3 高級品って前払いが多い気がする
どうも、元宝石屋です。
現在魔法使い様と商談中。
どうやらかなりの腕前らしいけど、宝石令のせいで魔宝石が買えないんだとか。
あ、魔宝石っていうのは名前のまま。
魔法を使ったりするのに使う宝石。
で、新しい杖用の魔宝石が買えないところに私が来た、と。
うんうんうん、いいじゃないか。
これはきっと神が私に恵んでくれたチャンスなんだ!
神はいなかったとかほざいてたのは気のせいだよ、きっとね。
「でも大丈夫なんですか?見つかったら多分捕まりますよコレ」
「だからさっさと済ませたいんだよ!ほら、いくらするんだ!?」
「あー……この杖に合う魔宝石無いです」
「ハァ!?」
鼻の前に魔法使い様の顔が。
近い、そして顔怖い。
「だから新しく加工するので……明日またここでお渡しします」
「はぁ、それでいいよ。じゃあ俺は」
「待ってください」
ここ、絶対に逃がしちゃいけない。
特に、こういうタイミングでは。
「前払いで」
高級品は前払い。
当たり前だよね?
「……調子乗ってんじゃねェぞ、おい?」
さっきよりも怖い顔で、魔法使い様が私を睨む。
「俺はさぁ、金払おうとしてるわけ。なんで偉そうに指図されなきゃいけねェの?おお?」
おお、怖い怖い。
実際言い方がアレだったのはこっちに非がある。
ただ、私もここは引けない。
「はい、払うつもりなら今すぐに、と」
「別に俺はお前なんかから買わなくてもいいし、お前転がして宝石奪ったっていいんだが?」
「そうですね、私が宝石を取られたー、なんて叫ばなければ、ですが」
やっぱり分かりやすいアホだったか、この人。
この手の野郎は持ち逃げするからなー。
前払いにしないと払ってくれないからね。
あ、青筋が増えた。
「あとその杖、魔力を全く制御できてないでしょう?その指輪も、魔法の威力を増大させる補助的なものだと思うのですが、違いますか?」
また青筋が増えた。
そう、この人の指輪、補助的な魔道具に過ぎない。
確かに業物だけど、魔法そのものをそれで完結させることはできないはず。
「私だって、別にあなたに売らなくてもいいんですが」
だから、この交渉は通る。
「……いくらだ」
「はい」
「いくらだってんだ!?ええ!?」
指を三本立てる。
「30万か」
「300万です」
「……クソッ!持ってけ!」
勢いよく投げられた小袋を受け止める。
顔で。
「明日必ず持ってこい!!なかったら殺す!!」
ずかずかと音を立てて去っていく魔法使い。
……落ちた小袋に手を伸ばす。
金額を数えながら、頬に手を当てる。
ちょっと腫れてた。
クソ客がッ!