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きさらぎ国奇譚  作者: 如月ざくろ
エデン編
27/47

2

 妖を使ってどんな実験をするというのだろうか。凛には全く想像も出来なかった。


「実験? 実験って、なんの?」

「あれは禍の王の器を作る実験だと思う。多分」

「禍の王の器を作るって、……どういうこと?」


 禍の王は理花の身体に封印されているはずだ。それを作るとは一体どういうことなのか。魁星の言っている意味を理解することが出来なくて、凛は首を傾げた。


「理花の身体には、禍の王の魂が封印されているんだよ。」

「なるほど……?」


 いまいち理解出来ないまま、凛は頷いた。


「つまり、禍の王を復活させるためには、禍の王の魂を解き放ち、それ受け入れることが出来る器を手に入れる必要があるんだ。その器を探すか作るために、妖を誘拐していたんだろうね」

「つまり、禍の王の魂と、それを受け入れることが出来る器がないと復活ができないのね」

「そういうこと」


 どうやら封印が破られたとしても、理花の身体から禍の王そのものが出て来るわけではないらしい。

 理花の身体から禍の王の魂を取り出して、それを受け取ることの出来る誰かに継承させることで、禍の王を作り出す。

 そして如月国を、日本を混乱に巻き込む。


「禍の王をそこまでして復活させて、何をしたいのかな」

「禍の王って、あらゆる禍の根源となる存在と言われているんだけどさ。普通に考えれば、如月国っつーか、日本の終焉を望んでるのかなって思うけど……」

「そうだよね……」


 禍の王を復活させて希世史が為したいことなど分かるはずがない。既に分かっているならば、禍の王の封印を解かれてから、再度封印を施すなどという後手後手な方法を取るはずがない。きっと先手を打つ方法を考える。


「正直、分かんねえよな。何をしたいのか」


 まさに希世史は、何を考えているのか分からない人だった。

 答えのないことを考えたって仕方がない。ただ凛は世界が終わるのは困る。止める理由はそれだけで十分だろう。


「それとさ、言えてなかったけど、助けてくれてありがとう」


 魁星の顔や体は傷だらけだ。全然、助けられていない。凛でなければもっとうまく助けられたのかも知れないとすら思う。

 異能をもっときちんと使えれば。そもそも巻き込まなければ。後悔はたくさんある。


「全然、助けられてないよ。そもそも魁星を巻き込んだのは私だし」


 吸い飲みをベッドサイドテーブルに置き、ふと窓の外へと視線を向ける。沈黙が数秒続いた。魁星は手のひらに力を込め、凛の手のひらを握りしめた。

 不意に手を握り閉められ、凛は魁星へと視線を戻す。


「本当は……」

「うん?」


 珍しく言い淀む魁星に、先を促す様に問い掛けた。


「本当は、……俺が凛を守りたかった」


 魁星はか細い声で心の内を吐露する。悲しんでいるような、拗ねているような声だった。

 一瞬何を言われているのか分からなくて、凛はすぐに返事を出来ず沈黙してしまった。意図を伺うように、じっと魁星の表情を見つめた。


「何か言ってよ。気まずいじゃん」


 沈黙に堪えられなかった魁星が、凛の手のひらを握ったり離したりしながら、口を開く。

 夕日に照らされ、魁星の頬は赤らんでいた。


「……ありがとう?」

「ありがとうって何……」

「いや、今回のことで、私にうんざりしたかもって思ってたから。まだ私の面倒を見てくれる気があるんだなって思って」


 凛は感心したような表情で、さらりと言葉を返す。

 これだけの事件に巻き込まれれば、お人好しの魁星でも流石にうんざりしそうなものだ。しかしまだ保護者としての立場を気にするあたり、彼の打たれ強さもなかなかのものだ。

 魁星はいつものように、はつらつとした笑顔を浮かべた。やっぱり、彼の笑顔は春の日差しのようだ。眩しくて堪らない。


「俺が凛にうんざりすることはないよ。だからこれからも、俺に頼って欲しい」


 魁星の言葉がこんなにも凛を安心させる。

 三月に如月国へ渡って来てから、寂しくて堪らず八つ当たりしようとしたことがあった。行動の監視をしたいだけだと魁星のことを疑って、自暴自棄になって危険に飛び込んだこともあった。今回だって自由になりたくて、晴可の交換条件を飲んだのだ。

 結果として、異能を使うためのコツみたいなものを少しだけ理解出来たわけだが、代償に魁星のことを危険にさらしてしまった。

 これからもきっと、凛は無茶をしてしまう。そうしないとならないような場面にぶち当たる。そこにこれからも、魁星のことを巻き込んで良いのだろうか。こんな風に傷つけるくらいならば、とも思う。

 けれど彼は凛が一人で危険へ向かうことは、きっと許さない。

 それが凛にとって、嬉しくて苦しかった。それが表情に出ていたのだろう。魁星は眉尻を下げて笑う。


「話過ぎちゃったな? 俺、今日は帰るよ。また明日、講義が終わったら来るから」


 魁星はようやく握っていた手を離した。凛はベッドに横たわり、毛布を被る。

 魁星が椅子から立ち上がり、こちらを見下ろしている。優しい眼差しだった。

 神璽を使う話だとか異能の使い方を教わるだとか、この事件の根底にあることだとか。まだまだ色々と分からないことばかりだ。けれど今は、もうひと眠りしたい。

 凛はやってくる睡魔に身をゆだねた。

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