66. マテウス王子の恋愛相談③
「え? ローリー?」
私が目をパチクリさせていると、マテウス王子が眉を上げ、非難混じりの驚いた声を上げた。
「なんで、田舎令嬢の従者が知っているんだ!?」
「そうよ! なんで、ローリーがクラリス様の情報を知っているわけ?」
マテウス王子に同意する私に、ローリーがそっと耳元に口を近づいて囁く。
「奥様の情報網を甘く見ない方がいいですよ」
「……お継母様!?」
驚く私にローリーは神妙に頷いた。
「王都に住む年頃のご令嬢方について、相当リサーチされています」
「なんでお継母様が?」
「坊っちゃんの婚約者の選定です」
「あ、ああ。そういうこと。……流石、お継母様ね」
そんなことに今から情報を集めているとは思わなかった。
しかも、王都の令嬢方まで婚約者候補に考えているとは敵ながら恐ろしい女だ。
「ルイ様にどんな女性が合うか相談されたことがありましてね。その中に侯爵家令嬢の名前もありましたので覚えていました」
「なるほど」
しかし、侯爵家の令嬢なんて、格上の相手過ぎるが、そこまで守備範囲に入れているとは厚かましくないかしら?
「さて、どうします? マテウス様に情報をお渡ししますか?」
「……」
ローリーがちらりとマテウス王子を見て言う。
「おい、何を相談している」
確かにこちらの手にある情報をタダで王子に提供するのもどうかと思う。
私は少し考えて、マテウス王子に向き合った。
「……マテウス殿下。クラリス様に関する情報をお渡しする代わりにお願いがあります」
「な、なんだ?」
「今後、アルフレッド様に対する嫌がらせを止めていただけませんか?」
「――っ!」
「お約束してくださったら、お話致します」
「………………」
私の交換条件に、マテウス王子は顔を顰めて沈黙する。
王子のプライドとクラリス嬢への恋心の天秤がぐらぐらと揺れているようだった。
「……………………わ、わかった。約束しよう」
そこまでクラリス様が好きなのか、悩みに悩んだ挙句、マテウス王子は頷いた。
「約束ですよ。では、お話致します。ローリー」
「はい。ここ最近のクラリス様のご趣味は読書ですね。その中でも特に恋愛小説が好きらしく、年頃の令嬢方とよくそのお話をされているそうですよ」
「ああ、確かにロマンチックなものが好きそうかも」
親に反対されてもアルフレッド様を一途に想っているところなんて、まさにそんな感じだ。
「小説か……。しかし、それをどうすれば」
「小説に関する話題を出したらどうです? 自分の好きなものを話題に出されればクラリス様も嬉しい筈ですわ。お話しも盛り上がるのではないでしょうか?」
「しかし、私は小説なぞ殆ど読んだことがないぞ。しかも、恋愛小説など」
確かに年頃の少年が恋愛小説を読むのはハードルが高いものかもしれない。しかし、それがクラリス様の恋心を射止められるなら安いものだ。
「マテウス殿下。クラリス様と仲良くなりたくないのですか?」
「うぅ。わ、わかった。読んでみることにする。しかし、どんな小説が好きなのか分からないと話題にしずらいぞ」
「ローリー、知っている?」
「あー、そこまでは。でも、本好きならば、流行りの恋愛小説は大体読んでいるんじゃないですかね」
「そうね。相手は流行の最先端に暮らす侯爵令嬢ですもの。流行りの物語は大体チェックしてそうよね」
私とローリーの会話にマテウス王子はフンフンと頷く。
「そ、そうか。わかった。その流行りの小説は何という本だ?」
「……えっと」
私も恋愛小説は読むには読むが所詮、田舎に住む令嬢。王都で流行っている小説なんて知らない。
困って、ローリーに助けを求めるが、「俺もそこまでは……」と苦笑いを浮かべていた。
「アイリなら詳しいと思いますがね」
ああ、そうだ。家で一番その手のことに詳しいのはミラの侍女であるアイリだった。
ローリーは笑顔でマテウス王子に提案する。
「もし良ければ、連絡先を教えていただければ、わかり次第すぐにお知らせしますよ」
「む、そうか。では頼む」
そう言って、王子は後ろで見張りをしていた従者を呼び寄せ、ローリーに連絡手段を教えていた。
うーん。なんか流れでマテウス殿下と連絡先を交換しているけど、大丈夫かしら?
「助かったぞ。アルフレッドの婚約者」
「グレースです。名前くらい覚えてください」
「うむ。お前は顔がキツいがいいやつだな。また何かあったらよろしく頼む」
また何かあったらって、いちいち相談に乗るつもりなんてないんだけど!?
しかも、顔がキツいって、一言余計なのよっ!
「えっ? ちょっと……」
「ではな」
しかし、私が引き止めるより先に、晴れ晴れとした笑顔でマテウス王子は颯爽と立ち去ってしまった。
「……」
だだっ広い廊下に私とローリーが残される。
「たまたま俺を連れていて良かったですね。これで王族に恩を売れましたよ」
「面倒なことに巻き込まれたっていう気がしないでもないけどね……」
ニコニコと楽しそうにするローリーとは対照的に、私は深いため息を吐くのであった。




