祝恋人同士
「というわけで」
「お、お付き合いすることに、なりました」
「キャー!」
さなとのデート……その日、俺たちはめでたく恋人同士となった。
それを、あいに伝えたのは次の登校日だ。電話などで伝えてもとは思ったが、まあ顔見て言わないと味気ないし……
あいは、結果だけ見ればさなを後押ししてくれたからな。さなが俺をデートに誘うように後押ししたのはあいだし、それがなければこの結果は生まれなかったかもしれない。
なにより、さなの一番の友達だ。ゆえに、報告をするのは当然とも言えるだろう。
「まさか、さなちゃんから誘ったデートのその日のうちに、恋人同士になっちゃうなんて!」
キャー、と頬に手を当て、あいは腰をくねくねと動かしている。
まあ、喜んでくれているのだなということは、わかるが……
「それにしても、なんでこんな教室の隅っこで?」
ふと、あいは首を傾げた。
そう、ここは教室内の、その一角……なにも、堂々と教室のど真ん中で話していたわけではない。
「や、だって……誰が聞いているか、わからないし……」
恥ずかしげに……実際に恥ずかしいのだろうが……組んだ指先を動かし、もじもじしているのはさなだ。
どうやら、付き合い始めたと誰かに聞かれるのが、心配なようだ。
「あ、ま、真尾くんと付き合ってるのが恥ずかしいってわけじゃ、なくてですね……!」
「わかってる。それに、わざわざ誰に聞かせるものでもないだろう」
あいは友達だからともかく、ただのクラスメイトとわざわざ、聞かれてもいないのに聞かせる話でもない。
まあ……さなに恋人ができたという話が広がれば、今以上にさなに近づく男は排除できるだろうし、場合によってはその情報だけでも……
「おやおや、いつの間に名前で呼ぶ仲になっちゃって」
「ぅ……」
さなから、俺の呼び方が変わったのはデート中のこと。
当然、あいはそのことを知らないわけで……
呼び方が変わったことを、からかわれているようだ。なんか見ていて楽しいな。
「それにしても、気をつけないといけないね」
「気をつける?」
「そう! この手の話、聞かせたらいけない人間がいるんだよ!」
聞かせたらいけない人間、との言葉にさなはピンときていないようだが……俺には、わかる。
やはり、あいよ……お前も、同じ思いを抱いていたか。
「聞かせたらだめな人?」
「えぇ、それは……」
「鍵沼だな」
「そう! あいつにバレたら……あいつのことだから、すーぐに話が広まって……」
「俺がなんだって?」
「ひっ!?」
聞かせてはいけない人間……あいと考えていることは一緒で、さなにも注意を共用しようとしていた。
しかし、正面……あいの背後から、突然現れたのだ。当の鍵沼が。
お化けかお前は。
「ち、ちょっと! いきなり後ろから現れないでよ!」
「あぁーん? ……ははーん、ひょっとして怖かったのか? お前怖いのだめだもんなー」
「は、はぁ!? そんなんじゃないし! ボク別に怖いの平気だし!」
突然現れた鍵沼、なぜかぎゃいぎゃい噛みつくあい。
そんなに必死になっていては、図星だと言っているようなものだが。
……なんにしても、だ。
「で、俺がどうしたって?」
……こいつは、さっきの話を聞いていたのか、いなかったのか。それが問題だ。
この様子だと、聞いてはいない。カマをかけている可能性もあるにはあるが……相手はあの鍵沼だ。そんな服芸はできまい。可能性は限りなく低いだろう。
ならば……
「気のせいじゃないか? お前の話などこれっぽっちもしていない」
「それはそれで悲しいんだけど!」
なにもやましいことなどないと、突っぱねるのが一番だ。実際、やましいことはないわけだし。
さっきの話を聞いていないのならそれでよかったし、聞いていたんだとしたら記憶がなくなるまで殴るだけだ。
「あ、あの……」
「ん?」
ちょいちょい、とさなに、背中部分の服を引っ張られる。なんだその仕草かわいいな。
さなはこっそりと、という仕草を見せつつ、口を開く。
「えっと……私、みんなに気づかれるのは恥ずかしいけど、鍵沼くんになら、話しても構いませんけど……」
「いや、それは却下する」
「なんでです!?」
さなとしては、一応仲のいい人物だから伝えても問題ない、と思っているのだろう。
だが、そう思うこと自体が間違いだ。
「だめなんだ。鍵沼には、話せない理由があるんだ」
「……理由?」
意味ありげな俺の言葉に、さなは小さく息を呑んだ。
「あぁ。
あいつは、バカなんだ」
「そう、バ……え?」
俺の言っていることが、わからないといった表情をしていた。
それも仕方ないかもしれないが……これは事実だ。
「あいつは、隠し事とかうまくない。
よって、俺のさなの関係を話したら……その事実は、秒で学校中に広まるだろう」
「秒で!?」
秒は言い過ぎだったかもしれない。
だが、要はそういうことだ。鍵沼に話せば、隠し事のできないあいつはすぐに知り合いや友達に話し、その友達が友達に……といった具合で、どんどん広まっていくだろう。
しかも、俺とさなが恋人に、という、いかにもあいつの好きそうな話ならば、なおさらだ。
「さなは、そうなっても構わないか?」
「それは……
構い、ますね」
表情を曇らせ、そうなったときのことを想像しているらしきさな。
そうなってしまえば、ここでこうして秘密にしていることが無駄になってしまう。
俺は、誰になにを知られようと構わないが、さすがに学校中に広まるのは勘弁願いたいものだ。
「というわけで、鍵沼には秘密だ」
「わ、わかりました」
ぎゃいぎゃい、と言い合っているあいと鍵沼。その姿を目に収めつつ、さなは苦笑いを浮かべていた。




