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1mm  作者: 押野桜
9/11

ブーゲンビリア、新月

だれもいない研究室で一人、実験準備をしていた宇梶は、ガタガタッ、という立てつけの悪いドアを無理やり開ける音で振り向いた。


「ぶっ、ブーゲンビリアの、花言葉、知ってた?」


息を切らす浅羽に宇梶は無言だ。


「お前みたいな奴にはもっといいコが似合いだって知ってる。そもそも俺は女じゃねぇし、でも、お前が俺を、俺の方を1ミリでも向いてくれてるなら!」


ああ、俺は、今、何を言っているのか。

ハッピーエンドの夜に恋人を放り出して、親友を一人なくすかもしれない。

でも、こいつの特別になれる可能性が1ミリでもあるならすがりつきたい。


「宇梶、お前を好きになってもいいのか?」


いつもは読める宇梶のポーカーフェイスが今日は読めない。


「浅羽、よりによって今日に何を言っている」

「そんなことはいい、答えてくれよ」

「浅羽、ここどこだ!……あれ、宇梶?」


開いたドアから入ってきた宗谷は、二人を見て固まった。

夜の研究室に沈黙が落ちる。


「何してるんだ浅羽、早く行こうぜ」

「……」

「……あんまり待たせると帰るぞ。最終バスまだ間に合うしな」

「……」

「……引きとめろよ、浅羽」


嫌いになった訳じゃないし。

むしろ好きですきで。

ずっと思い出して。

忘れられなくて。

つらくて。

切なくて。

恋しくて。

月見るたび思い出して。

それでも。


「……ごめん、宗谷」


浅羽が頭を下げる。


「俺は浅羽をずっと好きだった」


宇梶は小さく言った。

それを聞いた浅羽の表情で、宗谷は全てを察する。


「見送りはいらない。また大会で会おう」

「宗谷……幸せに、なってくれ」

「……お前なしで、どうやって?……イヤ、俺が悪い。もう遅いんだな」


宗谷は冷静な顔を作り、低い声でさよならと言った。


「浅羽、お前こそ幸せになってくれ」


ガタガタリ、と、ゆっくりドアが閉まる。


「後悔するぞ。追わなくていいのか」

「……しねえよ、バーカ」

浅羽はためらう宇梶をそっと抱きしめた。

宗谷への気持ちを脱ぎ捨てるために。

宗谷を抱く時は、もっと荒っぽく抱いた。

大事なものをわざと乱暴に扱う子供みたいに。

でも、この、生真面目でどこかおかしい誠実な男を、俺は、死ぬほど、死ぬほど優しく大切にしてやりたい。


「一生一緒にいてくれ」

「ヤ♪」


三木道山の発音とリズムを宇梶は正確にマネた。

ブハッ、と、浅羽が噴き出す。


「……バーカ。古すぎだよ。手伝うから作業すんだら帰ろうぜ」

「ああ」


夜の研究室は蛍光灯で昼よりむしろ明るい。

窓の外をチラリと見た。


「今日は月が見えない」

「新月だ。月は見えない。古いものがなくなって新しい事が始まる日だ」

「良く知ってるね」

「さっき調べた」


変わらない態度がちょっと悔しい。

宇梶、と何気なく呼んでおいて……チュッ、と音を立てて口づけた。


「……人生のペースが狂う!」


あせった表情の宇梶を見て、


「これから俺達の人生はどんどん幸せになる」


絶対だ、と、浅羽は笑った。



【了】

お付き合いいただきありがとうございました!

その後この二人のR18がありますのでお時間ある方は読んでやってください。

自分でも読んでいて愛が重かった( ´∀` )子たちですが楽しんでいただけたら嬉しいです!!

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