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きさらぎ国奇譚  作者: 如月ざくろ
エデン編
16/46

2

「本題に戻りますね。エデンからの手紙には、大河の寄付に対する感謝の言葉が綴られています。しかし大河は己の経済状況から、段々とエデンに寄付が出来なくなってしまった」

「虹村さんはエデンに寄付をしていたんですね」

「祖父に見つけられるまで大河はエデンで暮らしていました。そう言った縁で、よく寄付をしていたようです」


 凛の問い掛けに、晴可はどこか嬉しそうに返事をした。

 大河の優しさを理解して貰えたのが、晴可も嬉しかったのだろう。


「そして経営難に陥ったエデンは、青華せいかという上海マフィアから融資を受けたようです」


 青華は如月国に巣くうマフィアグループである。浄化作戦のたびに姿を消し、数十年の月日を掛けて復活する。上海マフィアの系統を汲むが、組織自体は日本人が中心となって活動をしているという。

 青華のメンバーは、いかなることがあっても組織の秘密を守ることが求められ、メンバーになるとき忠誠を誓いこれを誓約する。そのため、どんな活動をしているのか、内情を含めほとんど知られていない。


「青華から? そんな危ないことに凛を巻き込むことは許せません。警察とか、しかるべき機関に情報提供をするべきだと思います」

「彼を探すだけならそうかも知れない。けれど凛をここに呼んだ理由は二つあります」


 魁星の言葉に、晴可は尤もだと頷く。しかし晴可には凛をここに連れて来た理由が明確にあった。


「理由?」

「一つめは、妖のためにしかるべき機関を動かすことは難しいからです」


 如月国における妖の立場は、驚くほどに低い。

 近頃は妖を守るための条例も定められているけれど、根強いた差別感情は強く残る。現に、このひと月の間で数多の妖たちが誘拐されているが、如月国は未だに本格的な解決に乗り出してはいない。


「だからと言って、凛を動かすのはおかしい」

「それは尤もです。僕が個人的にお願いしているだけです」


 魁星は今にも晴可に飛び掛かって行ってしまいそうだ。

 晴可の言い分は分かる。妖を守るということについて、如月国は遅れている。だからと言って、この三人でどうにかするにはあまりにも敵が強大すぎる。


「二つ目に、凛にしか出来ないことをお願いしたいからです」


 晴可は手紙を引き出しに戻す。

 今までの晴可の話を聞くと、とても凛にどうにか出来る問題ではないように思える。それに、危険すぎる。

 魁星も同じように思ったのか、凛を庇うように一歩前に出る。そして先ほどよりも強い口調で晴可に言い返した。


「どういうお願いですか。お返事次第では、凛は連れて帰ります」


 魁星の鋭い視線を向けられても、晴可は穏やかな笑顔を浮かべている。


「分かりました。これからお話しすることは、どうか他言無用でお願いいたします」


 凛と魁星は無言のまま頷く。


「凛をここに連れて来たのは、妖の立場を守るための第一歩を踏み出そうと思っているからです。凛の祝福の力で、神璽の持つ異能を使って欲しいんです」

「神璽って、帝室の保持する三種の神器の?」

「三種の神器って、三種の神器?」


 凛の知っている三種の神器といえば、八咫鏡、天叢雲剣、八尺瓊勾玉のことである。

 その三種の神器であるとすると、天皇ですら実物を見ることが出来ないという代物だ。そんなものの異能を使えるわけがない。それではないものだとしても、三種の神器と名の付くものを一介の大学生が簡単に手にできるはずがないだろう。


「如月国にも三種の神器があるんだよ。有栖川家にある神鏡と帝室で保管する神璽。あとは神剣」


 魁星の説明に、凛は分かったような分からないような返事をした。

 有栖川家にある神鏡というのは、凛の持っているペンダントのことだろう。

 その他の三種の神器のことついては、凛には全くピンと来なかった。しかし「帝室に保管されている」という文言だけで、神璽がどれほど価値のあるものなのかということは、何となく理解した。


「私はまだ異能が使えないし、使えたとしてもその神璽……ってやつは、手に入れることが出来るんですか。帝室に保管されているものをどうやって」


 一介の大学生が帝室に保管されている三種の神器を手に入れることは出来ない。けれど晴可には出来る。

 魁星が思い出していたのは、先日の築との会話だった。確信はない。けれど築はこのことを言いたかったのではないだろうか。

 築は籠目錦織と幼馴染である。そして今でも彼らの接点は多い。庶民として育てられていると聞く錦織の従兄弟のこと。そして錦織は青い瞳の、甘い顔立ちの美青年だ。目の前にいる、彼と同じように。

 様々なピースがあるべき場所に綺麗に嵌まって行く。

 黙って考え込んでいた魁星が、ようやく口を開く。


「なるほど、分かりました。晴可さんがここに凛を連れて来た理由が」

「まあ、あくまで伝説のレベルではありますが、桃源は異能の才を呼び起こす力があると言いますから。そもそも凛を連れて来たかったんです」

「ああ……そういう。でも神璽のことは?」


 桃源町には異能の才を呼び起こす力がある。そこに凛を連れて来て、異能を開花させるという目的があった。それは凛にも理解出来た。

 でも神璽については、凛には全くピンと来ていなかった。しかし晴可と魁星の間では、今までの会話の中で納得できる理由があったようである。


「それに神璽のことは僕がどうにか出来ますから、凛は心配しなくても大丈夫ですよ」


 そんな風に言われてしまったら、凛はそれ以上食い下がることが出来なかった。

 もともと何も分からなくても大河を探すつもりだった。今、出来ることをやるだけである。


「分かりました」

「ありがとうございます。それで、大河の行き先についてですが、目星は付けています」


 晴可は桃源町の地図を取り出して、エデンの更に北の北、桃源町の北端にある旧みずかね製薬研究所を指さした。

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