レッツ騎馬戦
バトンを受け取った鍵沼は、それはまあ見事なものだった。
二位との差は確かに縮まっていたが、まだ差はあった。
その差を、あいつはあっという間に埋めていったのだ。
さすがは陸上部所属、そして本人曰く結構期待のエース扱いなのだそうだ。
俺はその話を半分くらい聞き流していたのだが、どうやら本当であったらしい。
二位、そして一位をも抜き去り、見事に鍵沼が一位でゴールした。
「へへーん、どんなもんよ!」
戻ってきた鍵沼は、えへんと胸を張っている。
素直にクラスメートからは喜ばれているので、あの態度もまあ大目に見よう。
もちろん、讃えられているのは鍵沼だけではない。
リレーに参加した六人、全員だ。
「あいちゃん、速かったよー、すごかった!」
「えへへ。でも、もうちょっとで負けそうになっちゃったし」
さなとあいは、そんな会話をしている。
負けそうになった、とは小鳥遊とのことだろう。
二人は一緒のチームなのだ。競う必要はないだろうが……
それでも、やはり個人的には悔しい思いも、あるのだろう。
「さらさちゃん、早かったねー」
「だねー、ひやひやしたよ」
小鳥遊のあの速さ、予想していたものよりもずっと速かった。
もし、同時に同じ場所からスタートしていたら、勝っていたのは小鳥遊の方だったかもしれないほどに。
その小鳥遊は、今は自分のクラスに戻り、闇野と話をしているようだ。
あいとは、先ほど走り終えたところでなにか話してはいたが……
ちなみに小鳥遊のクラスは、三位だ。
「よー真尾ー、見てたー? 俺のか、つ、や、く!」
「あー、見てた見てた」
「軽いな!」
言われずとも、ちゃんと見ていた。
素直に褒めるのは、なんだか癪だから言わないけども。
『続きましての種目は、騎馬戦……』
「あ、さなちゃん、光矢クン!
先輩が出るやつじゃない!?」
まとわりついてくる鍵沼をほどいていたところで、次の競技のアナウンス。
ぴょん、とこちらにやって来るあいは、さなの手を引きつつ話しかけてきた。
騎馬戦……そうか、確かなぐも先輩が出場する競技だったな。
騎馬戦、それも騎手だという。
俺たちは、なぐも先輩の実力のほどは、部活対抗リレーの練習でしか知らない。
それだけでも、運動がかなり苦手だというのがわかったが……
「どうなるやら、だな」
「なになにー、写真部の部長さんが出んの?
どの人どの人?」
俺たちの会話を聞きつけた鍵沼が、グラウンドを見渡す。
グラウンドには、三年生たちが集まっていた。
騎馬戦は、三年生のみなのだ。
その中に、目的の人物は……
「いた」
「え、どこどこ?」
「あそこだ」
あれだけの人数の中から、目的の人物だけを見つけるのは苦労する……かと思われた。
しかし、目的の人物、なぐも先輩はすぐに見つかった。
俺は、その方向に指をさす。
鍵沼も、さなも、あいも、指先に視線を移す。
「……あの人?」
「あぁ」
「あの、子鹿みたいに震えてる人?」
「あぁ」
そこに、いたのは……間違いなく、なぐも先輩だ。
ただしいつもの姿ではない。
鍵沼が言ったように、足が子鹿のようにガクガクと震えている。
容姿がいいだけに、余計に情けなさが目立つ。
「どうして、そんなすぐ見つけられるのかと思ったんですけど……」
「あれは確かに、わかりやすいね」
さなもあいも、納得の表情を浮かべている。
いくら運動が嫌いと言っても、あそこまで態度で示す人はなかなかいないだろう。
……大丈夫だろうか。
「チームは同じだけど……」
「個人的にも応援したいね」
「だな」
運動が嫌いなりに、今日まで頑張ってきたはずだ。
だから、せめてそれが報われる結果になってほしいが。
そうこうしているうちに、だんだんと騎馬の準備が進んでいく。
あぁ、遠目でもわかる。ものすごい顔色が悪い。
それでもクラスメートは淡々としたものだ。
もしかしたら慣れているのかもしれない。
不安しか残さない状況で、騎馬戦がスタートした。
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