第8話 『リバーシ世直し隊』結成じゃ!
正体バレバレの白忍者軍団の襲撃。
グレイ達は自分達の勝利を疑わんじゃろうが、広場の観衆は早く蛍のプレーを見たがっておる。
この戦、負けるわけにはいかんぞよ!
「またあんた達ね……おりゃあぁっ!」
一度でも拳を交えた相手は、素顔が見えなくとも闘気で分かる。
ヤンキー理論が心身に染みついたするめの戦いぶりは、タイマン勝負なら危なげなく見られるわい。
「頭と急所は狙いませんから……せいっ!」
強豪校の練習で鍛え上げられた、蛍のノック技術。
先日後頭部に投げた反省からか、打球の勢いこそソフトじゃが、その軟式球は確実に白忍者の腹部をヒットしよった。
「あのババアの右足を折っちまえ、そうすりゃあ安楽死一直線だ! なあに、ちょっと暴れても、勝てば親父に揉み消してもらえるから安心しな!」
「よっしゃあ、老害狩りだぜヒャッハー!」
蛍達が見るアニメや小説にも、ここまでアホな若者は登場しないはずじゃ。
この笑顔、ある意味大切にしたい裏国宝級。
「イカヨさん!? おい、もういいだろ! あの白忍者こそ犯罪者だぞ!」
フレディからの要請を受け、遂に警官も参戦。
じゃが、グレイは警棒を振り回しておる。
さすがに三人に囲まれたら、ワシの杖では防ぎきれんぞ、はよう助けに来てくれ!
シャキーン!
後づけの効果音としか思えない閃光とともに、グレイの持つものと同じ警棒が、ワシらを制止するようにグラウンドに突き刺さる。
この警棒が転移局のものだとしたら、まさか……?
「槍手さん、間に合いましたね! 遅れてすみません!」
講演会場では姿を見なかったマーシュが、満を持して助太刀に参上じゃ。
しかしこのタイミングでの登場の仕方、ワシはどこかで見たことがあるぞよ……?
「弟と一緒に新兵器を開発していたので、時間がかかってしまいました。人間が嫌う成分を厳選して配合した、特製の防犯スプレーです」
サイコパシーな微笑みを浮かべ、いつもの白衣姿とは異なる謎素材の銀色スーツ着用のカイリーも登場し、これで役者は揃った。
最後はあの男が、あのパフォーマンスを見せつけさえすれば完璧じゃぞ!
「どぉりゃあぁ! お前達さっさとお家に帰んな!」
そのパワーを活かしたフレディが、白忍者をひとり軽々と抱え上げ、まるで猿が飛ぶように空中へと放り投げる。
これじゃ! これこそワシの求めていた仲間達じゃ!
「あなた、嫌な気持ちになりなさい!」
カイリーはあまりにもダイレクトな、人の心に土足で踏み込む決めゼリフを炸裂させ、四人目の白忍者もスプレー地獄に悶えさせる。
遂にグレイとの一騎討ちじゃな!
「イカヨちゃん、逃げて! こいつはあたし達が倒すから!」
「何を言うておる! 言い出しっぺのワシが戦わなければ、この世界の高齢者や障がい者、重傷者を守ることにならないではないか! グレイよ、さあかかってくるがよい!」
するめの気持ちはありがたいが、ここは槍手イカヨの意地を見せねばならぬ時じゃろう!
「……その度胸、見上げたものだぞババア! お前は憎たらしい奴だが、そのへらず口を政府のために使うように、捕えて再教育するのもいいかもな!」
ワシの熱さに感銘を受けたのか、グレイの態度が軟化しておる。
青春時代を母親の介護に奪われた恨みがあるだけで、根は悪い奴ではないのかも知れんな。
「ほいっと!」
じゃが、ワシは感情に流されやすいグレイに一切の遠慮を見せず、突進する奴の腹部を狙って杖を打ち込む。
立ち技格闘技における『前蹴り』の要領じゃ。
ちーーん!
杖で前蹴りを模したワシじゃったが、加齢で腕が上がりきらず、杖の先はグレイの腹部の下、股間を直撃してしもうた。
「んがっ……くっくっ……!」
なまじ勢いに乗って飛びかかっていただけに、グレイのダメージは大きい。
奴は地面に崩れ落ち、そのまま激痛に悶え続ける。
「ぐふっ……おいマーシュ、こんなババアに手を貸して、上司の俺に逆らうとは……。お前、どうなるか分かっているんだろうな……!」
信じたくはないが、グレイは両親の七光りで転移局の上層部に収まっておる。
じゃが、マーシュとカイリーの表情はどこかふっ切れたように明るい。
「……こんな仕事、辞めてやりますよ。父と同じ職場で遺志を継ぎたかったですが、あなたのような人の下では、もう働けません」
「私も辞めます。とは言え、私より真面目で優秀な科学者は転移局にいませんからね。早速委託契約してもらいましたよ、給料アップでね」
二人の決断に、観衆から割れんばかりの拍手が沸き起こる。
カイリーは研究を続けるとして、マーシュは世直しのためにも、見識を高めながら議員を目指してほしいものじゃ。
「いやあ、見応えがありましたね。一部始終カメラに収めましたよ。これだけ暴れたら、さすがのドラ息子もただでは済まないでしょうな!」
観衆の中から突然現れた、スーツ姿の男達。
フレディほどではないものの、なかなかに立派な体格じゃのう。
「おぬしらは、何者じゃ?」
「申し遅れましたね。我々はプロ野球チーム『ノーザン・シルファーナ』のスカウトです。ウチは弱小の貧乏球団ですので、契約金のかからないテスト生を定期的にスカウティングしているのですが、逸材がいると聞きましたので……」
何と! この男達は蛍のプレーを見にきたのか。
『北のイカ』とは、ワシらにとって縁のありそうな名前じゃが、長い状況説明で話のテンポを悪くしただけに、残念じゃろうがもうセリフはやらんぞよ。
「その子ならそこにいる! これから打席に入るところさ、守備と走塁も見ていってくれ!」
プロスカウト登場で、選手全員にチャンス到来じゃ。
蛍も目の色を変えておるし、草野球大会も盛り上がるじゃろうな。
その陰でひっそり警察の御用となった、グレイ達白忍者。
奴らはいずれ財務大臣の金で保釈されるじゃろうが、しばらくは親子ともども大人しくなるはずじゃ。
リバーシの福祉政策改善は、究極的に総理大臣とその支持基盤を揺さぶらなければ前進せん。
じゃが、次の選挙まで世論を高めるなどという悠長なことをしておったら、ワシは日本に帰れなくなってしまう。
これで満足することなく、より大きな成果を上げなければ!
「マーシュ、カイリー、そしてフレディ。ワシらみたいな、リバーシにきて間もないよそ者に力を貸してくれて、本当に感謝しておる。ありがとう!」
蛍はいきなりのツーベースヒットで広場を沸かし、ワシの感謝の言葉は聞こえにくくなっておる。
まあ、みんなの顔を見れば、お互いの生きる道が一致したことは容易に想像出来るのじゃがな。
「……前にも話したが、するめと蛍はともかくとして、ワシは次の満月の夜には地球に帰りたい。じゃが、グレイ一家を失脚させただけではこの世界は変わらんじゃろう。もう少しだけ、ワシらに力を貸してくれるか?」
「もちろんですよ、槍手さん! 私が転移局を辞めたのは、父の遺志を政界で活かすことに決めたからです!」
提案者である、カイリーの協力も得られたのじゃろう。
マーシュの人柄と知名度を考えれば、投票の機会さえあれば当選はさほど難しくはないだけに、もっと同志にアピールしなければならん。
「マーシュ、ワシらの仲じゃ。槍手さんなどと、よそよそしく呼ぶな。もうババアでもよいぞ」
「ありがとうございます! うちは祖母も早く死んでしまったので、寂しかったんですよ。ばあちゃんって呼ばせて下さい!」
二塁ベースから手を振る蛍を含め、ワシら『リバーシ世直し隊』、ここに堂々の結成じゃ!




