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悪役令嬢はお姉様と呼ばれたい!  作者: 春乃春海
第三章 悪役令嬢の婚約者
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51. 顔合わせ


 そして、とうとう婚約者であるアルフレッド殿下と顔合わせをする日がやってきた。

 流石にドキドキして昨夜は寝付けなかった。

 

「お嬢様、素敵ですよ」


 この日のために仕立ててもらった他所行き用のドレスに身を包んだ私は鏡の前で全身を確認していた。


 少しでも可憐で清楚に見えるよう白を基調にしたドレスはフリルなども控えめで、着ていると大人しい令嬢のように写してくれた。

 そして、今日はアイリ直伝の目元を優しく見せるメイクをしてもらったので、相乗効果でいつものキツい顔つきが和らいでいるように見えた。


 ミラの侍女であるアイリは最近、メイク術に凝っているらしく、顔を小顔に見せる方法や目を大きく見せるメイクなど、色々な技術を習得していた。

 素顔をお化粧で誤魔化すのはどうかなとも思ったけれど、何はともあれ第一印象は大切だ。

 私は鏡に向かってニィーと口元を指で引っ張ると、笑顔を作って仕上がりを確認した。


「よし! 用意は万端ね。じゃあ、行くわよ」


 気合を入れた私は、お父様とパトリシア、それとマリアを含めた数人の従者と共にお城へと向かったのだった。




 王族の暮らすお城は都の高台に位置し、街のどこからでもその姿を見ることができる。

 遠くから見ても白く眩い王宮は近くで見ると更に煌びやかで、厳しい城門を抜け、城の中に入るまで息をするのも憚られるくらい緊張した。

 それはパトリシアも同じのようで、いつもは厚顔無恥に振る舞う彼女も口数が少ない。

 いつものように平淡としているのは領主として何度か城を訪れたことのあるお父様だけだ。

 

 ――こういう時だけは頼もしく見えるわね。




 すぐに王子の元へ通されるかと思いきや、色々手順があるようで、まずは待合室に通された。

 待合室と言っても華美な上に無駄に広く、ソファに座っていても落ち着くことはない。


 ソワソワとしながら大人しく待っていると、ドアがノックされ、まるまるとした体格の貴族男性が現れた。


「お待たせしましたかな」

「これはボシニア卿。この度はまたとない縁談をありがとうございました」


 ペコペコと頭を下げて挨拶をするお父様を見るに、どうやらこの人物がアルフレッド王子と我が家を取り持った仲介人らしい。


 ボシニアというと、交易路を有した大きな宿場街がある領地である。

 同じ伯爵の爵位でも、向こうははっきり言ってかなり資産を持った貴族であった。

 羨ましい。

 

 ボシニア卿はお父様とパトリシアに挨拶をした後、私の方へ視線を向けた。


「こちらがご息女ですかな?」

「お初にお目にかかります。グレースです」

 

 私が挨拶をすると、ボシニア卿は上から下まで私を見ると、顎のお肉を揺らしながらうんうんと頷いてみせた。


「ほほ、これはこれは。亡くなられた先代ソックリですな」

「……」


 またか。

 アイリ直伝メイクでも隠せないほど、そんなに私の目つき鋭い?

 正直、会う人会う人、お祖父様にソックリと言われると凹むものがあるわ。


「ではお部屋にご案内します」


 落ち込む私に気づくことなく、ボシニア卿は私達を案内する。

 会話もなく、静々と王宮の奥へ向かって歩く。

 王宮はどこを見ても広く、果てしない廊下が入り組んでいるため、どこをどう通っているのかもわからなかった。

 前を歩くボシニア卿がいなかったら、迷子になっていただろう。


「こちらです」


 案内された部屋は先程の待合室より更に広く、天井のシャンデリアや高価な調度品などが設えられていた。

 眩い部屋に驚きながら、ふかふかの絨毯が敷き詰められた部屋へと一歩足を踏み入れる。

 そして、目線を部屋の奥へ移した私はビックリして足を止めた。

 

 そこには既に先客がいた。


 部屋の奥に備え付けられたこれまた豪奢なソファに麗しい一人の女性が座っており、その後ろには側仕えの侍女が二人控えていた。


 佇まいからして、一目で高貴な方とわかった。

 頭からクリーム色の薄いレースのベールを被り、そのベールから覗く肌は褐色で、銀色の真っ直ぐな髪が肩へと流れていた。


 女性が部屋に入室してきた私達に顔を向ける。

 この国では殆ど見ることのない赤い目が私を捉えた。


「――アルフレッド様の母君、ラミラ様です」


 後ろでボシニア卿が紹介する。


 ――この方がっ!?


 そう言えば、アルフレッドのお母様は隣国から来た姫だと聞いたことがある。

 褐色の肌も赤い目も隣国では珍しくない。

 

 隣国と言ってもレトナークの領地から山を越えたすぐ近くに位置している領土だ。

 本国よりも領土はずっと小さく、周りを山に囲まれた小国である。

 特化した財源もなく大きな力を持たない隣国は、自国の姫を周りの国に嫁がせることで大国との関係を保っていた。


 彼女もまたそういった政治的戦略により、我が国に嫁いできた姫で、後ろ盾も殆どなく、その地位は他の王の妻達に比べて低かった。

 子供はアルフレッド王子のみで、普段は後宮の片隅で大人しく過ごしているという深窓の妃だ。


 ゲームでは話だけでその姿を知らなかったが、実際にお会いすると隣国の姫というだけあって美しく、けれどどこか儚気な雰囲気を持った人だった。


 ――一応、義理の母、姑に当たるってことよね。なんだか緊張するわ。


 緊張でガチガチに固まっていると、ラミラ様の方から声をかけてくださった。


「貴女がグレースさん?」

「は、はい」


 私は呆然と立ち尽くしていたことに気づき、慌ててラミラ様の前に移動する。


「お初にお目にかかります、殿下。レトナーク領主、長女のグレースと申します。以後お見知りおきくださいませ」


 精一杯美しく見えるように丁寧に挨拶すると、ラミラ様はじっと私を見つめた。


「ふふ。可愛らしい子ね」


 柔らかい物腰で微笑むラミラ様にポッと頬が赤くなるのを感じた。

 なんて、優しい声色なんだろう。

 全身から溢れる気品佇むオーラにクラクラしそうだった。


 ――しかも、私のキツい顔を見て、可愛いらしいなんて!


 そんなこと初めて言われたわ!

 いつもは、意思の強そうな顔とか、凛々しい目つきとか、回りくどく怖い顔と評されることが多いのに!

 もしかして、アイリ直伝の目元ふんわりメイクの効果があった!?

 くぅう。アイリありがとう!

 帰ったら、お小遣いあげちゃう!


 内心喜びに浸っていると、ラミラ様が柔らかく目を細めた。


「アルフレッドと仲良くしてくださいね」

「は、はい。こちらこそ、よろしくお願い致します!」


 ドキマギしながら答えると、ラミラ様はにっこりと笑ってくれた。


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