09 謁見
謁見の願いはすぐに叶い、ローゼンハルド王国の支配者であるアスクと謁見する運びとなった。
そして謁見は無事に終わり客室に案内されたパトリシアはそこで先程の回想を巡らせたのである。
客室で寛いでいると、来客が現れる。
来客はアスクの侍従の一人であり、応接室に招待されたのである。
つまり非公式の会談である。
パトリシアはすぐに承諾し、身嗜みを整えてから案内された部屋に入る。
入室が許可されたのはパトリシアと侍女の一人であるニアだけであり、他の護衛は部屋の外で待機である。
応接室のソファにはパトリシアと同じ歳と言われても違和感のない若々しい(実際来栖侑の実年齢は20代前半であり、侑がキャラクターメイキングしたアスクの見た目も20代中頃をイメージしている。それに東洋人の見た目は西洋人からすると幼く見えるので間違ってはいない)姿形である。
その黒髪黒目は何処か浮世離れしており、神秘的な雰囲気を纏わせている。
黒髪黒目と言うと、パトリシアが先ず思い浮かべるのは唯一の島国である海洋国家のアズマ国である。
アズマ国は黒髪黒目の見た目の者が多く、大陸人ではないからか、見た目も大陸人とは違う。
因みに大陸人の見た目は西洋人風であり、アズマ国の人々は東洋人風である。
そして身分制度なども違うらしいが、殆ど鎖国状態(海の魔物により細々とした交易路はあるが、大半の船は海の魔物により沈められる為に、そこまで積極的に外とは交流しようとはしていない)である。
その為にアズマ国の文化などに精通している者は非常に少なく、アズマ国産の陶芸品などは非常に希少な為に高値で取引されている。
閑話休題。
見た目は同い年ぐらいではあるが、身に纏う覇気は本物である。
何せアスクはレベルMAXまで鍛え上げ、課金アイテムなども使用している為に、そこらの武人など相手にならない強さと叡智を兼ね備えている。
未だに使えるスキルなどには使用制限があるが、それは主に個人技や本人のステータスはそのまま使えるのでアスク個人として見れば大陸最高峰の実力者である。
制限を受けているのは主に戦略や戦術に関する部分であり、兵器製造や兵科などの部分に当たる。
「タージュ公女。此処は非公式の場だ。そこまで気負わず気楽に話してくれ」
「ありがとうございます陛下。でしたら私の事はパトリシアとお呼び下さいませ」
「そうか?では私の事もアスクと呼んでくれて構わない」
「ありがとうございます」
「あまり遠回しな言い方は好まないので、率直に聞くがパトリシア殿は公爵の地位に興味はあるかな?」
まさかの質問にパトリシアは固まる。
そして数瞬してからゆっくりと深呼吸してから答える。
「いえ、アスク陛下。それに私には二人の兄が居ます。そのどちらかが次の公王になります」
「ふふ、そうだったな。戯れだ許されよ」
「いえ、気にしておりません」
「そうだ。一つ気になっていると思うが、現在我が国は南方より魔物に攻められているのは知っているかな?」
「はい。道中でその様な噂を耳にしました」
「それは事実だ」
あっけらかんとアスクは認める。
今までの態度から特に隠す必要性は感じなかったが、こうもあっさりとそれを認めるとは思わなかった。
そして次にまた驚愕する事を言う。
「地図を」
アスクがそう言うと、後ろに控えていた女性が机の上に地図を広げる。
それは南部で起こっている戦場一帯の地図であった。
その上には兵力の駒などが置かれて行く。
「あの……アスク陛下?」
戸惑うパトリシアを無視してアスクが話し始める。
「現在我々が南方戦線と呼ぶ場所の戦況だ。魔物の襲来は予想されていたので、防衛線は既に構築済みであった。
そこにゴブリン・オーク・オーガの三種族の魔物による連合軍15万が攻め寄せて来た。
当初は足の速いゴブリン軍8万だけであったが、現在は追いついたオーク軍4万とオーガ軍3万の合わせて15万と戦っておる」
アスクは普通に話す。
「現在第三軍が到着しゴブリン軍の横合いから騎兵突撃を敢行した。と報告が入っている」
そう言って駒を動かす。
「アスク陛下。何故それを私に教えて下さるのでしょうか?」
「何、簡単だよ。将来の協力者には少しは胸襟を開くべきだと思ってね」
「将来の協力者?ですか……」
「今はまだ、何を言っているのかわからないだろうがね。少しでも我が国の武力を知って置いて欲しかったのだ。15万程度のゴブリンやオーク。それにオーガの連合軍程度では我が国は小揺ぎもしないと言う事をね」
自信満々にアスクはそう言って笑う。
その後は当たり障りのない会話をしたが、パトリシアは衝撃が大き過ぎてあの後、何を話したか殆ど覚えておらず、いつの間にか用意された客室に戻っていたのである。
ニナの方は何とかパトリシアの忠誠心により、パトリシアよりも早く復帰して、パトリシアを部屋まで誘導したのである。