最後まで見届けよう
その後、鍵沼と小鳥遊のデートを観察していたが……
意外にも、鍵沼のリードはしっかりしていて、相手を楽しませることを第一としているようだった。
かといって、相手が気遣わないように、自分の好みにも付き合ってもらう。
うまいな……女慣れしているのか? あいつ。
鍵沼を参考にするのは癪だが、今度さなを誘った時の参考にしよう。
さて、意外と健全なデートをしている二人を、尾行している不健全な男女がここに三人。
「なあ、もう帰らないか?」
以前、さなとのデートを尾行されていた俺が、無理やり引っ張られたとはいえ他人のデートを尾行する側に回っている。
なんと、頭の痛い展開だ。
闇野のやつめ、俺とは関わらないとか言ったの、もう忘れてるんじゃないだろうな。
「ででで、でも! もし、このあと、ほ、ホテルとか行ったら……!」
「それは飛び過ぎだと思うけど……」
顔を真っ赤にして、あいは懸念情報を口にする。
あの闇野が諫める側とは、よほど暴走しているのか。
それにしても、あいは思いのほか想像力が豊からしい。
「ホテル……? さすがに高校生だけで宿泊は……
……あぁ。男女が子孫繁栄のために活用する、公に認められた施設の方か」
「光矢クン!?」
「真顔でなんてことを」
「?」
とにもかくにも、あいが心配していることにはならないと思うがな。
時刻は夕暮れ、夕食を一緒に食べないのなら、そろそろ別れる頃だろう。
なんというか、今後さなをデートに誘った時のために、参考にできる部分が多かったな。
「まあ、ここまで来ればもう心配事は……あら」
闇野も、もう執拗に尾行することはないと口を開く……が。
ふと俺も、違和感に気付く。
空を、見上げる。
鼻先に当たるしずく……
「雨か」
今日の予報では、一日中晴れとのことだったが……
残念なことに、天気予報というものは百パーセントではない。
困ったな、傘なんて持ってきてないが……
「傘を持ってないのは、あいつらも同じか」
鍵沼は論外として、用意周到な小鳥遊だって、まさか今日という日に傘を用意しているとは思わない。
証拠に、わかりやすくおろおろしている。
まあ近くにコンビニもあるし、そこで買えば……
「お?」
しかし、次に小鳥遊がとった行動は、近くのコンビニに入る、というものではなかった。
鞄に手を突っ込み、中を探っている。
そこから、なにかを取り出して……
「折り畳み傘、ですって……!?」
その光景を見たあいが、唖然としている。
そう、小鳥遊は鞄から、折り畳み傘を取り出したのだ。おろおろしていたのは、傘がないからではなく、用意していた傘を取り出すタイミングを見計らっていたのか。
ちなみに、ピンク色の。
男が持ち歩くにはなかなか勇気のいる色だが、小鳥遊が持ち運んでも似合っているものだ。
突然の雨、二人に対してひとつの折り畳み傘、ここから導き出される結論は……
「あいんぐっ……!」
次の行動が予想できたから、俺はすぐにあいの口を塞いだ。
そして、それは正解だった。
一歩遅かったら、「相合傘!」と叫んでいたことだろう。
そう、差し出された折り畳み傘を受け取った鍵沼は、それを差し、小鳥遊と二人で傘に入ったのだ。
それこそ、話に聞いていたが自分が経験することのなかった、相合傘というやつだ。
「へぇ、鍵沼くん積極的ねぇ」
「むぐぐー!」
「そうか? 渡された傘を差しただけだろう」
「はぁ、わかってないわねぇ」
呆れられてしまった。
「ヘタレな男なら、あそこで傘を受け取らずに走って帰ってるわよ」
「……それはそれであまりいないだろう、そういうのは」
「ふっ」
なんだろうか、これ以上あまり聞いたらいけないような気がする。
もしや闇野のやつ、過去に今言ったようなことが……?
……いや、このゴリラ女に限ってそれはないな。
「ねえ、今失礼なこと考えてない?」
「まさか」
「んんんー!」
「あ、悪い悪い」
そうだった、あいの口を塞いだままだったのを忘れていた。
手を離してやると、あいは軽く咳き込み、大きく息を吸う。
大袈裟なやつだなぁ。
「あまり騒ぐなよ、バレる」
「けほ、けほっ……うぅ、光矢クン乱暴だよぉ」
「お前がいきなり騒ごうとするからだ」
実際、あのまま口を押さえていなかったら、バレないかはともかく不審がられていたはずだ。
それを指摘され、あいは拗ねたように唇を尖らせる。
「だって、相合傘なんてしてるんだよ……?」
「なんだ、うらやましいのか」
「はっ……ち、違うし!?
わ、私でもまだしたことないのに、鍵沼に先を越されたのが、生意気だなって思っただけだし!」
「そういうものか」
ふむ、あいもあいで負けず嫌いというか。
それほどに競うほどのものでもないとは思うがな。
しかし、叫びたくなるくらい悔しかったのか。
「なら、今度俺が相合傘でもしてやろう」
「……そういうことじゃないし、もしそんなことしたらさなちゃんに言いつけるからね」
「? なぜさなに……」
「はいはい、言い合いはそのくらいにして。
あの二人ももう帰るみたいだし、私たちも濡れないうちに帰りましょう」
パンパン、と手を叩く音が聞こえて、その主を見る。
呆れたような表情を浮かべた闇野。
確かに、闇野の言う通りこのままでは風邪を引いてしまうな。
「そうだな」
「で、でも……」
「そもそもあいの家は鍵沼の家の隣だろう。
着いていけば、自然と帰宅するか見れるだろう」
「それは、まあ……」
とはいえ、この雨の中をさなひとりで帰らせるわけにもいかないな。
闇野はともかく。
どのみち俺も、途中までは道は一緒なんだ。
この際最後まで見届けるとするか。
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