気付いた私の気持ち
「はぁ、はっ……」
……如月 さなは、走っていた。いつから、走っていただろう。走るといっても、全力疾走していたわけではない。
せいぜいが、ジョギング程度の速度だったはずだ。今は、足も止めている。だというのに……
どうしてこんなにも、胸が苦しいのだろうか。
「私……」
「さなちゃーん!」
背後から、自分を呼ぶ声がして……振り向くと、そこには一人の少女が走ってきていた。
静海 あい。さなの親友とも言える存在で、いろいろと相談に乗ってもらったり乗ったりする仲だ。
彼女は、さなの前まで走ってくると、足を止める。
さすがは運動が得意なだけある、息切れすら起こしていない。
「っ、あいちゃん……
ごめんなさい、私、急に帰っちゃって……」
先ほどの行動を、さなは恥じていた。
あいと、そして恋人である光矢 真尾と一緒に帰ろうとしていたのだ。
そうしたら、いきなり知らない女の子が、真尾に抱き着いて……親し気に、していたではないか。
それを見た瞬間、さなの中で、なにか黒いものが、渦巻いていた。
そこにいたくなくて、その光景を見ていたくなくて……
気づいたら、その場から立ち去っていた。
「ううん、大丈夫。光矢クンも気にして……なくは、ないだろうけど。
怒ってはいないと思うよ」
「……なんだか、変なの。真尾くんと、あの女の子が、仲良くしてるのを見たら……胸が、苦しくなって……」
「仲良さそうだったかなぁ……
って、それって……」
胸を押さえるさなの姿に、あいは思うところがあるようだ。
しかし、あいのその様子に気付かないままに、さなは己の行動を……そして言葉を、後悔していた。
『あ、私用事があるの思い出した。悪いけど先に帰りますね。
じゃあね、あいちゃん……"光矢"くん』
あんな、自分勝手に怒って、彼に八つ当たりのようなことを……
……怒って、いるのだろうか。私は? さなには、自分の気持ちがわからない。
この黒いもやもやも、自分の気持ちも、なにもわからない。
「その上、あんなことまで言っちゃって……」
「さなちゃん……」
あんな言い方、嫌われてしまっただろうか。それはそうだろう、彼からしたらわけのわからないことでしかないのだから。
今まで、好意を向けてくれていたが……今回の件で、愛想を尽かしてしまったかもしれない。
もしもそうだとしたら……とても、嫌だ。
「さなちゃん……それ、嫉妬じゃないかな」
「……嫉妬?」
胸を押さえるさなに、あいは言う。
これまで恋愛というものをしたことがなかった。だから、その変化に気付けない……それも、仕方のないことであると思う。
しかしさなには、これが本当に嫉妬というものなのかわからない。
なんせ、これが初めてなのだ。知識として知っていても、経験はない。
「だって、光矢クンが他の女の子と仲良くしてたらもやもやしちゃうんでしょ?」
「うん」
「その相手に、光矢クンを取られたくないと思ってる」
「……うん」
「その相手と、光矢クンがくっついたと想像したら……」
「…………やだ」
あいからの質問に、さなは答えていく……質問の内容が変わる度に、あいの表情は暗くなっていき。
他の誰かと、真尾がくっついたら……そう想像しただけで、込み上げるものがある。
その表情を見て、あいは慌てたように言葉を並べる。
「あ、や、わ、ご、ごめん! そんな顔させるつもりじゃ、なくてね……!?」
「うん、ごめん……わかってる」
もしかすると、あいが、そして真尾本人が考えている以上に、さなは真尾のことを……
今のやり取りで、わかってきたことがある。
そしてそれは、さな自身まだ自覚はないものではあった。
「と、ともかく!
光矢クンと他の子が、親密なのを見るともやもやしちゃう……それが、嫉妬ってやつだよ」
「……しっ、と……
あいちゃん、まるで経験者みたい……」
「! あ、あははは! いや、気のせいじゃないかな!
あ、なら今度からボクも、光矢クンとあんまり仲良くしない方がいい!?」
「……いいよ、あいちゃんは」
動揺しているのか、必死に平静を保とうとするあいの姿に、さなはくすっと笑みを浮かべた。
少しだけ、心が軽くなったような気がする。
……この気持ちが、嫉妬……
自分が思っている以上に、自分は真尾のことを大切に想っているのだろうか……さなは、なんだか嬉しくなるのを、感じた。
「……って、この気持ちの正体がわかったからって、真尾くんにしちゃったひどいことが帳消しになるわけじゃない!」
自分の気持ちに気付いても、それは自分の問題が自分の中で解決しただけだ。
先ほど真尾に言った言葉が、なくなるわけではない。
あのとき、真尾はどんな表情を浮かべていただろうか……呆気にとられたような……バツの悪いような……
……傷ついたような、顔ではなかっただろうか。
「……!」
「さ、さなちゃん!?」
急に走り出したさなの姿に、あいは驚きを見せる。彼女が走り出したのは、進行方向とは逆……
つまりは、今来た道を逆戻りしている形になる。
「私、真尾くんに謝らないと!」
「え、今から!? 戻って!?
電話とか、メッセージとか……」
「自分の口から、伝えたいの!」
彼は、恋人になるまでの間……そして、恋人になってからも、ストレートに好意をぶつけてくれていた。それは恥ずかしくも、嬉しかったのだ。
ならば……今度は、こっちの番だ。今思っていることを、ちゃんと自分の口から、伝えなければ!
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