08 第五軍団長マキシマス
マキシマスはまさに絵に描いたような軍人然とした武人であった。
身長2メートルに届こうかと言うほどの巨大に、鍛え抜かれた鋼の肉体をしており、歴戦の勇志を思わせる落ち着いた目をしている。
「よくぞ来られました。このオベロンを預かるマキシマスと申します」
この様な正式な場で名前だけと言う事は、マキシマスが全てでありそれ以上の名前はない。と言うことである。
これは少し困った。
基本的に名前だけは平民であり、貴族であれば家名があるものである。
もしかしたらマキシマスは平民から今の地位にまで上り詰めたにしても、普通は王から家名を与えられたりするものである。
そう言えばローゼンハルド王国の王も名前だけだと聞いた気がする。
もしかするとこの国ではそれが一般的なのかもしれない。
「この度はお招き下さりありがとうございます。バナタージュ公国がタージュ公爵の娘のパトリシア・フォン・タージュと申します」
一通り挨拶が終わり席に着く。
ローゼンハルド王国は謎大き国であり、総兵力は明かされていない。
それは国防の観点から言っても正しく、誰が好き好んで自分の国の防衛力を他国に知らしめるだろうか。
中には強大な兵力を誇示する意味で、多少大袈裟に言う場合はあるが正確に言う国は居ないだろう。
バナタージュ公国の諜報庁が総力を挙げてローゼンハルド王国を調べたが、わかった事は少なく多数の諜報員が行方不明になった。
その為に現在は諜報庁は人材不足に陥っているのが現状である。
今回の使節団の派遣で何か一つでも新たな情報を持ち帰る事も、パトリシアの仕事の一つである。
マキシマスとは当たり障りない会話で終わった。
接してみてわかったが、マキシマスは実直な人物であり政治に関してはあまり関わっておらず、彼の至上命題はオベロンの防衛でありそれ以外の部分は部下に任せていた。
それにわかった事は彼の口振りから、この第五軍団は確かに精強ではあるがローゼンハルド王国にはこの軍団よりも強力な軍がいる事が推測される。
そしてオベロンよりローゼンハルド王国本土に向かう時に、マキシマスからの好意によりソールからの護衛兵に代わり、新たに500名の護衛を付けてくれた。
途中幾つかの村や町を経由し、先ずはローゼンハルド王国第二の都市であるゼフテロスを経由してから王都のイニティウムである。
オベロンは堅牢なイメージがあったが、ゼフテロスは諸王国の入口に当たるオベロンと港町ハーフェンそして、首都であるイニティウムの中継地として発展していた。
オベロンよりも開放的な雰囲気であり、商店が多い印象を与える。
行き交う人々も明るい表情をしており、使節団一行の姿を見ても歓迎してくれている様に見える。
どうやら何度も都市国家群の使節団も来ているので対応に慣れている様である。
ゼフテロスでも同じく代官と会談を行い、特に特筆すべき事柄もなく使節団一行は首都イニティウムに向かう。
ただ気になった点と言えば、妙に兵士達の数が多い事であろうか。
そして配下に探らせると、どうやら今ローゼンハルド王国は南方で魔物の大軍勢と戦闘状態であるらしい。
だが、人々に不安はなく寧ろ勝って当たり前の様な雰囲気であった。
理由を聞くと特に隠す必要もないのか、南方防衛戦には既に第三軍が派遣されており、追加で第二軍の派遣も決定しているらしい。
確かにローゼンハルド王国は、あの魔物達が蠢く森を突破して来た実績もある
だが聞けば魔物の数は十万を超えると言う。
仮に攻められたのがバナタージュ公国であれば、まさに存亡を掛けた一大決戦になるだろうが、ローゼンハルド王国の認識では邪魔な魔物を蹴散らす程度であり、ついでに兵の練度を鍛える良い訓練になる。とさえ思っている節がある。
閑話休題。
そうして使節団一行はイニティウムに到着する。
それを見てバナタージュ公爵の首都であるバナルサが田舎の地方都市に思える規模であった。