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序章

 俺は僅か十六才にして、人生に絶望していた――俺の名前は(かい)。この春高校に入学したばかりだ。普通なら、進学できた喜びと、新たな出会いに胸を踊らせて青春の輝きに満ち溢れている筈なのだが、俺の心はどんよりと曇っていた。だが俺の詰まらない胸の内を明かす前に、俺達が置かれているこの世界の事情について、少しばかり説明しておきたい。


 俺達の生きる時代は二十一世紀も終わりに差し掛かった頃。今世紀初頭のコンピューターと天体観測技術の飛躍的向上に加え、古代より研究されてきた占星術の知識の積み重ねによって、今や人間の運命はほぼ完璧に解明されていた。どういう事かと言うと、人は生まれた瞬間に配置されていた天体によって、それぞれ固有のホロスコープを持つ。ホロスコープには三百六十度の度数が付いており、一度毎にその度数の意味があった。十九世紀末、アメリカのミズーリ州で生まれた占星術師、マーク・エドモント・ジョーンズが、チャネラーのエリス・フィラーの協力を得て、一度一度に意味付けしていったものだ。そして、この度数に天体が配置された時にその意味が現象化されたり、人間の心理に影響を及ぼしたりする。この研究はその後も細々と続いていたが、余りの正確さに、とうとう今世紀中頃に全世界の共通認識になったのだった。そして、人間はこのホロスコープ通りにしか生きられない事が判明した。それから更に重要な事――このホロスコープ通りに人間が生きる事によって、太陽系のエネルギーバランスが安定し、太陽系に秩序をもたらしている事も分かったのだった。だから、一度定められたホロスコープから外れて生きる事は、太陽系の絶妙なバランスを乱す事になる。どのみち強力な天体エネルギーの支配下に有っては、そう易々と人間に運命を変える事など不可能なのだが、念のために法律が制定された。ホロスコープに定められた運命を変更する事は、宇宙秩序への裏切りとして、重罪となったのである。


 余りに幼い頃はまだ理解が及ばないとして、本人のホロスコープは伏せられるが、満十六才になると、役所から通知が来る。自分のホロスコープと、その意味するところが記された書類が送られて来るから、それからは自覚的にホロスコープ通りに生きる事が求められるのだ。


 どうだろう? 俺達の生きる世界の事情がご理解頂けただろうか? 詰まるところ、俺達は現代の神の手とも言うべきホロスコープから逃れられないのであって、人生に自由などは無いのである。いや、ホロスコープに自由を意味する度数を持って生まれた奴は自由な人生を謳歌出来る訳だが、それとて予め予定されていた運命だという意味では真の自由ではないのだ。仮に自由奔放に生きる運命を背負った奴が、お堅い役人に管理された秘書になりたいと願ったとしても、なれる物ではないのだ。


 このホロスコープの解読の成功によって、人類はある意味では楽になったし、ある意味では新たに悩みを抱える事となった。どのみち運命通りにしか生きられないしそれが宇宙のお望みなのなら、難しいことは考えずに淡々と生きるだけで良いのだし、その事でもう誰も文句は言わない。だが幸せになるホロスコープの元に生まれついた奴はのほほんと生きていれば良いが、ハードな運命を背負った奴は十六才にして早くも人生に絶望する事となる。俺もその一人である。


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