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学校に遅刻しそうだったから食パン咥えるか迷ってたんだけど、そのせいで遅刻が確定したがなぜか玉の輿に乗ることに成功した件について

作者: 原書

初めてのラブコメです。

僕も最近恋を始めました。話してるだけで楽しいなんてすばらしいことです。この関係をこのまま続けたい、

「今日も煽られて辛いなぁ」


 私はパンを口にくわえ颯爽と家を飛び出した。


「会いたいんだ。今すぐその角からパンをくわえて来てくれないか」


 そんな理想を抱きながらいつもの通学路を駆ける。


(いつか少女漫画みたいな恋愛がしたいなぁ)


 恋とは一体なんなのか?


 それは我々にとって利益を与えるものなのだろうか? はなはだ疑問に思う。

そんな事を思いながら道を歩いていると、道端に一片の食パンを見つけた。その食パンは私に向かってこう言った。


「ピーナッツバターはノーセンキュー」


 私は無視して学校に行く事にする。


「ちょっとお待ちなさい。君の唾液はストロベリージャムだ。僕を彩るに相応しい。ぜひ僕を食べて行きなされ」


 私は食パンに対して言う。


「ごめんね。私はパンよりご飯派なの」


「じゃあ君の今くわえているパンは何なんだい?」


「それはね――米粉パンなの。米がついてるからオールオッケー!」


 その言葉に食パンは耳を尖らせる。


「米粉パンは米とついているが同時にパンでもある。同じように恋と愛はくっついているが、似て非なるものだ。君は素敵な恋愛がしたいのだろう? ならば、その両方を知らなくては真の意味で恋愛をする事は出来ない」


「愛とか恋とかごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ。私がいるんだ。答えはもう出てる」

 その言葉に対し、一人の男が名乗りを上げた。


「こ、こんにちは。内閣総理大臣の安部新一であります。改めて、ですね。恋と愛というものは、米粉パンとその他のパンとありまして、ですね。まさに、この話を、ですね。考えた方の中には、ですね。核心、答えにたどり着いた方が、ですね。いると思う、思うのですよ。そのため、わたしの、わたくしの方から新しい政策を出し、経済の改革を計ろうというものであります」


 その政策に納得できなかった私はおもむろに口元のパンを手に取り、安部信一の口にねじ込んだ。


「んぅんぅんぅ!」


 安部信一は突如突っ込まれたパンに慌て、喉を詰まらせる。

 それを目にした食パンは歓喜の声を上げた。


「おお、旧き友を捨てたな。良い決断だ。我が盟友よ。そなたの口の中のジャムで僕の白い無垢な体をびちゃびちゃに濡らすがよい」

 

戯言を言う食パンを後目に、私は安部信一の口からパンを抜き取り、再び自分の口にくわえる。

 その後、フランスパン派との紛争にも巻き込まれたが、なんだかんだで学校へと着いた。




 登校中におかしなことがあろうと基本的に私の日常は変わらない。学校に行って、家に帰って寝る。その繰り返し。そこに多少のスパイスが加えられただけの事だ。そこに何の感慨もなければ、何か思う事もない。

 だから、私は願うのだ。少女漫画のような恋を。

 しかし、教室に入ろうとした瞬間、再びフランスパン派が立ちはだかった。


「俺には八千本のフランスパンがある」


 怒号と共に襲い掛かって来る。


「悪いな。私には八千本のフランスパンより一本の米粉パンの方が強いと思える」


「よく言った。あとは俺に任せろ」


 颯爽と現れた体育教師。彼とフランスパン派との闘いが始まった。


「一刀流奥義 腐乱酢麺麭」


 フランスパン派の生徒が両手にフランスパンを持ち、それを振るう。それと同時に狭い教室内に異臭が漂う。


「へっ。コイツは二千年物のフランスパン——いわゆるアーティファクトだ。見てみろよ。先の方が腐ってるだろ? コイツはあのキリストが口にしたと言われる部位さ」


 彼が頬を吊り上げ、不適に笑う。


「立った一本のフランスパンなど恐るるに足らん」 


 体育教師はフランスパンを圧し折る。だが、フランスパン派はそれを見て、にやりと笑った。


「俺のフランスパンが全て揃ったと言った覚えはねぇぞ」


「フランスパン派A! 喰らわせてやれ、フランスパンの雨を」


 しかし、その技は不発に終わった。ここは学校。小学校低学年の生徒たちが、フランスパンでチャンバラを始めていた。弾となるフランスパンは、もう残っていなかった。

 フランスパン派は絶望に打ちひしがれ、自らをフランスパン派を辞め、米粉パン派に改宗する事に決めた。


「どうして私の周りっていっつもフィッツもこうなの~」


 私は頭を抱え、思わず叫ぶ。その周りでフランスパン派もとい、米粉パン派は鳴き声のようにこう繰り返していた。


「「「改宗ぐらいさせろよ~卑怯者!」」」

 

誰か……彼等に呑ませる秘薬を下さい。


「秘薬なんてないのかな」


「ぴえん」


 その言葉を聞いて、頭を抱えた男が一人。

 校長である。

 それもそのはず。年老いた老兵である彼には「ぴえん」の意味など知るよしもないのだから。

 頭を抱える校長と私は手と手を取り合い、「ぴえん」とは何なのか? 愛とはなにか? 恋とはなにか? 

 そして、パンとは何か。その答えを探るために私たちは戦っていくのだ。


 語り合う私たちを、いつの間にかバッグの中に入り込んでいた食パンがじっと見つめていた。


「パンも人間も変わらねぇな。叩き、叩かれ、時には仲良く寝かせられる。そんで最後は問題解決のために意見を練り合う。パン作りってのはすなわち人生かもな」


 そう呟いた食パンの事など知らず、二人は目を合わせる。


「でも、これから生きてく中で戸惑う事も沢山あるだろうね」


「戸惑いこそが人生だよ」


 このインターネットの普及した世界で、少しでも戸惑いを見せれば、煽られてしまう時代が来ている。人のあら探しをするのはもう止めないか? 

 ネットはお前らなんかがヘラヘラ笑いながら、使っていいものじゃねぇ。




 三十年後。

 かつての少女は墓石の前に立っていた。

齢四十を超えるまでに、三度の不倫に一件の結婚詐欺。数多の修羅場を切り抜けた彼女はある一つの真理にたどり着いた。


「この世には愛なんて存在しなかったよ。校長先生」


 そう言う彼女の顔は、あの日の米粉パンのように輝いていた。


僕が恋してしまった人は二人いるのですが、どちらも性格が強めなんですね。根拠のないとんでもないことを言い出すことがあるんですけど、惚れた弱みですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらずのクオリティです。 [気になる点] 過去作に比べて物語全体の躍動感が不足しているように感じました。作者さんの強みである怒涛の展開で、もっと躍動感のある作品を目指して欲しいです。 …
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