起【金髪男の1日】【親父の苦悩】
銃を手に入れ、意気揚々としているオレはとある武器屋に入った
ただ自慢したかっただけなのだが、マスターと呼ばれる店主はオレの銃を見て目を見開いた
「ぼっちゃん……やはりあんたか」
「は?何の話だよ」
「……ワシの口からは何も言わん、親父さんから聞きなさい」
「だから何の話だっ────」
すると魔術による連絡が耳に響いた
オレは耳に手を当て、相手の返事を待つ
「誰だ……親父?」
『お前、自分が何したかわかっとるんか!!』
「なんの事だよ!」
『ギルドで待つ!10分でこい!』
「はぁ!?今俺がいるのは────」
『知らん!あと9分だぞ!』
魔術はそこで切れると、俺は急いで銃を担ぎ、武器屋から出た
後ろからヤークとカークも続こうとするが俺は静止させた
「俺がお呼びだ、お前らは待っとけ」
2人は不満ながらも武器やからそう遠くはない隠れアジトに戻った
親父が切れるのは仕事の失敗くらいだ
オレだけに責任を持たせるのも不満だろうが、堪えて欲しかったのが本音だ
冒険者ギルドまで馬を走らせ、入ると喧嘩する人間と煽るやつが入り交じっていたが俺は無視して親父のいるギルド長室に向かう
入るやいなや、無言で酒を渡された
「……?へへっ、サンキュ」
一口で飲み干すと、親父は深く溜息をつき、考え込む姿勢をとる
「親父、なんで呼ばれたんだ?」
「お前、やってくれたな」
やってくれたな、と来たら仕事の失敗に関することだろう
オレは記憶を巡る
「オーク族の討伐か?アレは確かにやりすぎたけどそれ以上の被害はねぇだろ」
オーク族の繁殖期には人を攫い、レイプまがいの交尾をするため討伐する必要があった
俺は許可を得ずに女ひとりを囮にして、交尾の最中にオーク族を全滅させた
女も犯したあと、殺した
「アレはアレで問題だが、今回はそれ以上だ」
どうやら違ったようだ、しかし、ほかなんて思いつかな────
「あ、この銃持ってたやつの家に押し入ったことか?」
ヘラヘラと笑うオレはあのことを思い出す
黒い長髪をボサボサにしたおっさんがボコボコにされている中、出現した幼竜とはいえぶっ殺してやったのだ。むしろ誇るべき行動だ
オレは親父の褒め言葉を待つが、帰ってきた返事は拳だった
「ゴッ、カハッ!」
鳩尾に1発入り、飲んだ酒を吐いた
「それが問題だと言っている!誰の家に強盗したか分かっているのか!!」
「し、知らねぇよ……龍の巣窟じゃねぇのか?」
俺はふざけながらも立ち上がるが、2発目が鳩尾入った
「オゲェエ!がハッ、ケホッ」
親父は俺の姿を見て、ハンカチを取り、投げた
「拭け、汚れる」
いつも汚い床をさらに汚したので、拭いても拭いても汚れが取れない
「お前が手を出した男は──…非常にまずい男なんだ」
「ハァ、ハァ……だから、誰なんだよ」
「俺が元暗殺ギルドの頭領だったのは知ってるな?」
それは昔、親父から聞いた英雄譚のようなものだ
暗殺ギルドから足を洗いたいと願い出たが、最後の依頼として完遂不可能と言われる依頼を、見事完遂させた話
その依頼を完遂したことで今の冒険者ギルドの頂点に上り詰めたとも
昔のオレは目を輝かせてその話にのめり込んだが、今の親父の顔を見ると────
「あれは、嘘だって、言い、たいのかよ……?」
親父は、黙ってた
「じゃ、じゃあ誰がやったんだよ!!」
「”デンジャー”」
俺はその名を聞いて、黙った
伝説とも言われるその男は、数々の依頼をこなす殺戮兵器と呼ばれ、その男と目が合えば死を覚悟しろとも言われている
オレは、自分でも言うのもなんだが察しがいい方だ
察しの良さが、悪い方に向くことは無かったのに
今回は、味方をしてくれなかった
「そ、その男が、”デンジャー”が、オレが強盗した奴だって言いたいのかよ!!」
「……察しのいい男に育ったな、息子よ」
親父は悲しい顔をしていた
怒るわけでもなく、慈愛に満ちた目は…俺の死期を悟っていた
「で、でも”デンジャー”なら俺なんかすぐ殺せただろ!!」
「暗殺ギルドから足を洗ったのは俺じゃねえ!”デンジャー”だ!」
綺麗さっぱり、殺しからかけ離れた平穏を手に入れた男の前に、銃を奪った男が現れれば待つのは
「────報復」
「復讐でもある……あとお前、幼い頃が現れて討伐したと言ったな?」
直接親父に言った訳では無いが、予告もなしに現れた魔物は討伐した際、報告する必要がある
「龍の巣窟出身の幼竜で違いないが、手を出したのはまずかった」
「な、なんでたよ……まだあんのかよ親父!!」
「龍神様の血を引き継ぐ奴だったんだ!」
その一言で、『誰』と『何』が敵になったか把握出来た
”デンジャー”と”龍神”────
ふっと、俺は親父の顔を改めて見る
もう、どうしようも無いと言わんばかりの目
「そ、そんな目で見、見るなよ!親父!!何とかしてくれよ!!」
「……自分のケツくらい、自分で拭け」
絶望したオレを冷酷な言葉で突き放したかと思えば、親父は俺に抱きついた
「うぅぅ……!」
「お、親父……」
数秒経ち、離れた親父はオレに指示を出した
「もう俺の前に現れるな、どこか遠くに……隣国に逃げろ、いいな?」
「……あ、あぁ?」
「いいな!!」
「わ、分かったよ!」
オレは親父に言われ、部屋から出た
”デンジャー”から逃げれたとしても、龍神からは絶対逃げられない
ならば俺がとる方法はひとつだ
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バカ息子がやってくれた
龍神様には言葉巧みに言い訳すれば許してくれるだろう、あのお方が怒ったことは生まれてこの方見た事がない
問題はデンジャーだ
抜け落ち、丸くなった牙はまた鋭く尖り出している
要はもう、待つだけだ
死を────
「ぐうう!!ダメだダメだ!!息子は殺らせはせんぞ!!」
俺は魔術連絡回路を発動し、とあるギルドに報酬を出した
「……あぁ、そうだ……だからそう言ってるだろう!!……200…250万だ!奴を殺せ!!」
俺は親としての責を全うすることを選んだ
そうだ、”デンジャー”を殺せばいい。奴が死ねば査問会も動くことは無い、証拠は『掃除屋』にでも片付けてもらおう
しかし問題なのは危険を察知して『ホテル』に引き込まれた可能性だ
可能性は低いが……まぁ考えても無駄か
高い報酬だ、奴の首でも足らないほどだが
「うちのギルドからも出すか……どうせ無駄だろうがな」
喧嘩ばかりする能無し共に期待はしていない俺は、声をかけるためにロビーへと向かった
敵の心情とか正直いらないけど、どう動くとか書かないとね……