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1mm  作者: 押野桜
8/11

春間近

ブーゲンビリアの前で撮った二人の写真を宇梶は気に入ったのだろう、わざわざプリントアウトして部屋に飾った。

そしてその写真だけではなく、沖縄の写真、部活、研究室、様々な写真を貼りはじめた。

浅羽はほとんど自分の部屋に帰らなくなり、宇梶の部屋には浅羽の持ち物があふれ、プラスチックのコップに入れられた歯ブラシは4代目を迎えた。

そんな日々の中に、大橋の電話はやってきた。


「宗谷が、みそぎを終えた」

「……宗谷は犯罪者か極道か。何の話?」

「結果的に浅羽をだます形になってしまってすまない。宇梶と相談して、宗谷に2年の春まで一人でいられたらお前と連絡していいと言っていた。約束の4月が来た。宗谷は一人を守った。あの病的に女を切らせなかった宗谷が、だ。金曜の夜そちらに向かう。歓迎してやってくれ」


隣りにいた宇梶が、良かったな、と頭をなでた。


(宗谷が、まだ、俺を……!)


パァッと急に世界が鮮やかになった気がする。金曜まで待てない。

会いたかった、会えるんだ、会いたい……!

なのに、何でだろう、小さな何かが心につっかえた。


***


高速バスのロータリーで浅羽は宗谷を迎えた。


「今すぐ浅羽の部屋に行きたい」

「お前変わってないな。がっつくな脳筋。とりあえず言っておくが俺の部屋はさびれてる」

「なんだそれ」

「ほとんど使ってないんだよ」


離れていたことを忘れる、懐かしくて慣れた呼吸だ。


「手がつなぎたい」

「バカか、街だぞ。帰ってからな」


閉店間近の小さな商店が並んでいる通りを二人で歩いていると、ふいに鮮やかな赤紫が目に飛び込んできた。花屋だ。


「ブーゲンビリア……」

「良くご存知ですね。花言葉は『あなたしか見えない』です。贈り物に良いですよ」


俺これ買おうか、枯らしちゃうかな、と言っている宗谷の横で、浅羽は、宇梶の言葉を思い出していた。

あの時ブーゲンビリアを詳しく調べていた宇梶。


『この花を見るたび、お前を思い出すのかな』



「……宗谷ごめん!」


浅羽は駈け出した。

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