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「男は名前を付けて保存。女は上書き保存。」と、誰が最初に言い出したのだろう。
できるなら、何年たってもちらつくこの影を早く上書きしてほしい。
微糖の缶コーヒー。
コンビニのエビグラタン。
お気に入りの白いボールペン。
私の日常にいつまでも残るあなたを...
かき消す手段も、その理由さえ、見つけることができないのに。
「いらっしゃいませ。3名様ですね。」
出会いはラウンジだった。
学費と生活費の為のアルバイト。在籍15名程の小さなお店で、当時売上トップだった私は、田舎の大学生の手に余るほどのお給料をもらっていた。
得意なのは年配の落ち着いたおじさま方。綺麗な飲み方をするお客様ばかりで、あまり嫌な思いをしなかった私は運が良かったのだと思う。
「柚月ちゃん、お疲れのところごめんね。フリーの新規、お願いできる?」
その日、ちょうど指名のお客様のお見送りが終わり、入れ替わり入ってきたお客様に、そのまま私がつくことになった。
焼けた肌に、ツーブロック。1番端に座った、シュッとした小顔のイケメンが睨んでくる。見たところ20代後半。
「ママ、私ああいうタイプ自信がないの。頑張ってみるけど、だめそうだったら早めに変えてね。」
「大丈夫!柚月ちゃんは苦手かもしれないけど、向こうはきっと柚月ちゃんがタイプよ。」
よくわからないママの"カン"に促され、しぶしぶ席に向かった。
「失礼します。はじめまして、柚月です。」
席に座って見上げた瞬間、その彼に腕を掴まれた。
「ねえ、デートしたいんだけど。」
ーほら。だからこういうタイプ苦手って言ったじゃん。
「お兄さんイケメンだから、ドキっとしちゃいました〜♡どこに連れて行ってくれるんですか?」
水割りを作りながら、「柚月」が適当な返事をする。
「そうやろ?こいつイケメンなんやけど、全然彼女できんのや。どこか一瞬に行っちゃってよ」
真ん中に座った長身のお兄さんが合いの手を入れる。
「どう?このあと1件行かん?」
たぶん今日は最初のイケメンが、私を「持ち帰る」段取りなんだろう。最後の眼鏡のお兄さんも話を合わせてくる。
「私こんな仕事してるけど、人見知りなんです。初対面だと緊張するし...。ちょっと酔っ払ってから考えてもいいですか?」
そう言って目の前の生ビールを指し、「同じものを飲みたい」と伝えた。
「よかよ、柚月ちゃん。僕、亮っていうんやけど。」
そう言ってイケメンが初めて笑顔を見せた。