ぼくは旅するランドセル
この作品は、『第4回「下野紘・巽悠衣子の 小説家になろうラジオ」大賞』への応募作品です。
「わあ!」
ぼくは、誇らしかった。
こんな子に使ってもらえるなら、ぼくの幸せは約束されたようなものだ。
そう思ってしまうくらい、チカちゃんの笑顔は、まぶしかった。
「チカの!チカのランドセルが来た!パパー!」
*
「チカちゃんのランドセル、かわいい!」
「うん!プリンセスとお揃いなの!」
チカちゃんとお友達の会話を聞いていて、わかったことがある。
ぼくは、チカちゃんが大好きなプリンセスのドレスと、お揃いの色のランドセルなのだ。
毎日身につけるものの選び方としては、バッチリだ。
さすが、チカちゃん。
*
「チカ!こっち向いて、笑って」
パパがそう促すと、チカちゃんはピッ!と背筋を伸ばして、パパのカメラに向かってピースを作った。
看板を挟んで立っていたママも、胸元でピースをして微笑んでいる。
「ハイ、チーズ」
“入学式”と書かれた看板。
チカちゃんとママ、そしてぼくが、写真に収まった。
チカちゃんとぼくの、“旅”の始まりだった。
*
そして、今。
ぼくはもう長いこと、暗闇の中にいる。
“ダサい”
”格好悪い”
”恥ずかしい”
学年が上がるにつれ、ぼくたちをそんな風に評する声が飛び交うようになるらしい。
全く、失礼な話だ。
しかし、その渦に飲み込まれるように、チカちゃんの心は折れてしまった。
そして、チカちゃんはぼくと、“さよなら”することを選んだ。
ーーかくして、ぼくはもう長いこと、暗闇の中にいるわけなんだけど。
ぼくは、思いがけず光の下に出ることになった。
*
ぼくは、光の中で、“旅”をした。
色々な場所に運ばれた。
身体を切られたかと思ったら、糸で縫い合わされた。
生きていると、本当に色々なことが起きる。
そして、ぼくは旅の最後にーー
この家に、帰ってきた。
*
「千花、これ」
パパから差し出されたぼくを見たチカちゃんは、目を大きく瞬いた。
「……キーケース?」
「そう。千花のランドセル、リメイクしてもらったんだ」
チカちゃんが、パパからぼくを受け取る。
「千花はその色、ずっと好きだろう?」
ぼくを見つめながら、チカちゃんが穏やかに微笑んだ。
「……うん」
チカちゃんの笑顔は、あの頃のように眩しいものではなかったけれど。
ぼくはその優しい笑顔を、たまらなく愛おしいと思った。
「また、よろしくね……って言っても、いいのかな」
ーー“いい”に、決まってるじゃないか!
*
こうしてぼくは、また“旅”に出ることになった。
今度は、一人じゃない。
チカちゃんと一緒に、旅に出るのだ。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。「なろうラジオ大賞4」へは、他にも作品を投稿しています。もしご興味がありましたら、ぜひ覗いてみてくださいませ。