昼食の時間
初登校、そして改めての初教室。
昨日はホームルームのみだったため、今日から本格的な授業となる。
俺たち四人は、それぞれの席へと座る。
席は名字の順であるため、俺たちはわりと近い所にいる。
それぞれ「か」「き」「こ」「し」だからな。
ただ、俺の目標はさなと隣になること……
今のままでは、俺とさなは直線状な上、間に別のクラスメートがいる。
正直邪魔だ。
「……なんか後ろから圧を感じる」
とは、俺の前の席に座る男が呟いた言葉だ。
なんなら、席を変わってくれても構わんのだぞ。
「……なんでお前と隣同士なんだ」
「それはこっちのセリフだよ」
一方、あいと鍵沼であるが……この二人は、隣同士になっていた。
昨日の時点で、わかっていたことではあるが。
家は隣同士な上、クラスの席でも同じだとは……
「か」と「し」で、予想していたことでもあるが……
あの二人にとっては、とにかく認めがたい事実のようだった。
「仲が良いみたいで……」
「「よくない!」」
どうやら聞こえていたらしい。
だが息ぴったりじゃないか。
その後、ホームルームが始まり、その後授業が始まる。
高校の授業ともなると、やはり中学のものとは違うな。
とはいえ、俺にとってはたいした違いはない。
授業内容も、そんなに難しいものではなかった。
「んー、ようやく飯だー!」
昼休みになり、喜びを体で表現するかのように、鍵沼は叫ぶ。
こいつ、初日から授業中に寝て注意されていたが……大丈夫か?
まあ、俺が心配することでは、ないのだが。
「あんたって、そんなんで授業についていけるわけ?」
「俺は本番に強いタイプなんだ」
「答えになってないぞ」
「あはは」
俺たち四人は、それぞれの持参した弁当を広げ、一緒に食べる。
教室内でこうして、誰かと食べるというのも……経験がなかったな。
鍵沼が絡んできて、勝手に向かいの席に座って食べていたくらいか。
「おぉ、如月さんの弁当うまそう!」
「そ、そうですか……?」
「そうよ、さなは手料理が得意なんだから!」
「なんでお前が偉そうなんだよ」
「ほお、さなの手料理か」
色合いも、栄養バランスも考えられた、素晴らしい弁当だ。
これを、自分で作ったのか……すごいな。
俺も、料理に挑戦したことはある。
だが、どうやら俺には料理は不向き、だったらしい。
とてもではないが、人前に出せるものではない。
完璧である魔王にも、弱点はあったということだ。
「みんなのも、おいしそうですよ」
「俺のは、母さんが作ってくれたからなー」
「俺もだ」
「私も手料理は苦手だし……作っても、さなちゃんのには負けるわよ」
「そ、そんなことは……」
同じ女子のあいでも、さなの手料理には負けを認めるほどか。
容姿、頭がいいだけでなく、料理もできるとは。
こうなると、是非ともさなの弁当……おかず一つでもいい。
食べてみたいが……
……別に悩む必要はない。くれと、一言言えば……
「如月さん、おかず交換しない? その卵焼き食べてみたい!」
「あ、いいですよ」
俺が考え込んでいたうちに、目の前でおかずの交換が行われる。
ふわふわの卵焼きが、鍵沼の弁当に……
俺はかつて、これほどまでに鍵沼に殺意を覚えたことはないだろう。
「! な、なんか顔が怖いんだけど、真尾?」
「いやいやなんでもない殺す気にするな殺す」
「本音が隠れてないんだけど!?」
いかんいかん、弁当如き、おかず一つでなにをいらだっているんだ、俺は。
鍵沼がむかつく奴だというのは、わかっていたことではないか。
だが、それにしたって……俺が、俺が……!
「あの……こ、光矢くんも、よかったら……おかず交換、します?」
「する」
まさか、さなの方からおかずの交換を申し入れてくるとは……
さなの方から、だ。これは、俺から申し出るのとは意味合いが違う。
さなから、だ。
どうだ鍵沼。
「いや、なんか知らないけど、そんなどや顔されても……」
なんとでも言うがいい。さなからの言葉……これは一歩前進と言えるのではないか。
俺は唐揚げを差し出し、卵焼きをいただく。
「では……あむ」
「……ど、どうでしょうか?」
「う、うまい……」
なんだ、これは……口の中で、ふわふわの卵が溶け、口の中でキミが広がっている。
塩味が同時に口の中に広がり、黄身と混ざり合いうまみを引き出している。
これは……うまい!
一口で食べてしまったのが、悔やまれるほどだ。
いやしかし、これを割って食べていたら、割った部分から黄身がとろけだしていたであろう。
「うまい……こんなうまい卵焼きを食べたのは、初めてだ……」
「お、大袈裟ですよ」
これまでは、母の味というやつで、母の作った料理が一番だと感じていたが……
まさか、それを超えてくる料理が、現れるとは……!
あぁ、口の中が幸せだ。
毎日食べていたい。
「えっと……そんなに喜んでくれるなら、明日も、作って来ましょう、か?」
「本当か!?
ぜひ頼む!」
明日も、これを食べられるのか……なんという幸福! 贅沢!
となると、俺の方も相応のものをお返ししなければならないだろう。
昼食の時間は……騒がしく、そして賑やかに、過ぎていく。
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