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悪役令嬢はお姉様と呼ばれたい!  作者: 春乃春海
第三章 悪役令嬢の婚約者
53/70

52. アルフレッド殿下①

 私が挨拶を終えると、今度はお父様とパトリシアがラミラ様に挨拶をし、ボシニア卿を交えて席に着く。

 コの字型に置かれた応接セットで、奥側に位置するソファにラミラ様、テーブルを挟んだソファにお父様、パトリシア、私の三人が腰掛け、一人がけのソファにボシニア卿が座った。

 ちなみにマリアを含めた従者達は壁側に並んで控えている。




 ――それにしても、てっきりアルフレッド殿下が先にいると思っていたのに違ったわ。

 肝心の主役はいつ登場するのかしら?


「――ごめんなさいね。アルフレッドったら、支度に時間がかかっているようで」


 私の不安げな気持ちが伝わったのか、ラミラ様が頬に手を添えて謝った。

 

「いえいえ、とんでもないです! お気になさらないでください」

「ええ。王子様ですもの、お支度に時間がかかっても仕方ないですわ」


 流石のラミラ様相手にお父様もパトリシアも緊張した様子で受け答えをしていた。


「ハハハ。支度に気合が入りすぎて遅くなっているかも知れませんな」


 そんなローランド家の緊張を解すかのようにボシニア卿はわざとらしく明るい声で笑った。


 ――ああ。このギクシャクした空気! まさにお見合いって感じでムズムズしちゃう。アルフレッド王子、まだかしら。もう、さっさと来なさいよ!


 給仕された紅茶を飲みつつ、大人たちのどこかよそよそしい世間話に相槌を打ちながら待っていると、ようやく部屋のドアがノックされた。


 ――来た!?


 私ははしたなくも思わず、首を伸ばして振り返った。


「――っ!」


 部屋に入ってきた見目麗しい少年に一瞬にして目を奪われる。


 後ろに同世代の従者を連れて、優然と歩いてくる姿は物語で見る理想の王子様像そのものだ。


 サラサラと煌くショートヘアの金髪に白い肌。

 凛々しい眉とまっすぐな鼻筋。

 顔は小顔で手足は長く、スッと上に伸びた背丈は同世代の子供達と比べると少し高い。

 まるでモデルやアイドルのような容姿だ。

 そして、彼の周りが輝いているかのようにキラキラとした気品溢れるオーラを放っている。


 ――これが生の王子様っ!


 眩い光に当てられながら、ここで私はまたしても失念していたことに気づいた。


 ――攻略対象キャラならば、即ちルイのように美少年に決まっているじゃん!

 負けた。

 悲しきかな。女の私よりも美しく、顔の造形が整っている。


 悔しいと思いつつも麗しい姿に見惚れていると、ラミラ様と同じ赤い瞳が真っ直ぐと私を射った。


 ――ゾクっ。


 鋭い視線に背筋が粟立つ。


 あ、あれ? なんか敵意持たれていない? 気のせい?


 殺気を孕んだような王子の目つきに唖然としていると、ラミラ様を含めた大人達が席を立って殿下を出迎えていることに気づき、私も慌てて立ち上がった。


「まぁ! なんて美しいのかしら!」

 

 隣でパトリシアが囁く音量で感嘆の声を洩らす。

 

「殿下はこちらへ」

 

 ボシニア卿が席を勧め、アルフレッド王子はラミラ様の隣に立った。


 こうして麗しい母子が並ぶと神々しさが増すようだった。

 肌と髪の色こそ違うが見た目はそっくりな美形親子だ。

 ただ、大人しそうな母親とは違い、王子の方は冷淡な印象を与える顔立ちをしている。

 クールビューティーといえば聞こえはいいが、どこか畏怖を与えるような冷たさを感じた。


 そんな彫刻のような美少年だからか、口を一文字に閉じ、無表情でいると殊更冷徹に見えた。


 ――うーん、もしかして機嫌が悪い?


 私はニコリともしない婚約者に疑問を感じながらも、口元に笑みを貼り付け挨拶をした。


「初めまして。アルフレッド殿下。グレースと申します」

「……アルフレッドだ」


 ボソリとおざなりな挨拶で返される。


 緊張をしているとも見れなくはないが、そのぶっきらぼうな言い方はどうなのかしら? ちょっと失礼じゃない?


「……」


 しかも特に会話を広げるつもりがないらしく、アルフレッド王子は直ぐにソファに腰掛けてしまう。

 殿下が真っ先にソファに腰を下ろしてしまったので、周りも微妙な空気になりながら、各々腰を下ろした。

 

「……」


 ――ちょっと!

 仮にも婚約者との初対面なんだからもっと言うことあるでしょう?

 可愛いねとか、こんな素敵な方が婚約だなんて嬉しいですとか、上辺だけでも言ってよ!

 私の立場も考えて!


 私は口を出したくなるのを堪えて、渋々ソファに座り直す。

 王子の素っ気ない言動に、何だか微妙な空気となってしまった。


「……お噂は聞いておりましたが、これほど見目麗しいお姿とは」

「ええ、本当に。良かったわね、グレース。こんな素敵な方と結婚できるなんて貴女は運が良いわ」

「……」


 お父様とパトリシアは口々に殿下を褒めるが、その称賛にもニコリともすることなく、アルフレッドは無表情に沈黙を通す。


「……」

「……」


 ――うわぁ、気まずい。


 アルフレッドの隣に座るラミラ様も困った顔をしているし。

 一体、どうしたらいいのかしら?


「ホホホ。流石のアルフレッド殿下も緊張されているのですかな。どうでしょう、殿下。親睦を深めるために、グレース様に庭園をご案内されてはどうです?」


 見るに見かねたのか、仲介役のボシニア卿がわざとらしく明るい声で提案してくれた。


「そうね! 大人達がいると緊張するでしょうし、ここはまず二人で親睦を深めるのがいいと思うわ」

「そうだね。私達はここで話をしているから、グレースは殿下と一緒に行ってくるといい」

 

 パトリシアとお父様も揃って賛同し、あれよと言う間に、私達は問答無用に部屋から追い出されることとなった。




ーーーーーーー




「…………」

「…………」


 アルフレッドとその従者の少年、そして私と侍女のマリアが廊下に立ち尽くす。


 不機嫌な空気を醸し出すアルフレッド王子のせいで部屋から追い出されたのに、当の王子は変わらずにムスッとしていた。


 ――なんだか思っていた以上に印象最悪なんだけど??

 

 好印象なのは見た目だけで、中身は失礼の塊だ。

 まだ子供だから仕方ないとは言え、初めて出会った婚約者相手に最低限の礼儀もないとはどういうことだろう?

 それだけ、私との婚約が乗り気ではないってことかしら。

 それとも私の顔が気に食わなかった?

 もし、この縁談が私でなくて、ヒロインのミラだったら、もう少しまともなリアクションをするのかしら?


 王子の顔を見つめながら考えていると、動き出そうとしない王子を見咎めて、従者の少年が王子に進言した。


「殿下。グレース様を庭園にご案内を」


 その言葉でようやく王子は私へと顔を向けた。

 ――しかし。


「……はぁ」


 アルフレッド王子は面倒くさそうにため息を吐き、私を置いて歩き出してしまう。


 ――え、え?

 ちょっと、エスコートもなし!?


 あまりの態度に唖然としていると、アルフレッドの従者が困ったように眉を下げ、仕方ないというように私に向かって、「どうぞ」と後に続くように勧めた。


「……」

「……」


 思わず、不安気なマリアと顔を見合わせ、仕方なく殿下の後ろに続くのだった。


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