63. パーティの終わり
急に陛下に拝謁することになって疲れてしまった。
私は緊張から解放され、情けないがヘナヘナと倒れそうになる。
「大丈夫か?」
「なんか、どっと疲れちゃったみたい」
「……そうだな。少し休むか」
疲れたのは彼も同じなようで、アルフレッドは休憩所のある場所へ私を案内してくれた。
パーティ会場の端の分厚いえんじ色のカーテンを捲った先にちょっとしたスペースが作られていた。
「こんな所に休憩室があったのね」
分厚いカーテンに隠された向こう側は、暖炉のある、長い椅子の置かれた談話室となっていた。
夏なので暖炉は使われていなかったが、キャンドルが灯され、眩い会場で疲れていた目にその柔らかな灯りが優しかった。
「ちょっと、休んでいろ。今、飲み物を持ってきてやる」
「あ、ありがとう」
思わぬアルフレッドの優しさに面を食らいながら、私は長椅子に腰掛けた。
急に優しくされると調子が狂うわね。
ちょっと態度変わった?
不思議に思いながら休んでいると、再びカーテンが捲られ、馴染みのある愛らしい声が聞こえてきた。
「――お姉様?」
「いらっしゃいますか?」
「あら? ミラとルイ?」
長椅子に座る私を見つけ、ほっとした表情で部屋に入ってくるのは妹のミラと義弟のルイだった。
「お姉様ぁ」
私に駆け寄り、甘えた声でミラが抱きついてきた。
「え? どうしたの!? ミラ!?」
目を潤ませ、今にも泣きそうな声を上げるミラに私は驚く。
――はっ! もしかしてミラがあんまり可愛いからイジメにあった!?
先ほど王都の令嬢達に囲まれた光景を思い出し、私は顔色を変えた。
「ミラ、大丈夫? 誰かにイジメられたの? どんな子? お姉様が代わりにやっつけてやるわ!」
「お姉様、違います」
興奮して今にも会場に飛んで行きそうな私を制したのはルイだった。
「ミラったら、ダンスで失敗して落ち込んでいるです」
「ダンス?」
「うううぅ」
ルイの言葉にミラが顔を伏せて泣き出した。
どう言うことだろう?
私はミラの頭を撫でながら、ルイに説明を求めた。
「二人とも練習では上手く踊れていたわよね?」
「僕と踊った時は大丈夫だったんですけど。その後、ミラが何人か男の子にダンスを申し込まれて」
「まぁ!」
――やっぱりいくらまだ子供と言っても、ミラクラスの美少女は殿方が放っておかないわよね。
流石、私の天使だわ。
「でも、その子達の足を尽く踏んじゃったんだよね」
「うわーんっ!」
ルイの言葉に、堪らずミラが大声で泣き喚いた。
「……あ、ああ。なるほど」
なんとなくその光景が想像できて、私は頷いた。
「よしよし、泣かないの。ちょっと失敗したくらい大丈夫よ」
「アレ、ちょっとって言うのかな? 皆、結構本気で痛がっていたけれど」
「こら、ルイっ!」
「うわーん、お姉様ぁ」
ルイの正直な感想にミラが更に泣き出してしまう。
「あー、よしよし。そんなに泣かないの」
私が背中を摩りながら慰めると、ミラはヒクヒクと嗚咽を交えて弁明する。
「ううぅ。ルイとは、練習でも、何度も踊っているから、本番でも緊張しなかったのですけど、初めて知らない人と踊ったら緊張してしまって……。しかも、皆さん、やたらと話しかけてくるし、どんどんステップがわからなくなって……」
うーん。混乱するミラが目に浮かぶようだ。
ミラは運動神経があまり良くないから、ダンスも苦手なのよね。
確か、ゲームでも似たような描写があったわ。
「こんな大きいパーティなんて初めてですもの。ミラが緊張しちゃうのも無理ないわ。また次頑張ればいいわよ」
「うう、お姉様ぁ」
「よしよし」
ミラに足を踏まれた貴族の令息達は可哀想だが、おかげでミラに悪い虫がつかなったようで安心した。
ミラには悪いけれど、まだこうして甘えていて欲しいと考えてしまうのは、我儘だろうか。
でも、もう少し可愛い妹を独り占めしておきたいのよね。
私はミラの背中をポンポンと叩きながら、気を取り直してルイへと話を振った。
「ルイはどうだった? 初めてのパーティ楽しめた?」
「はい! それはもう! やっぱり都会は凄いです。ご令嬢方のカラフルなドレスに、見たことないデザインのアクセサリー。靴も素敵で目移りしちゃいました。王都だけあって、流行りのドレスばかりだし、皆センスも良くて」
目をうっとりとさせながら饒舌に語るルイは別の意味でパーティを大いに楽しんだらしい。
「何人かお話させてもらったんですけれど、城下町でオススメのお店を教えて貰ったので、時間があったらぜひ行きたいです!」
うーん。話を聞く限り、本来の趣旨とは違うが、ルイはルイでモテていたようだ。
まぁ、ルイもミラに負けず劣らず美少女寄りの美少年だもんね。
令嬢達も放っておかないか。
私が複雑な心境で想いを馳せていると、アルフレッド王子が帰ってきた。
「……ん? グレース。誰だ? そいつら?」
グラスを両手に持ったアルフレッドが私の両脇に座るミラとルイを見て、小首を傾げる。
「ちょうどいいわ。ミラ、ルイ。立って。紹介するわ。婚約者のアルフレッド殿下よ」
「「――っ!?」」
突然の王子の登場にルイはその場に硬直し、泣いていたミラも顔を上げて、目を丸くしていた。
私は立ち上がるとアルフレッドに二人を紹介する。
「妹のミラと義弟のルイよ。二人とも、とっっっても可愛いでしょう?」
「……お前が自慢していた例の妹と義弟か」
「そうよ。天使のように愛くるしいでしょう?」
「………………義理の弟はともかく、似ていない姉妹だな」
アルフレッドは茫然と立ち竦む二人を交互に見てやって呟いた。
「好きになっちゃダメだからね」
私は念を押しておく。
「…………あのな。確かに見た目は良いが、俺がこんな子供に惚れるとでも?」
意外にもアルフレッドはミラに興味を示さなかった。
呆れたように言うが、今は子供のように見えても数年後には麗しいレディに成長するのだ。その時になっても今の言葉は言えるかしら?
しかし、とりあえずは今の段階でアルフレッドがミラに興味を持っていないようで安心することにした。
私は気を取り直して、ミラとルイの肩を叩いて促した。
「ほら、二人とも。殿下に挨拶をして」
しかし、二人は同時に左右からギュッと私を抱きしめた。
「…………お姉様、僕はやっぱり認められません」
「え?」
「私もです。いくら王子様と言ってもお姉様には相応しくありませんわ」
「ちょっと、二人とも?」
ルイとミラが交互にアルフレッドに向かって失礼な声を上げる。
「……お前の妹義弟も相当に失礼な奴らだな」
「うふ。ちょっと、姉離れができていないようで。すみません、アルフレッド様」
「嬉しそうに笑いながら言うな」
「えへへ」
アルフレッドに対して嫉妬を剥き出しにして、ギュッとしがみついてくる二人に私はデレデレだった。
――もう、可愛いんだから!
ウフフ。姉馬鹿は止められそうにないわ!
王都滞在はもう少し続きますが、これにて長かったパーティ編は終わりです。
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