廃部を免れるには
写真部への入部が決まり、その日は時間の許す限り、なぐも先輩と話をした。
大事そうにマネキンを撫でまわしていたり、写真のことになるとやたら饒舌になることがある。
が、それを除けばごく普通の人だった。
部員はなぐも先輩のみ。
顧問の先生もいるらしいが、一人しかいないこの部活にはあまり姿を見せないらしい。
入部届は、なぐも先輩に預け……俺たちは、帰宅した。
「はー、なんだか話してると面白い人だったね!」
「そうだな、見ている分には退屈はしなかった。」
下校中、部室での出来事を思い出す。
話してみると……正直、疲れる相手ではあった。
常に、あのハイテンションだ。ついていくのがやっと。
傍から見ている分には、楽しい先輩なのだが……
「人が離れていくのも、まあわかる気はするな」
あの奇行についていける人間は、なかなかいないだろう。
だからこそ、わりとついていけているさなに驚いたわけだ。
イメージ通り、さなは引っ込み思案なところがある。
なのに、あの先輩と話が合うとは……
「結構、話が合ったから……話しやすい、人でしたし」
「鍵沼とはまた違ったタイプのうるささ、ではあるな」
「あいつと一緒にするのは、さすがに失礼じゃない?」
そういえば、その鍵沼はどうしたのだろう。
とりあえず運動部巡りをしてくる、と気合いを入れて、どこかへ行ってしまった。
まあ、あいつの行き先なんてどうでもいいんだが……
「それにしても、あいにしてみれば、写真部に入ったのはよかったんじゃないか?」
「と、いうと?」
「写真部に限った話ではないが……
鍵沼と違う部活に入れば、登校も下校も、時間が合うことはなくなるだろう?」
特に、鍵沼は運動部に入るつもりなら、なおさら時間はズレるはずだ。
これが、あいも同じく運動部に入部していたら、わからなかっただろう。
「そう、そうなんだよ!
中学の時は、そもそも学校が違うから家を出る時間が重なることは、少なかったんだよね」
「そもそも、学校への距離が違うから、出発時間もズレるということか」
「そういうこと!」
なんだかこういう話をしていると、鍵沼まで写真部に入部してきそうなフラグのにおいがしてくるが……
それは、ないだろう。
あいつ、体力バカだし。写真とか、わざわざやりたいとすら思わなさそうだ。
中学と同じように陸上部か、それとも他に……
「でも、二人共、私に付き合ってくれなくてもよかったのに……」
少し、遠慮がちにさなが言う。
はて……私"たち"が入部すると言っていた気がするが。
忘れているのか、無意識か。言葉のあやか。
「気にしないでさなちゃん。私だって、面白そうだって思ったんだから」
「あぁ。俺も、よほどの部活でない限り、さなと一緒にやりたいと思っていたからな」
「はぅ……」
中学時代は、なににも所属せずに学生生活を送ってきたのだ。
多少おかしい先輩がいようが、逆にその方が学生生活に色もつくというものだ。
「いやぁ、光矢クンは相変わらず直球だねぇ」
「なにがだ」
俺としては、思ったことを口にしているだけなのだが……なんだかまずいことを言っただろうか?
さなの顔が赤くなっているのと、関係があるのだろうか?
あいは、なんだか意地悪気な表情を浮かべているし。
「よかったねぇさなちゃん。そんなに愛されてて」
「っ、も、もうあいちゃんっ。からかわないでっ」
「あり、もしかしてイヤだったり?」
「嫌……では、ないけど。
これ、思ってる以上に恥ずかしいんだからねっ!?」
あいがさなの肩を抱き、俺に聞こえないようになにかを耳打ちしている……
が、残念。俺は耳が良いのだ。
二人がなにを話しているのか、筒抜けである。
……つまり、先ほどの『さなと一緒に』が引っかかっていたわけか。
それに対し、あいは直球だと表現した。
ふむ、恥ずかしい……か。
どうやら嫌ではないようなので、安心した。
「二人で、なにを話しているんだ?」
「なんでもないよー、ねぇさなちゃん!」
「う、うんっ」
俺は二人の会話内容を聞いたが、あくまでなにも聞いていない風を貫く。
さすがに、俺だってその辺の気遣いは、出来るつもりだ。
だが……さなは、顔が真っ赤だ。
それでは、なにかありましたと言っているようなものだ。
そういうわかりやすいところも、かわいくていいと思うぞ。
「それにしても……明日からは、この三人で過ごすことが多くなりそうだね!」
腕を伸ばし、あいが言う。
「部活が同じ、というのはそういうものか」
「そういうものだよ。
それに、今のところだけどボクたち以外に同学年はいないからね。
それだけ、繋がりも強くなるってもんさ」
廃部を免れるためには、とにかく部員集めをしなければならない。
その結果として、俺たちと同じ一年生が集まるか、それとも……
「……逆に、一年生以外集まらないんじゃないか?」
「え、どうしてです?」
「なぐも先輩、言っていたよな。最初には他の部員もいたが、先輩たちが卒業してから、他の部員がやめていったと」
「そうだね。
……あ、そっか」
そこで、なにかに気がついたかのように、あいは手を叩いた。
「それまでに写真部に所属し、そしてやめていったのはなぐも先輩の同級生及び後輩……
今の三年生と二年生だろう」
「で、写真部をやめていったのは安達先輩の奇行……
ううんっ、派手な性格が原因だとしたら」
奇行と言ったな今……
まあここで取り繕わなくてもいい気がするが。
なぐも先輩の奇行で、今の三年生と二年生はやめていった。
今の三年生と二年生はなぐも先輩の性格を知っている。
好き好んで、変人の居る部活に入ろうとは思わないだろう。
つまり、だ。
「なぐも先輩の奇行な性格を知らない、一年生でないと……写真部に入ってくれる可能性は、少ない」
あの変わり者の先輩のことを知らない、きれいな一年生を写真部に取り込む……
それしか、廃部を免れる手は、ない。
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