女の勘です
「私、あいちゃんは鍵沼くんに気があるんじゃないかと思うんです」
「……急にどうしたんだ」
俺とさなとが交際を始めてから、早いもので数日が経った。
あい、そして同じ写真部のなぐも先輩と小鳥遊には俺たちの関係を話したが、それ以外は特に誰をなにを言うでもなく、過ごしていた。
そんなある日のこと。今は放課後で、写真部の活動中だ。
最近では外に出て、景色を撮ることが多くなった。そんな中で、さなは声を潜ませて、俺に話しかけてきた。
「いえ。私その、真尾くんとこ……恋人になったじゃないですか。
だからといっていいのかはわかりませんが……少し、そういうことに、興味が出てきまして」
交際から数日経っても、恋人とすらすら言えないさな。かわいい。
そういうこと、とは他人の恋愛事情とかだろうか。
まあ、その気持ちはわからんでもない……俺の場合、さなへのアプローチに集中しすぎて、今ようやく余裕が出てきたレベルだからな。
前を歩くあい、なぐも先輩、小鳥遊に気付かれないよう、俺も声を抑える。
「で、さなの目から、あいが鍵沼に気があるように見えた、と」
「はい」
先ほどの言葉を確認するように、復唱する。
どうやら、聞き違いではなかったらしいな。
ふむ……俺の目から見ても、あいは鍵沼に対してなにかしら、思うところがあるのではないか、という印象を感じることはあるが……
「本気で嫌っているとは思えないが……だからといって、男として好いているとは、俺には思えないが……」
もしも本気で鍵沼のことが嫌いならば、話すらもせずに関係を断てばいい。そうしない時点で、少なからず人間として好いていると……
……これ俺自身にも返ってくるな。これ以上考えるのはやめよう。
とにかく、さなの話はちょっと飛躍し過ぎな気もするが……
「どうして、そう思うんだ?」
「勘です」
言い切った。
「か、勘か」
「はい、勘です」
こうも自信満々に言い切られては、それを否定することも難しい。
そもそも、本人に聞いたわけでもないのだから、否定もなにもないし、そんなことないたもろうと否定する理由も俺にはないのだが。
「あいから恋愛相談を受けた……とかでは、ないんだな?」
「はい。
というか、あいちゃんの気持ちは多分、無自覚じゃないかと」
「無自覚」
実際にそういう人物がいるかは知らないが、好きな相手に素直になれず逆の行動、言動を取ってしまうというパターンがあるらしい。
俺からすれば、そんな回りくどいやり方……と思うが。
さなの言うように、あいが無自覚のうちに鍵沼に想いを寄せているのなら……そういう種類の、人間なのだろう。
「だが、それが本当なら……」
勘、とはあまりに根拠のない理由だが、俺にとってはさなの意見というだけで聞くには充分だ。
ただ、さなの予想が正しいとして……俺にとっては、悩みのタネが増えることになる。
なぜならば、今まさに共に行動している小鳥遊が、鍵沼のことを好きだと言うのだ。闇野を通じてその件を明かされ、一度は鍵沼とデートもした仲だ。
……そう言えばあのとき、不自然にあいと会って、その後行動を共にしたが……もし、さなの予想通りだとしたら……
「ん、どうかしました?」
「いや……その通りなら、面白いような面倒なような、複雑なことになりそうだなと思っただけだ」
「ふふ、そうですね」
さなに嘘をつくのは心苦しいが……一応、嘘を言っているわけでもないし。
面白そうで面倒だ……というのも本音だ。ただ、俺とさなの認識には、大きな差があるだけで。
俺は、小鳥遊の気持ちを知っている。しかし、さなはそれを知らない。当然あいもだ。
俺はもちろん、闇野が勝手に誰かに話すはずもなし。小鳥遊自身も、極力人に話すのを避けるべきだ。
つまり、現状小鳥遊の鍵沼に対する気持ちを知っているのは、俺と闇野のみ。且つ、そこにさなの予想が加われば……
……面倒なことに、なる。
「厄介な……」
もしもあいが鍵沼に対して、男としての好意を抱いているとしたら。友人として、全力でサポートするつもりだ。
だが、それよりも前に、小鳥遊の気持ちを打ち明けられた際、協力する的なニュアンスのことを言ってしまった気もするし……いや、たとえ言ってなくても、小鳥遊の気持ちを知った上であいを応援することは難しい。
逆もまた然りだ。
これが、さなの勘違いならばここまで悩む必要もないのだから……
「あいちゃん、鍵沼くんと話してるときは、口は悪いですけど、楽しそうなんです!
これは絶対、なにかあるなと思って!」
やけにさなが自信満々だ。というか楽しそうだ。
さなが楽しそうなのはいいことだ。状況が状況でなければな。
なんにせよ、あいの気持ちを確かめることが先決か……さなが言うには、あいは無自覚らしいからどうやって確かめるんだってところからだが。
これがまだ自覚ありなら、幾分やりやすかったものを。
「おーいお二人さんー。なーにイチャイチャしてるのさー」
「い、イチャイチャはしてません!」
ふと、前を歩くなぐも先輩が振り向き、意地悪げな笑みを浮かべていた。
あの人、俺とさなが恋人同士になったと知るや、それからちょくちょくからかってくる。こんな性格だったのか。
イチャイチャと指摘され、さなは赤くなってなぐも先輩の所へと駆けていく。俺も、足を進める。
その際、小鳥遊とちらりと、目があった。
「? どうかしました?」
「いや……」
なにをどう確かめるにせよ……あいが鍵沼を好きかもしれない、という話は、小鳥遊にはバレないようにしないと。
さなにも口止めをしておかないとな。小鳥遊が鍵沼を好きであることは、うまく伏せたままで。
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