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ぼくは旅するランドセル

この作品は、『第4回「下野紘・巽悠衣子の 小説家になろうラジオ」大賞』への応募作品です。

「わあ!」


 ぼくは、誇らしかった。

 こんな子に使ってもらえるなら、ぼくの幸せは約束されたようなものだ。

 そう思ってしまうくらい、チカちゃんの笑顔は、まぶしかった。


「チカの!チカのランドセルが来た!パパー!」



「チカちゃんのランドセル、かわいい!」

「うん!プリンセスとお揃いなの!」


 チカちゃんとお友達の会話を聞いていて、わかったことがある。

 ぼくは、チカちゃんが大好きなプリンセスのドレスと、お揃いの色のランドセルなのだ。

 毎日身につけるものの選び方としては、バッチリだ。

 さすが、チカちゃん。



「チカ!こっち向いて、笑って」


 パパがそう促すと、チカちゃんはピッ!と背筋を伸ばして、パパのカメラに向かってピースを作った。

 看板を挟んで立っていたママも、胸元でピースをして微笑んでいる。


「ハイ、チーズ」


 “入学式”と書かれた看板。

 チカちゃんとママ、そしてぼくが、写真に収まった。


 チカちゃんとぼくの、“旅”の始まりだった。



 そして、今。

 ぼくはもう長いこと、暗闇の中にいる。


 “ダサい”

 ”格好悪い”

 ”恥ずかしい”


 学年が上がるにつれ、ぼくたちをそんな風に評する声が飛び交うようになるらしい。

 全く、失礼な話だ。

 しかし、その渦に飲み込まれるように、チカちゃんの心は折れてしまった。


 そして、チカちゃんはぼくと、“さよなら”することを選んだ。


 ーーかくして、ぼくはもう長いこと、暗闇の中にいるわけなんだけど。


 ぼくは、思いがけず光の下に出ることになった。



 ぼくは、光の中で、“旅”をした。


 色々な場所に運ばれた。

 身体を切られたかと思ったら、糸で縫い合わされた。


 生きていると、本当に色々なことが起きる。


 そして、ぼくは旅の最後にーー


 この家に、帰ってきた。



「千花、これ」


 パパから差し出されたぼくを見たチカちゃんは、目を大きく瞬いた。


「……キーケース?」

「そう。千花のランドセル、リメイクしてもらったんだ」


 チカちゃんが、パパからぼくを受け取る。


「千花はその色、ずっと好きだろう?」


 ぼくを見つめながら、チカちゃんが穏やかに微笑んだ。


「……うん」


 チカちゃんの笑顔は、あの頃のように眩しいものではなかったけれど。

 ぼくはその優しい笑顔を、たまらなく愛おしいと思った。


「また、よろしくね……って言っても、いいのかな」


 ーー“いい”に、決まってるじゃないか!



 こうしてぼくは、また“旅”に出ることになった。


 今度は、一人じゃない。

 チカちゃんと一緒に、旅に出るのだ。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。「なろうラジオ大賞4」へは、他にも作品を投稿しています。もしご興味がありましたら、ぜひ覗いてみてくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大切な事が、いっぱい書かれてますね。 [一言] あぶねー あぶないっす これ 泣いちゃうよぉおお!!
[良い点] ランドセル、1年生の時は可愛いデザインを自慢げに見せてくれていたのに、高学年になると……ですよね。 切ないなぁぁ。 リメイクされて、チカちゃんと一緒に旅ができるようになって良かったね。 …
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