4 開業、違法宝石屋
太陽が沈み、夜が静かに広がっていく。
街の灯が、昼よりも頼もしく感じる。
ここに人がいるのだと。
この世界で、生きているのだと。
揺らめき、迷い、ときに消えかけても。
力強く、人々は灯を灯す。
「……詩人、悪くないかも?」
どうも、元宝石屋です。
私は今、街の外で野宿をしています。
クソッ!!
やっとこさで街に来て初日野宿とかどういうこったよ!?
理由?
私、犯罪者、オーケー?
イエス、アイムアンダースタンド。
ちくしょう。
愚痴も吐いたし、そろそろ加工を再開しよう。
この辺り真っ暗だし魔物もいるらしいんだけど、そこはいろいろと対策した。
まず明るさだけど、光魔法の力が籠った魔宝石で明るさ確保。
次に安全性だけど、魔物が近づかないように辺りにちょっと特殊な宝石を仕掛けた。
宝石そこらに転がすんじゃないよってツッコミはしないでね。
白砕石っていう、特殊な宝石。
野菜ではない。
これをちょっと加工したものを置いておいたのだ。
具体的には近づくと爆発する。
……正確に言うと、ある程度の力が周囲に加わると魔力を放つ。
ものすごい爆音がするから耳に悪いんだけど。
一回爆発しても、また勝手に魔力を集めてくれるから何回でも使える。
地球でいう地雷みたいなもんかな。
私本人が戦闘力低くても、宝石の力で割となんとかなるんだよね。
宝石って素晴らしい。
そしてそれを使いこなす私カッコイイ。
え?お前転生者かって?
そうですが、なにか?
って言っても、地球で見た転生ものだのなんだのとは全く違うけどね。
スキル?ステータス?
なにそれおいしいの?
ハーレム?無双?俺tueeee?
ねーよそんなもん!
前世の記憶もほぼ無いし、なんとなくそうだったかなー程度の記憶しかない。
男か女だったかの判別もつかないくらいの記憶。
今は一応女のつもりだけどね。
色気なんてものは無い、いいね?
恩恵は、うん、ちっちゃな頃から宝石扱えるだけの知能があったことは恩恵か。
まあ、つまりはその程度。
だから、私自身の力でやらなくちゃ。
ステータスなんてものはなくても、私は生きていかなくちゃいけない。
大した取り柄も能力もない人生。
それが、私の人生だ。
ふぅ、熱語りした。
こんなこと言ってるとすぐ死にそう。
怖い怖い。
私は主人公なんかになりたくないからね。
だって大変そうじゃん。
英雄とかには興味ないし、綱渡りみたいな人生も嫌だ。
……まぁ、これからの私もそれに近いことになりそうな気はするんだけど。
今のところ犯罪者の道まっしぐらだからね。
頭がくだらないことを考えている間に、手のほうは加工をほぼ終えていた。
ひょいと持ち上げて出来栄えを確かめる。
ごろっとした原石が、きれいな玉になっている。
手持ちの道具とこの僅かな時間でのこの作業。
職人技、ですかねぇ……
透明度の高い水晶玉。
試しにちょいと魔力を込めてやると、うっすらと光った。
よしよし、我ながら上出来。
ちょっと久しぶりだったから不安だったけど、さすが私。
これなら400万くらい貰ってもよかったかな?
さーて、加工も終わったしさっさと寝、ない。
まだ作業がある。
明日の商談後に使うものの準備だ。
まだまだやることあるから頑張らねば。
それと、その前に色々買っておかなきゃ。
パン、砂糖、チーズ、ハム。
飯。飯。飯。
色気の欠片もねーな!
野菜は……まぁいいや。
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「お待たせしました、約束の品です」
昨日の場所で、前のクソ客に水晶玉を渡す。
もうクソ客とか言っちゃってるけど、いいよね?
なんかやばい取引みたい。
あ、違法だった。
「……確かに受け取ったぜ」
水晶玉が杖へと嵌められる。
杖全体が赤色にうっすらと光った。
火とかその辺の魔法かな?
私魔力ほぼゼロだから魔法使えないけど。
あ、この世界普通に才能ゲーです。
私みたいに魔力無い奴は魔法使えません。
ちくしょう。
闇魔法とか使ってみたいのに!
「アビスの呪いを受けよ!」とか言ってみたいじゃん!
「……あーッ!!ここに宝石持ってる犯罪者がいるぞーッ!!」
ビクリと肩が跳ねる。
目の前のクソ客が、私を指さして叫んでいた。
「ケッ、ざまあないぜ!これで渡した金も返ってくるな!!」
「えぇ……裏切ったんですか?」
「うるせェ!さっさと捕まりやがれクソガキが!!」
ぞろぞろと出てくる守衛。
というかこの国守衛とかいたのね。
私をぐるっと囲むように詰め寄る守衛たち。
だいたい10人……あ、11人だ。
こっちは丸腰だってのに、槍まで向けてきてる。
なんだなんだと集まる見物人。
ちょっと?
見せ物じゃないんですけど?
見るんだったら鑑賞料を頂くぞ?
言ってる場合か。
守衛たちは……私殺す気で来てるなコレ。
「これってごめんなさいすれば許してもらえます?」
「黙れ。荷物を捨てろ」
駄目みたいですね、うん。
知ってた。
私は丸腰。
見るからに貧弱な私を見れば、勝敗はだいたいわかるよね。
ただ、残念。
私は「宝石屋」だ。
魔法は使えないけど、魔法なんかよりすごいことだってできる。
……ただ、これから私はお尋ね者になるかな。
私が嫌だった、過酷で綱渡りみたいな人生になると思う。
……ふぅ、よし。
覚悟は決まった。
ポケットから、手のひらサイズの石をふたつ取り出す。
守衛たちが槍を振るおうとするけど、もう遅い。
「合掌ッ!」
思い切り石同士を打ち付ける。
雷鳴のような猛烈な音が鳴り、辺りに響き渡る。
やったことは単純。
白砕石同士を打ち付けただけ。
流石に危ないから、音だけが出るようにヒビを入れておいたけど。
けど、威力は絶大。
守衛たちが崩れ落ちる。
近くでガラスか何かが割れる音がした。
南無。
鈍い金属音。
バタバタと倒れる守衛たち。
うーん、壮観。
あ、ちなみに私は白砕石の効果受けません。
なんでかって?
慣れです。
素人の時に死ぬほど誤爆りました。
ていうか何回か死にかけた。
この世界に経験値なんかないけど、何事も経験だよ!
「待てクソガキッ!!」
あ、さっきのクソ客。
防御魔法か何か使えたのかな?
こちらに向けられる杖。
魔力が強く籠められ、魔法が放たれる。
「死ねいッ!!」
炸裂する魔法。
爆炎と爆裂音。
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「さーて、貰うもん貰ったしトンズラしますか」
さっき渡した水晶玉。
あれももちろん白砕石である。
ふっふっふ。
見た目真っ白な白砕石を透明にするのは苦労したぜー!
だが結果は大成功!
さすが私!
あの後、真っ黒になったクソ客から色々とくすねた。
もう私犯罪者だし、これ正当防衛だし、多少はね?
代金ポンとくれてたからなんとなく察してはいたけど、やっぱりそこそこお金持ってた。
おかげで財布がパンパンでっせ。
うへへへ。
さすがに暴れすぎたのか、周りの見物人が多くなってきた。
なんで取り押さえに来ないのかって?
白砕石構えたら全員黙りました。
宝石所持、使用、強盗、恐喝。
あははー、私完全に犯罪者だー。
仕方ないんだ!
これもそれも全部宝石令なんて出した国が悪いんだ!
だから私は悪くねぇ!!
とか色々考えてたら、周りの人たちの目が少し揺れているのが分かった。
あ、これ、もしかして宝石欲しがってる?
よく考えれば、宝石って必需品だもんね。
水魔法とか火魔法、光魔法みたいな力を秘めてる魔宝石は、生活の基盤になっている。
関係ないけどこの世界、地球でメジャーだった魔法だいたいあるんだよね。
私使えないけどね!
うーん、まあ、いいか。
お金はもうたんまり貰ったし、ちょっとくらい還元してあげますか。
近くのガラス窓割れてて申し訳ないし。
ふむ。
せっかく人もいるし、宣伝でもしようかな。
これから私は犯罪者。
けど、ただの犯罪者じゃない。
人々に、宝石を与える犯罪者だ。
もちろん値段は頂くけどね。
「皆様!!お聞きください!!」
声を張り上げる。
あんまりこんなことしたことないから緊張するけど、気合で声を出す。
「私は元宝石屋!しがない宝石売りでございました!
しかし今、この大陸は頭のトチ狂った大バカ者が支配しているのです!
それにより、私たちの生活は宝石という「彩り」が無いものとなってしまいました!」
言っていることは、大した内容じゃない。
お世辞にも、上手い話し方とは言えない。
けど。
「しかし、私は諦めません!!」
覚悟ならある。
「私は、宝石を売ります!!」
どよめきが広がる。
守衛たちがまた集まってきた。
「私は私の道を行く!政治なんかクソ食らえッ!
それが元宝石屋としての意地ッ!」
もう正直、ノリと勢いだけで叫んでる。
けど、面白くなってきた。
「私の生業は宝石屋!
人々に宝石を与える職業!!
もちろん代金は頂きます!!」
どっと笑いが起きる。
守衛たちがさらに近づいてきた。
そろそろまずいな。
「ですが、今回は開業記念!!
今回お集まりいただいた皆様に限り、宝石を無料配布いたします!!」
守衛たちが必死になって観衆をなだめる。
けど、効果はない。
なんたって人は「無料」に目がないからね!
白砕石を取り出す。
さっきまでとは違う、コインくらいのサイズ。
平べったくして真ん中に穴を開けてある。
それを地面に叩きつける。
ボンッという音とともに、爆風で私の体が空中へと舞い上がる。
もちろん、上手いこと形状を工夫してあるので音は小さい。
痛みもない。
……私が慣れてるだけか?
バラバラと宝石をばらまく。
歓声があちこちから聞こえる。
「皆様、本日はご清聴ありがとうございました!!」
白砕石のコインを二枚取り出す。
一枚を放り、それめがけて二枚目をぶつける。
爆風。
さっきよりも勢いよく空を吹っ飛んでいく。
ゆうゆうと街の周りの壁を越え、さらに飛んでいく。
脱出成功!!
さすがにちょっと痛かったけどね!!
すごい勢いで街から遠ざかっていく。
吹っ飛びながら、さっきの街の人たちのことを考えていた。
「嬉しそうだったな……」
そう、需要はある。
宝石令なんてめちゃくちゃな法令が出されたけど、みんな宝石を欲しがってる。
だから、私は犯罪者にされてもいい。
需要がある、誰かが宝石を買いたがっているなら、私が売ってやる。
けど、前の相場よりは高くしてもいいよね!
だって私しか売ってくれる人いないもんね!
うへへ、お金の匂いがするぜ……!
我ながらゲスい。
さて、次なる顧客を探しにレッツゴー!
……ところでこれ、どうやって着地しよう。