起
4年前に妻を病気でなくした
2年前にが妻の遺伝によりなくした
2人とも、最期は笑顔で逝ったのを鮮明に覚えている
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ふと、ノック音が聞こえた
「サラタナさーん、居ますかー?」
一人暮らしに向かない豪邸をさ迷い玄関へ向かい、ドアを開けると、1人の宅配業者が何も持たずにそこにいた
「……荷物か?」
「えーと…サラタナ・キリさんからです。奥さんですね……不思議なこともあるんですねぇ〜」
余程でかいのか、後続から幼竜が首輪に手紙をぶら下げて配達業者に連れられ、こちらに向かってくる
「大人しい幼竜ですよ〜、あ、こちらにサインを〜」
「ありがとう」
俺はサインを書き殴り、配達業者を帰す
幼竜はこちらを見ても怯えず、首を差し出す
「命令されたか?首を差し出すと」
幼竜は首を横に振り、手紙のある首をさらに押し付ける
「わ、分かったから……えーと……?」
手紙にはこうあった
”久しぶりね、私の愛する夫、コウちゃん
この幼竜はあなたの誕生日に合わせて娘と選びました。
この時点で私はもう長くはないと回復術士に言われた時です、なので娘に頼んで選ばせてもらいました。
私だと思って世話してね、って言うと変な感じになっちゃうわね……
名前は好きに決めていいけど、コウちゃんはセンスないから私が決めるわ。
『キリ』って名前で、呼んであげてね
コウちゃん、私死にたくない……でも、死は受け入れるわ
今まであなたのこと、理解できなかった私を許して…
メリーもコウも、愛してるわ、大好きよ
キリより”
手紙を見た俺は、涙を流し、嗚咽を垂れた
膝が崩れ落ち、幼竜にもたれ掛かると、幼竜はぺろぺろと俺の顔を舐める
「……キリ」
妻の名前、そして幼竜の名を呼ぶと反応した
「俺の方こそ、済まなかった」
なんとない、謝罪をこぼした所で幼竜はもう1枚あると言わんばかりに紙切れを手渡してきた
「……?ふふっ、まだあるのかい?」
”ぴーえす おとーさん!がんばって!!わたしもがんばるから!!メリーより!”
俺はそれが娘のものだとわかり、崩れ落ちた
もう居ない2人は、俺に誕生日プレゼントを送ってくれたのだ
もう何も失いたくない
「……キリ、俺と一緒にいてくれるか?」
呼ぶと、クルルと鳴く幼竜『キリ』は寄り添ってくれた
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暗殺ギルドから足を洗い、平穏を手に入れた俺はサンサンと降り注ぐ日を浴びながら趣味の狩猟へ、山へ向かう
用いる銃は暗殺ギルドから使い潰した簡素な銃を改造し、豪勢なアンティークで装飾されたものだ
幼竜『キリ』には留守番を頼んだ
『キリ』には豪勢な料理を食べさせてやろう、そう思った矢先の出来事だった
3人組が横に割り込んできた
「おっさん、その銃かっこいいな」
「……譲る気は無いぞ?」
俺は即座に譲らないと念を押すが、取り巻きのひとりが声を荒らげる
「テメェ調子乗るなよ?この方を誰だと思ってんだ?」
正直いって知らない、興味もない
「知らんな、悪いが先を急ぐもので」
「おい調子に────」
「まぁいいじゃねえかよカーク、関わんねえと知らねぇ世界なんだからよ」
偉そうな男は意味深なことを言うと、声を荒らげた男は引下がる
「でもなおっさん、誰に目をつけられたか……俺の顔覚えておけよ?」
俺はその発言を聞いたものの、チラ見する程度に覚えた
見せる為の筋肉だろうか、多少鍛えているものの特徴的な金髪以外は特にパッとしなかったのだけは確かだった
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鹿一頭、熊二匹を仕留めた俺は川で欲しい部位等を捌き、帰路に着いた
玄関を開けるとキリが寄ってきたため、でかい肉をキリに放り投げると喜んで食べてくれた
俺はクマの肉を取りだし料理した
美味だった
「キリ、俺のも食べるか?」
クェェ♪と喜んで鳴くキリは、料理した熊肉ステーキを一口で平らげてしまった
キリを妻として見ることは出来ないが、そこにいるかのような幻覚を見て、泣きたくなる
「ありがとう……キリ」
クェェ♪とキリは鳴いた
夜
2階の寝室で、1人で使うには大きいベットを幼竜『キリ』と一緒に並んで寝ていると、遠くで窓ガラスが割れる音を聞いた
俺は強盗かと思い警戒態勢になるが、荒事は避けたいし暗殺からも足を洗ったのだ。殺しは避けたいと思った
地元の警備団に連絡したいが、伝書鳩を使うにしても行って警備団が来るまでに数刻は掛る
カーテンをあけ、一応鳩を飛ばすも複数の足音は1階を荒らし始める
家主がいることをアピールする為に、俺は一階に降り、強盗たちの前に出た
「よぅ、おっさん。いいとこに住んでるな」
1日しかたってないので忘れようのない金髪に、多少筋肉の付いた痩せ男が、ニヤニヤと俺を見ていた
「何の用だ、強盗め」
「おいおい忘れたのかよ俺の顔、朝に会っただろ?」
「だからなんだ」
「顔、見知った仲じゃねぇか…おい!銃あったか?!」
金髪男は叫ぶやいなや、奥から装飾を散りばめた銃を持った男を見た
「やっぱイケてるねぇ!おっさん、これくれよ」
「返して貰えないだろうか?」
「やだよ、間抜けなこと抜かすなや」
殺すか────
そう考えるも、暗殺から足を洗った身だ
近くにある万年筆に手を伸ばしかけたが止めた
「……ダメだ、それは本当に……ダメなんだ」
「知るか、そんな嫌なら頭垂れてでも懇願しろよ」
ただの装飾を散りばめた銃ではない
俺は床に平伏し願ったが、男は銃をベタベタと触りだし、手を止めた
「……名前?作った人間か?」
「名の知れた奴なら高く付きやすぜ兄貴」
「……っ!」
俺は歯を食いしばった
「えーとぉ…?”サンタナ・メリーより”……?誰だこりゃ」
最愛の天使、俺の娘からの一丁だ。俺のツテを利用して銃を作らせ、銘を彫ってもらったのだ
「頼むから銃を返してくれ…!」
「うるせーなオッサン!おい!ヤーク!お前銃扱ってたよな!!」
「若!あまり声荒げないでくださいよ!隣人が起きますって!」
「起きたら殺しゃいい!銃に変なのが彫られてる!消すことできるか!!」
「っ、やめ────かはっ」
背中から重い衝撃がのしかかり、肺の息を全て吐いた
「おい殺すなよカーク、堅気を殺したら面倒だ」
「分かってるよ兄貴」
取り巻きの持つサイスが俺の背中を攻撃したのだ
「若!消しましたよ。質屋に入れたら安くなりますが良かったっすか?」
「おーぅ、別にいいんだよ……すげぇなやっぱ。どの職人にもこんな装飾扱える奴いねぇよ」
うっとりと銃を眺める男に俺は抗議した
「もう、いいだろう!帰ってくれ!」
「あーもう、うるせぇ!もういい……骨の1本や2本覚悟しろよおっさん」
骨の1本や2本と聞いて俺は身を丸めた
すると横からの衝撃が入り、床に転がる
「カーク、ヤーク。気絶したら起こせ、朝はなげー……ぞ?おん?」
骨を折られ、血を流しながらもボコボコに袋叩きされる俺を後目に、金髪男は顔を上げた
「クルル?」
「オ、オイ竜だ!!危険指定生物sssランクが何故こんなとこに!!」
袋叩きは止まり、開放されたかと思えば違った
俺も階段から降りてきたキリを見つけ、腫れた顔を震わせながら首を横に振る
「若!幼竜とはいえ危険です!俺たちが討伐します!」
「兄貴はそこに!」
「な、なんでもいいから殺せ!」
キリは知らない、コイツらが悪さをする悪党だということ
キリは知らない、竜の存在が天上天下唯我独尊、生物の頂点ということを
キリは知らない、戦闘を
「まっ……て、く…」
意識を手放した時からの出来事は知らない、知りたくもない
最後に見たのが金髪男の持つ、俺の銃が弾を撃ち放ち、キリを、殺すところなんて、知りたくもない
警備団が朝方に駆けつけた時には酷く惨状だったらしく、起こされた俺は回復術士に癒してもらうも、あとの治療は自宅で行うと言った
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多少傷の癒えた俺は街へと向かい、とある武器店のドアをコンコンとノックした
返事を待たずに入るとそこには、ずらりと並ぶ剣やアックスが佇んでいた
「はいはい、なにか御用かね……っ?!デン──」
「久しぶりだな、マスター」
出てきたのは鉱山に棲む種族のドワーフ種だ
立派な髭を持つが、頭皮は寒そうな印象が過去を物語る
「……何の用だデンジャー、娘からの贈り物を壊したか?」
無知とは罪か、否か
俺は問いに答えた
「……娘の銃を奪われた」
「んなっ!?どこの阿呆だ!」
「偉そうな金髪頭、若い、痩せ身の細マッチョ」
「……他は」
「取り巻き2人、ヤークとカークと名乗ってた」
「その2人は冒険者ギルドに所属している、となると金髪頭は現頭領の息子だろうな」
冒険者ギルドは基本荒くれ者が多く、特にこの都市では喧嘩沙汰が耐えない
武器を抜き合えば死人は絶えず、魔法が使われれば住人に被害が及ぶことでギルドの周りはスラム街と化している
「それが分かればいい、助かるマスター」
「武器いるか?」
「ここには無い」
俺はそれだけを言い残し店を出た
次に訪れたのは”龍の巣窟”
本来なら最初に訪れる場所だったが、娘を優先して武器屋に向かったのだが────
巣窟の入口付近は巨大な龍の頭蓋骨が飾られており、禍々しい門の前には門番が1匹居た
否、人を模した龍か
「門番竜人、会いたい龍がいる」
「……アポはあるか?」
「人種のやり方に合わせる必要があるか?」
「──互いに手を取り合い、尊敬し合うことで平和は成り立っている。龍神様は尊重し合うべきだとの考えだ」
「その龍神様に会いたい」
瞬間、重い、重圧が肩に乗る
門番から発せられた威圧だ、大抵の人間ならこれで死に至ることもある
「尊重シ合エヨ、肉ノ塊風情」
「喧嘩売る人間を間違えんなよ新参トカゲ」
『おやめなさい!』
睨み合う俺と門番竜人に割り込む女性のような声が、俺の脳内を駆け巡る
『ハウ、その人間を通しなさい』
「シ、シカシ此奴ハ────」
『同じことを2度も言わせるのですか?私に?』
「シ、失礼シマシタ!」
門番竜人ハウは渋々な顔をしながら、俺を睨みつけながら、威圧を放ちながら、長いしっぽを震わせながら
でかい門を開け、俺を通した
俺は通された門を潜り、長い霧のかかる木造の廊下を走り抜け、でかい屋敷のある両扉を開いた
そこで龍神特有のオーラ的存在を確認すると、土下座の姿勢で頭を深く下げた
「おやめなさいデンジャー、何も言わずに頭を下げる者がいますか」
しかし俺は沈黙し、おでこを床に擦り付ける
「あなたはいつもそう頑固なんですから…」
「誠に申し訳ございませんでした」
一言、謝罪を告げると龍神は深くため息をついた感覚を身に浴びた
生暖かい空気が身にまとわりつく
龍神は基本この世界に肉体を持ってはいない
概念という形で世界を観る存在は、神にも等しいということで【龍神】と呼ばれている
本人も嬉々としてそれを受け入れている
姿は隠せてもそこに存在するかのように、感じ取れることは出来る
先程の生暖かい空気もまた、深くため息を着くことで発せられた吐息だ
「謝罪は受け入れます、幼竜のことですね?」
「はい」
「私も観ました、ですが私にも責があります。あの子に世間のこと、戦闘のことを教えなかった、私にも」
ギチリギチリと音が鳴った
それは上からか、背後からかは分からないが────
「この失態、私めが晴らしましょう」
「いえ、貴方様の子と知らず飼い慣らすなど不敬なことをした俺にも責があります。どうか、俺が」
俺の言の葉を聞いてまたもや深いため息を出す龍神は、仕方ありませんねと言わんばかりに俺の頭を突く
「では、恩恵を────」
「不要、俺を誰だと思ってますか?」
「……”デンジャー”」
「首をお持ちします。”それ”でまた、平和を謳歌してもらいたい」
「あなたは本当に……退屈しませんね」
その言葉を最後に俺はフッと覚悟を切り替えると、門の前で土下座をしていた
「面会は終わりだ、人よ」
「……人って括りはやめとけ、新参。人種の個人での強さはてめぇらより超える奴もいる」
「はっ、楽しみだな。では貴様は名をなんという?」
「俺は────
殺し屋だ
ジョン・ウィック見て書きました
キアヌかっこよすぎだろ