第9話 敵か味方か? 新たなる胎動じゃ!
『リバーシ世直し隊』の結成から数日、ワシらがリバーシに転移してから、早くも一週間がすぎておった。
暴行容疑で拘束されたグレイ達の保釈は叶わず、一家の問題は大きく報道され、リバーシの福祉政策の問題が改めて議論されるようになる。
奴らが『公的施設』に収容しようとしていたクラウンさんも、自己保身に追われた厚生労働省から恩情措置を受けたのじゃ。
じゃが、根強い世代間対立があり、クラウンさんも一度は安楽死を受け入れておった。
ワシらが勢いに任せて、一方的に持論を押しつける愚行は避けなければならないじゃろう。
この間のワシは、基本的にボランティアとアパートの往復の日々。
フレディの仕事がない時だけ、彼の探偵事務所に寄って情報収集するくらいじゃな。
するめは玉の輿に乗る野望もあるのか、本格的に議員選挙出馬への準備を始めたマーシュの部屋へ、押しかけ女房さながらに入り浸り。
そして蛍はプロ野球スカウトに顔とプレーを覚えられ、次回のプロテストに参加しようと練習に力を入れるようになったのじゃ。
三人で暮らすには狭いアパートじゃったが、なかなか三人が揃わなくなった今は、少しばかり寂しい。
じゃが、少しでもこの世界を良くして、するめや蛍が永住出来るようになるなら素晴らしいことなのじゃろう。
「槍手様、研究の結果、転移に関する新しい事実が判明しました! 研究所に来て下さい」
カイリーから連絡を受けたのは、とある日の夕暮れ時。
偶然にも全員のスケジュールが合い、カイリーが居残り研究をしている間に他の職員が定時で帰宅したため、ワシらは難なく入室出来たのじゃ。
「……この通り、転移の鍵を握っている鉱石はそれほど大きいものではなく、月の光を浴びなければその効力を発揮出来ません。そして、自ら発する光を遮らないように、こうしてベランダに置かれているのです」
確かに、ワシの顔より小さいくらいの大きさじゃ。
実に不思議な存在じゃが、一言では説明出来ないほどの神秘的な雰囲気を放っておる。
「しかしながら昨夜、月の光に研究所のライトを特定の角度から合わせることで、鉱物がかすかな発光を繰り返したのです。これはつまり、偶然ふたつの光が満月に近い照度になったのでしょう」
「何じゃと!? それはつまり、人工的な光でも鉱石から転移の光を引き出せるということなのじゃな?」
ここ数日は、『世直し隊』の使命感に突き動かされ、地球に帰りたいという気持ちが薄れておった。
じゃが、この研究が成功すれば、月の光さえあればいつでも地球に帰ることが可能となり、仮にワシらが命を狙われても地球に脱出出来るわい。
「良かった! イカヨちゃんがいなくなった後で、あたし達も寂しくなって地球に帰りたくなっちゃうかも知れないしね」
「僕の実力だと、日本でプロ野球選手には到底なれません。でも、もしここでプロ野球選手になれたら、いつか僕みたいな経験をした子ども達を、ここに連れてきたいですね」
するめも蛍も、自分達が関わるようになったリバーシの未来を明るくしようとしておる。
この研究が地球とリバーシとの架け橋になった時に、どちらも正しい道を歩んでいるよい報せを、恐らく天国におるワシに届けて欲しいものじゃ。
「いやはや……選挙のためとはいえ、昼は高収入の肉体労働、夜は勉強の毎日はキツいですね。最近はするめさんに晩ごはんを作ってもらってばかりいるんですよ。ばあちゃん、寂しくさせてすみません」
父親の遺志を継ぐ重圧のようなものが取れ、歳相応の気さくな青年になったマーシュ。
するめは元来面食いな上に、将来の議員候補というポテンシャル込みでおぬしを狙っておるからのう。
気にするな、むしろ警戒しろ。
「みんな、充実しているようで何よりだな。だが、少し気になる話が来ているぞ。知り合いの新聞記者によると、医師会と製薬会社の重役が、政府に福祉政策見直しを要求している。彼らは今回の件で俺達を知り、共闘のために接触したいとのことだ」
全員が揃うタイミングを待っておったのじゃろう。
話をするフレディの肩には、研究所に来るだけの用にしては大きくふくれた鞄がかけられておる。
「医師会と製薬会社? 彼らの行動は人道的な動機なのか、それとも自身の利益を上げたいだけの動機なのか、ちゃんと見極める必要がありますね」
ワシらも感じた疑問を、理系のカイリーはいち早く言語化した。
確かに、人道的に福祉政策を見直したいのなら、まずは高齢者や障がい者に声をかけて署名でも集めるのが道理じゃろう。
「……俺も、この話は少し怪しいと思っている。だが、政治に介入しようとすれば、綺麗事だけで話は進まない。これまでもリバーシの福祉政策を解決すると訴えて当選した議員が、金に負けて政府寄りになったこともあったからな」
フレディに悪意は全くないが、彼も警察組織から裏切られた男じゃ。
無意識のうちにマーシュに視線を向けておるのも、彼の意志を確認する意味があるのじゃろうな。
「『世直し隊』の活動を広めるためには、彼らに接触して露出を増やす方がいいじゃろう。仮に彼らが単なる金の亡者だったとしても、相手は医師会や製薬会社の重役じゃ、裏でつながっている悪党をあぶり出せるに違いないわい」
「さすがはイカヨさん! そういうことなんだよ!」
フレディは満面の笑みを浮かべて膝を叩き、多少のリスクは背負ってでも『世直し隊』のアピールを最優先すべきと訴えた。
「ちょっと待って! あたしもその案には賛成だけど、リバーシ中に素顔がバレちゃうと職場にも迷惑がかかるし、蛍のプロテストにも影響するかも知れないわ。あたし、みんなのお面を作ってきてあげる!」
デイサービスでもレクリエーションに積極的じゃったするめが、思わぬ提案をぶち上げる。
確かにワシらは素顔を隠した方が無難な立場じゃが、ひょっとこみたいな笑えるお面で、ワシのエモい説教が腰砕けになるのだけは防がねばなるまい。
「するめ、出来るだけかっこよく、かつ本人に似てないお面を頼むぞよ!」
平凡な人生ではまず口には出さない、自分でも恥ずかしいお願いじゃな。
「この度は我々のお誘いを受け入れていただき、誠にありがとうございます。私はリバーシ医師会のサンド、あちらは製薬会社バイヤンのミューラーです」
高級レストランを貸し切り、医師会と医療機器メーカーの代表者に招かれたワシら『リバーシ世直し隊』。
とは言うものの、向こう側はどちらも会長や社長といった重役ではなく、中堅課長クラスじゃった。
まずは自己紹介で様子見、仮に不穏な動きがバレたとしても、お偉方とは無関係……という根回しじゃな。
「ぷっ……は、はじめましてミューラーです。我々は医療に関わる者として……ぶはっ! 現在のリバーシの福祉政策には良心の呵責を禁じえま……ヒッヒッ!」
シリアスな話を台無しにする半笑いは、ミューラーのせいではない。
するめが作ってくれたワシらのお面の完成度が、中途半端に高いせいなのじゃ。
職場への取材などを避けるために、素顔を隠すことを承諾してもらったワシらじゃったが、お面はまさに、デイサービスのレクリエーションクオリティな厚紙製。
じゃが、するめの絵心はプロ漫画家顔負けで、その絵柄は息子が幼い頃に無理やり一緒に見せられた、『世ピーー末救世ピーー伝説』系アニメに酷似しておった。
ワシの息子と、するめの両親の世代は近い。
くっ、そういうことじゃったのか……!




