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きさらぎ国奇譚  作者: 如月ざくろ
エデン編
31/47

縁は異なもの味なもの

 凛が久しぶりに大学へ行くと、学内では晴可――もとい、織春の話題で持ちきりだった。あの伏見晴可は東宮・籠目織春であったと、どこに行っても噂をされていた。


「凛、貴方は知ってたの?」


 講義が終わった瞬間、董子が凛の方へと近寄って来た。


「久しぶり、董子」

「久しぶり。思ったよりも元気そうで良かったわ」

「ありがとう。それで知ってたって、何を?」


 リュックに教科書や筆箱を仕舞いながら、董子との会話を続ける。

 とぼけた様な凛の様子を見て、董子は呆れたとばかりに肩を竦めた。


「晴可さんが籠目織春殿下だったって話、知ってたんでしょう?」

「ああ……、うん。知ってたけど、どうしてこんなに噂になってるの?」


 晴可が織春であるということは、凛は知っていた。知っていたと言うよりは、話の流れで知ってしまったと言う方が正しい。

 恐らく織春はそのことを秘密にしていたはずだ。それがどうしてこれほど噂になってしまっているのか、凛には全く分からなかった。


「凛はテレビとか新聞とか見ないの? 如月国宮内庁から発表があったじゃない」

「何の発表?」

「とりあえず、これを読みなさい」


 呆れた様な董子に気まずさを覚えながら、恐る恐る彼女のスマホに視線を落とす。

 スマホにはネットニュースのページが表示されている。

 ニュースの見出しにはでかでかと、「如月国宮内庁は、開闢大学に通う三年生、伏見晴可氏を籠目織春殿下と認めた」と書かれている。

 ニュースを読み終えた凛は視線を上げた。


「そういうわけで、昨日から大学は大混乱よ。大学だけじゃなくて如月国もね」


 どうやらこのニュースは昨日発表されたようだ。ここ数日間はテレビも見ていなかったし、築も魁星も別段教えてくれなかったので全く知らなかった。


「そうなんだ……。今日、伏見さんは大学に来てるの?」

「来てるんじゃないかしら。見かけたって言う人がいたから」

「ありがとう。ちょっと話をしてくる」


 リュックに荷物を詰め込み、席を立った。

 凛には織春と会って話したいことがあった。晴可が織春であったことについては、正直どうでもいい。凛が話したかったのは、桃源町で言っていた「神璽の持つ異能を使って欲しい」ということについてだ。約束をしたからには、凛の出来ることならば全うしたい。

 どこにいるのか見当もつかなかったので、とりあえず食堂まで来て、辺りを見回してみる。織春はいなくても、きっと魁星は食堂にいるはずだ。魁星にも織春を見かけなかったか聞いてみようと考えた。


「おーい、凛!」


 声の方へ視線を向けると、魁星が大きく手を振っている。小走りで近づいて行くと、魁星の前の席には凛が探していたあの人、籠目織春がいた。


「凛、久しぶりですね。お元気そうで良かった」

「伏見さんも。あの後、お身体は大丈夫でしたか」

「ええ、この通り問題ありません」


 凛は魁星の隣に腰掛けた。


「あ、でも、もう伏見さんと呼ばない方が良いんでしょうか。織春殿下とお呼びした方が?」

「僕としては伏見でも晴可でも、織春でも良いんですけど、殿下だけはやめて欲しいかな。あれだけの冒険を一緒に乗り越えた仲なのに、他人行儀じゃないですか」


 織春の拗ね方があまりも可愛らしかったので、思わず笑ってしまった。

 冒険と言うにはあまりにもスリリング過ぎたが、あれやそれやを一緒に乗り越えた仲であることは間違いない。


「じゃあ、織春さんって呼びますね」

「そうしてくれると嬉しいです」

「それで魁星と織春さんは食事をしていたの?」


 現時刻は十五時である。昼食には遅いが、食堂の中ではちらほらと食事をしている学生もいる。


「二限目終わりに一緒に飯食って、それから一緒に課題をしてたんだ。凛は昼食った?」

「食べたよ。食堂が混んでたから、コンビニで買って教室で」

「あー、だから会わなかったのか」


 相変わらず大学の行き帰りは魁星と共にすることが多いが、大学の敷地内では以前よりも自由に行動が出来るようになっていた。それには大学の中で、凛にも友人が出来てきたのが大きい。


「それで本題ですけど」


 和やかな空気になったタイミングで、凛は本題を切り出した。


「どう言ったご用件でしょう」

「神璽の件です」


 神璽と言う単語を聞いた織春は、ふと口許に笑みを作った。


「なるほど。それはとても重要な話ですね。僕もその件で、凛と話したいと思ってたんです」

「出来る限りのことはしたいと思いますが、何のために使うのか教えていただきたいんです」

「勿論です。それではまた、桃源町でお話するのはいかがでしょう。ここでは僕は視線を集めすぎてしまいますから」


 織春の言う通り、食堂中の視線はこちらに向いていると言っても過言ではない。こんな環境では、とても落ち着いて話すのは難しいだろう。


「そこには俺も交ぜて貰えますよね?」


 今まで黙って聞いていた魁星が、凛と織春の会話に割って入る。

 片足を突っ込んだ手前、最後まで見届けたいのだろうか。それとも凛を一人で行動させることに抵抗を覚えるのだろうか。凛は魁星の責任感の強さに感心した。

 織春は愉快そうに笑いながら、こくりと頷く。


「構いません。魁星くんも来てくれるならば心強いですから」


 魁星はなんだか照れ臭そうな、ばつの悪そうな表情をしている。


「では今週末、桃源で会いましょう」


 織春の言葉に、凛は頷いた。

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