春間近
ブーゲンビリアの前で撮った二人の写真を宇梶は気に入ったのだろう、わざわざプリントアウトして部屋に飾った。
そしてその写真だけではなく、沖縄の写真、部活、研究室、様々な写真を貼りはじめた。
浅羽はほとんど自分の部屋に帰らなくなり、宇梶の部屋には浅羽の持ち物があふれ、プラスチックのコップに入れられた歯ブラシは4代目を迎えた。
そんな日々の中に、大橋の電話はやってきた。
「宗谷が、みそぎを終えた」
「……宗谷は犯罪者か極道か。何の話?」
「結果的に浅羽をだます形になってしまってすまない。宇梶と相談して、宗谷に2年の春まで一人でいられたらお前と連絡していいと言っていた。約束の4月が来た。宗谷は一人を守った。あの病的に女を切らせなかった宗谷が、だ。金曜の夜そちらに向かう。歓迎してやってくれ」
隣りにいた宇梶が、良かったな、と頭をなでた。
(宗谷が、まだ、俺を……!)
パァッと急に世界が鮮やかになった気がする。金曜まで待てない。
会いたかった、会えるんだ、会いたい……!
なのに、何でだろう、小さな何かが心につっかえた。
***
高速バスのロータリーで浅羽は宗谷を迎えた。
「今すぐ浅羽の部屋に行きたい」
「お前変わってないな。がっつくな脳筋。とりあえず言っておくが俺の部屋はさびれてる」
「なんだそれ」
「ほとんど使ってないんだよ」
離れていたことを忘れる、懐かしくて慣れた呼吸だ。
「手がつなぎたい」
「バカか、街だぞ。帰ってからな」
閉店間近の小さな商店が並んでいる通りを二人で歩いていると、ふいに鮮やかな赤紫が目に飛び込んできた。花屋だ。
「ブーゲンビリア……」
「良くご存知ですね。花言葉は『あなたしか見えない』です。贈り物に良いですよ」
俺これ買おうか、枯らしちゃうかな、と言っている宗谷の横で、浅羽は、宇梶の言葉を思い出していた。
あの時ブーゲンビリアを詳しく調べていた宇梶。
『この花を見るたび、お前を思い出すのかな』
「……宗谷ごめん!」
浅羽は駈け出した。