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送り届ける



「なんか見てるこっちがヒヤヒヤするわー」


「ほんとにね」


 一連のやり取りを見ていた鍵沼、あいがそれぞれ言葉を漏らす。

 その言葉の真意を、俺は計りかねる。


「どういうことだ?」


「いや、まあ……そういうとこ」


 だからどういうところだよ。


「ま、なにはともあれまずはお友達からってことで、仲良くしていけばいいんじゃないか?

 あ、俺とも仲良くしてね!」


「あんたはお断りよ」


「お前に言ってねえよ!」


 まだ会って数時間だというのに、この二人の人間関係がだいぶわかってきたな。

 これはあれだ……犬猿の仲、というやつだ。


 多分、俺から仲良くしろと言ってみても、無理なんだろうな。


「こいつはどうでもいいけど、光矢クンは全然話しかけてきてくれていいからね!」


「あぁ、そうさせてもらう」


「俺も仲間に入れてくれよ!」


「……ふふっ」


 何気ない会話を交わしながら、下校の道を歩く。

 今まで、俺が得ようとして得られなかった光景だ。


 客観的に見れば、別に身になる話をしているわけではない。

 それでも、一人であるよりも充実した時間のように、思えた。


「それじゃあ、私はこっちなので……」


 分かれ道にて、さなが足を止める。

 どうやら、俺たちとは別の道であるらしい。


 ふむ……ここは、男として送り届けるべきだろうか。

 それくらいなら、またどうのこうのと言われることは、ないはずだが。


「さな、一人では危ないだろう。俺が送ろう」


「ふぇ」


 少し考えた結果、送り届けることを申し出ることにした。

 まだ日は高いとはいえ、一人で帰らせるのは心配だ。


 魔力を使えば、目的地までひとっ飛びなのだが……

 それを使わぬおかげで、長い時間一緒にいられる。


「じゃあ、その……お願い、します」


「お」


 てっきり、断られる……とまではいかなくても、また恥ずかしがって押し黙るかと思っていた。


 それが、恥ずかしそうにはしているが……

 しっかり、お願いすると、そう言ったのだ。


 お願いされては、しっかり送り届けなければいけないだろう。


「そういうわけだ。あい、鍵沼、俺もここで失礼する」


「……そっか、わかった」


「さ、さなちゃんを、よろしくね」


 なんだろう、二人の笑顔が、妙に引きつっている。

 しかも、お互いに睨み合っている。


 ……もしや、俺がさなを送ることにしたから、あいと鍵沼が二人きりで帰ることになる、ということか。


 かといって、俺の行動を止めるわけにもいかない。

 結果として、あんな顔になってしまっているわけだ。


「二人も、仲良く帰れよ」


「よ、余計なお世話だ!

 誰が仲良くなんて……」


「そ、そうだよ!」


「あはは……二人とも、また明日ね」


 確か、あの二人は幼馴染……家も隣同士だと言っていたな。

 ということは、帰りは家につくまで二人きりの空間が続くということか。


 正直、その光景を見たくないかと言われれば嘘になるが……

 それよりも、さなを送り届けることのほうが大事だ。


 それに、家に送り届けることによって、合法的にさなの家を知ることができる。


「あの二人は、見ていて面白いな」


「そうですね。さなちゃんがあんなに男の子と仲良さそうにしているの、初めて見た」


 本人が聞いたら、間違いなく否定するだろうが……やはり、さなの目にも、あの二人は仲良く見えたのか。


 確か、喧嘩するほど……って言葉がある。

 本気で嫌い合っていたら、そもそも話もしないだろう。


「あいとは、中学の頃に一緒に?」


「はい。一人だった私に、話しかけてくれて……よく遊ぶようになって。

 でも女子校だったから、男の子と話した経験もなくて……遊びに行った時に、男の子に声をかけられたんです。

 そんなとき、あいちゃんが助けてくれて」


「ほぅ」


「男の子に物怖じせず、すごいなぁって思ってたんです。

 なんでだろう、私とは違うんだなって思ってたら……」


「あいには、幼馴染の男がいたわけだ」


 鍵沼と、顔をあわせる度に言い争い。

 そんな経験があったから、他の男子にも物怖じはしなかったのかもしれない。


 俺に話しかけてきたときも、そうだ。

 あいは堂々としていた。


「私、あいちゃんに憧れてるんです。

 あ、これあいちゃんには、内緒ですよ?」


「憧れ?」


「さっきみたいに、初対面の光矢くんにも、堂々と話をしていて……

 私は、ちょっとそういうの苦手だから……」


 さなの性格は、消極的……引っ込み思案とでも、言うべきか。

 女子校に通っていたのも、異性との会話がうまくいかない理由にあるんだろう。


 俺は、そんなところがあってもいいとは、思うけどな。


「あまり気にすることはないんじゃないか。さなにはさなの長所がある」


「私の……」


 ……と、ちょっとかっこよく言ってはみたが……

 まだ会ったばかりで、さなのことはなにも知らないのにな。


 それでも……


「ふふっ。ありがとうございます」


 さなは、笑っていた。


「あ、ここです」


 そうやって話し込んでいるうちに、いつの間にか目的地、さなの家についていたらしい。

 家を見上げる……


「……でかいな」


 ウチとは、大きさが全然違う。

 こんな家、現実にあるんだな。


 女子校がお嬢様学校だったというのも、あながち間違いではないのかもしれない。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

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