを絶やさずいつも言われた以上に完璧にやってのけるのだ。

でもそれは見た目の美しさがあるからだけでなく、何度も何度もひとり練習し父のため家のため、と努力をしていた事をレアナだけは知っていた。

私も旦那様が満足するような笑みを早く習得しないと…

お互い秘密を共有したあの夜にかなり近づいたと感じていた距離は、思えば思うほどどんどんとレアナの手をすり抜け遠ざかっていくようだった。



「はあぁ〜………」


あまり会話も弾まない朝食を終え、自室に戻ったレアナは再開されたため息とさっきの反省をぐるぐると巡らせていた。


コンコンコン___


するとこの時間帯ではあまり鳴らないノックが部屋に微かに響いた。


「ん?………はい!」

「…………私だ」

「ッ!………」


ドアの向こうから聞こえるくぐもった低い声にドキッと身体が跳ねる。

なんで旦那様が私の部屋に?え…幻聴?

なんて一瞬思うがその前のノックは確実に聞こえていたから間違いはないと、慌てて身なりを整えゆっくりと返事をしながらドアを開ける。


「どうされたのですか?」

「あ…いや、今少しいいか?さっき言い忘れたのだが書庫の改装が終わったんだ」

「そうでしたか。ありがとうございます。ですがわざわざ旦那様がお伝えにいらっしゃらなくても…」


急な訪問なんて心臓に悪いからやめてほしいわ…ジルか誰か他の人に言っておけば良いのに…


「あそこは重要な書類も多い。中へ入れる者は限られている」

「そう…ですね」


ん?これはもうお前は中へ入る資格はない!的なことかしら…そっか、そうよね…私ったらそれに気づかず今まで何度も出入りしてしまっていたわ…


「だから私が新しい書庫を案内しよう。今からでも良いか?」

「はい…今まで大変失礼………え?」

「今からではまずいか?では日を改めて…」

「あ、いえ!今からでも大丈夫ですわ。」

「なら行こう」

「でもその…私が入ってもよろしいのですか?」

「ん?何も問題はない。むしろ君が過ごしやすいよう改装したんだ」

「そうですか…………え?私のため?」


すぐに歩き出す彼の背中を見ながらレアナは慌ててそれに続くように自分の部屋から飛び出した。


「ついでにいろいろな本を取り寄せておいた。好きなものを読むと良い………ん?どうした?」


かと思うと少し進んだ先でこちらを振り向き片腕を少し上げ待つ彼…


「…………あ、いえ…お心遣いありがとうございます」


レアナは軽く頭を下げ内心ドキドキしながらも、アルマンの腕にそっと手を添え、姉を思い浮かべながら微笑み見上げた。


「………別に大したことではない」


一瞬止まったように感じたがすぐに前を向き、ゆっくりとこちらの動きに合わせるように彼は歩き出した。

そしてその隣でレアナは自分の選択が間違いではなかった事に安堵し、気づかれないよう細く小さく息を吐いたのだった。

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