デートのお約束
「わ、私……ど、どうし、どうしよう……!」
「落ち着きなさい、さらさ」
ある日のこと。廊下を歩いていると、知った声が聞こえてきた。
その主は、闇野 遊子と小鳥遊 さらさだ。
別に休憩時間に廊下に出て話をすることなど、珍しいことではない。
たとえ相手が顔見知りで、なにか困った様子でも。
俺には、なんの関係もないことだ。
そう思って、その場を通り過ぎようとしたのだが……
「待ちなさい、いいところで会ったわね」
闇野に肩を掴まれ、止められてしまった。
俺は、うんざりとした表情を浮かべていたことだろう。
「なんだ、必要以上に干渉しないんじゃなかったのか」
「私だってそうしたいわ。
でも、大切な友達が困っているの」
「それと俺になんの関係が……」
「あるから付き合えって言ってんの」
ここでは人の目もあるということで、近くの空き教室まで移動。
その間、小鳥遊はずっと、そわそわした様子だった。
小鳥遊のことで困っている……俺にも、関係がある。
ここまでくれば、それが鍵沼関連であろうことは予想がついた。
「で、話とは?」
周囲に人の気配がないのを確認し、俺は切り出す。
闇野は自分から言うつもりはないのか、しきりに「ほら」と小鳥遊の背中を押している。
挙動が不審な小鳥遊。それでも、何度か深呼吸を繰り返して……
話す準備が出来たのか、俺を見つめる。
「実は……か、かか、鍵沼さんに……でで、デート、に、誘われまして……」
「…………」
「あ、いや、ちがっ……その、お、お買い物に……!」
「それをデートと言うのよ」
俺は、珍しく頭が真っ白になってしまった。
デートに? 誘われた? 鍵沼に?
おそらく、はっきりデートしようと言われたわけではないのだろう。
一緒に遊びに行こう、みたいなニュアンスだ。
だが、男女が二人きりでお出かけとなれば、それはもうデートと言って差し支えないだろう。
小鳥遊も、闇野だってそう思っている。
「で、でも、デートって、言われたわけじゃ……」
「言われなくても結果的には同じことよ。
さらさだって、期待してるから今自分でデートって言ったんでしょ」
「うぅ……」
真っ赤にうつむく小鳥遊。
これは正直、予想外の展開だ。
そりゃ、小鳥遊の頼みで鍵沼と、まあ徐々に仲良くさせようとは思っていた。
だが、いきなりデートとは。
お互いを知るにはいい機会だとも言えるが……
鍵沼と小鳥遊が初めて会ったのは、あの体育祭のときだ。
「それから、数日でここまで……」
「それで、あんたに相談に来たのよ」
「なんのだ」
「鈍いわねぇ。
鍵沼くんが好きそうな服とか、好きな食べ物とか、普段なにしてるとか。
色々あるでしょう」
なるほど、鍵沼と仲が良い……ということにしておこう……俺に、来るデートに備えようというわけだ。
しかし、鍵沼の好きなものか……
「知らん」
「あぁ?」
……なんてことを言えば、人前であろうがボコボコにされるのは目に見えている。
変に怒りを買うのもなんだし、ここは利になる情報を与えたいところ。
ただ……言うほど俺、鍵沼の好み知らないな。
「鍵沼は……運動が、好きだ」
「陸上部入ってるんだからね、それはわかるわよ」
くそ、ダメだ……あっさりと、跳ね返された。
他にあいつの好きなもの、好きなもの……
しばらく考えるが、ダメだ、思いつかない。
……いや待て。確か……
「あいつは、女の子の手作り弁当に憧れると言っていたな……」
「手作り弁当……」
なんとか過去の記憶を遡り、鍵沼の情報をひねりだす。
以前、あいつが彼女ほしーと嘆いていたとき。言っていたものだ。
男の夢として、女の子の手料理を食べたい。と。
そうだそうだ、そんなことを言っていた。
「もし俺のために作ってくれたらなんでも食べちゃう。
まあ好き嫌いはないんだけどな。
……と言っていたな」
「声真似しなくていいわよ、気持ち悪い」
ひどい。
「けど、好き嫌いはない……か。
なら、さらさの得意料理で勝負できるわね」
「小鳥遊は、料理が得意なのか」
「得意、と言いますか……好きなだけ、ですよ」
「謙遜しないのさらさ。
この子、料理は一級品と言ってもいいわ」
ほぉ……闇野がそこまで言うとは。
こいつは友達相手には……いや、友達相手だからこそ、お世辞とかそういったものは使わない。
元がそういう性格だしな。
その闇野をして、一級品と言わせる腕前か。
「胃袋で相手を落とせ、とも言うしな。
……俺も、さなになにか作ってみようか」
「素人が、変に張り切らないほうがいいわよ?」
俺は料理をしたことがない……闇野の言うように、いきなりは危険かもしれない。
こうなれば、一から料理のことを勉強するか。
……と、今は自分のことを考えている場合じゃないな。
「服とかは、よくわからんが……
俺なら、さなのかわいい私服姿を見られればなんでもいい」
「なんでいきなりのろけだしたのよ。
けど、男目線からの意見も大事かもね」
「か、かわいい私服……私、そんなの持ってたかな……」
「今度、一緒に買いに行きましょう」
その後も、鍵沼についてあれこれ聞かれた。
ちゃんと答えられたかは、わからないが。
それにしても、あの鍵沼がデートねぇ……
本人にも、どういうつもりなのか聞いてみるか。
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