大学2年生、夏【side宗谷】
珍しい早めの部活終わりに隣の県で開催される花火大会までドライブしようと宗谷が大橋を誘った。
免許を取ったばかりで運転が楽しくてしょうがない宗谷である。
「今行けば、花火大会のラストに間に合う」
「混んでいるんじゃないのか?車泊められないだろう」
「実家に置くから大丈夫」
そんなこんなで花火大会である。
リンゴ飴、串焼き、綿あめ、たこ焼き、焼きそば、人形焼き、フランクフルトにフライドポテト。
それでもまだまだ宗谷は食べる気満々だ。いか焼きを食べている大橋に、それも食べたい、と言ったのでひと口やると、加速ついた、と言って同じいか焼きも買ってきてしまった。
毎度思う。こいつの胃袋はどうなっているんだ。
そして、このカップルの多さはなんだ。
「俺は二度と男同士で花火大会には来ない」
大橋は重々しく言った。
「気にしすぎだよ、大橋。それなら女の子も呼べば良かったな」
気軽に呼べる女がいるのだな、と大橋は思い、それでも最近の宗谷は全然浮いた話を聞かない、とも思った。
ドン、パパパン、と音が響く。
二人並んで咲いては散る花火を見ながら宗谷は言った。
「俺はお前を死ぬほど恨んだ」
大橋は思わず宗谷を見た。
宗谷は花火を見上げている。
「浅羽を失った。お前のせいだ」
「スマンそう」
「なんてな!」
笑った瞳がうるんでいたのに大橋は気づかないフリをした。
「前は浅羽と来たんだよなぁ」
答えようがない。大橋は黙り込んだ。
二人が立っている場所は着火台のごく近くで、
花火が上がるたび火の粉がチラチラと落ちてきた。
音もうるさいくらいに響いてくる。
やっと言葉を思いついた大橋は言う。
「それでも多分、不気味なくらい人はまた恋に落ちていくんだ」
「ミスチルか」
「分かったか」
「……今は考えられないけれど、もし俺がもう一度誰かを好きになったら、」
ドオン、ドオン、ドドドン、パパン、とひときわ大きな花火が上がる。
「……宗谷、何か言ったか?」
「いや、何でもない」
人ごみの中は蒸し暑く、せっかく東京から時間をかけて来たのに帰ろうと早々に宗谷は逃げ出した。
「運転が楽しくて下宿に帰りたくなくなるんだ」
「俺はもう眠い。帰るぞ宗谷」
「寝ていていいから、もうちょっとドライブにつきあってくれよ」
全開の窓から少し手を出し、夏の夜の空気を味わう。
せめて側にいてやろう、宗谷の気がすむまで。
街灯の光が飛び過ぎていくのを見ながら、大橋はそっと目を閉じた。