大学1年生、冬
本当にワードチョイスが古くて……ついてきてくださる方に感謝です!
大橋、元気ですか。
今、俺は人生初合コンをさせられています。
先輩からの強制参加です。
「あのかっこいいけど服装がださいメガネと、おしゃれでモデル体型で黒髪のきれいなブス連れて来てよ」
と、女から指名されました。
居酒屋からのカラオケ流れです。
大橋の知っている通り、俺は最近の曲が分かりません。
なんとか長淵を一曲歌いました。
ヘッタクソだったし、正直もう歌いたくない。
宇梶はパフュームを歌いました。
……と、長文を送りたくなるくらいにはダルイ合コンだ。
先輩がとにかくカラオケが上手い。そして知らない曲をいっぱい歌う。
俺も一曲だけでも歌決めて上手くなっといた方がいいかもなぁ。
先輩がメドレーを歌い始める前に女達の数人がトイレに出て行き、手拍子マシンと化していた浅羽も先輩が歌い終わったタイミングで部屋を出る。
タバコを吸う奴がいて、煙に気持ち悪くなったのだ。
階段に腰かけて
(滅びろニコチン……!)
と、腹を押さえていると、宇梶がひょいと頭を出した。
「酔ったか?」
「ちがう。タバコって横で吸われると気持ち悪くならないか?」
「ああ、なるな」
話していると、さっきの女達が戻ってきた。二人は女たちの死角に座っていることになる。
「目を閉じない方の巡恋歌って今時まだ歌うヤツいるんだね!」
「長淵は合コンじゃないよね。あのパフュームもどうかと思うけど」
「歌い慣れてたね、パフューム」
「慣れてた~!うける!」
……黙るしかない。
女達が部屋に入って行った後で、
「巡恋歌は良かったと思うがな」
と宇梶が言った。
「パフュームも良かったと思うぜ?」
慣れていることの何がいけないんだろう?と宇梶はキョトンとしている。
それに関してはちょっと笑いそうになり、浅羽はこらえる。
「実は巡恋歌を初めてまともに聞いた。」
「あれ練習しようと思ってたけど、飲み会用じゃねぇのかなあ」
「いい曲だ。でも」
宇梶がメガネの位置をなおす。
「お前が歌うとちょっと泣きそうになるかな」
イヤ、選曲に別に深い意味は……と、声にならない声を浅羽は出した。
宇梶はいい曲だぞ、と言いながら浅羽の頭をなでてくる。
こいつ人の頭なでるの好きだなぁ。
「宇梶、浅羽、もう時間終わるぞ、延長するか?」
先輩がドアを開け聞いてくる。
「「しません!」」
二人同時に強めに返し、目が合うとハハハ、とどちらともなく笑った。
そんな合コン初体験があったものの、次はなく、なくても全然惜しくなく、朝から晩まで部活、部活が終われば深夜から実験の下準備、そして学部生や院生が出した実験結果のデータをまとめて延々と専用ソフトに打ち込んでいく作業は、単調に見えて法則性がつかめると面白かった。
宇梶は一時期、転学部しようかと真剣に悩んでいたほどだ。
研究室は象牙の塔と俗世のカオスで、具体的に言うと英文の先行論文の束や実験機材の横にジャンプやエロ本、バイト用の求人案内が置いてあるという具合だった。
化粧っ気のない女の先輩が白衣をひるがえし歩くのを、あの人美人じゃないけどちょっといいなと宇梶と盛り上がった。
「向かいの原子力の研究室の前のベンチ、あんまり休憩に使うなよ。被ばくするぞ」
「大丈夫じゃないんですか?金かかってそうなスゲェ頑丈な扉じゃないですか。うちの研究室のドアの厚さの3倍くらいありますよ」
「あんな扉一枚で放射能が防ぎきれてるわけねえだろ。おおっぴらには言えないが、あそこは研究室全員が被ばく覚悟でやってる。でも俺達はそんなのごめんだからな。研究室が近いんなら自衛するしかないんだ」
仲良くなった助手と、そんな会話を交わしたりもした。
クリスマスも年越しも宇梶と一緒だった。
ただみんなと研究室と部室にいただけだったが。
研究室では准教授がクリスマスケーキを買って来てくれた。
部活の忘年会ではしこたま飲んだ。
浅羽はまたダウンして宇梶に背負われた。
宇梶は誰かが買ってきたズブロッカと黒糖焼酎にはまり、ぐんぐん飲んで知り合って初めて千鳥足になった。
「宇梶、落ちる、おちる!」
背中で浅羽ははしゃいだ。
岡山の冬は空気が澄んで月も星も近い。
見上げれば夜空に落ちていきそうだ。
東京では夜空よりもライトアップされた夜景がメインなのだろうか。
(あいつに見せてやりたい)
流れてくる一瞬を、スルリとかわせるくらいにはなってきた。
ちらちらと落ちてきた雪をつかんでは溶かし、
「酔ってるから、ぜんっぜん、寒くねえ!無敵ぃ!」
と笑った。