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しあわせバトン

Une benediction

作者: 三稜 諒

直接的な性的描写はないですが、ほのかに匂わすのでR15にしています。

自己判断でお願いします。

 今日、羽須美は精一杯のお洒落をしてこの場所に来ていた。

 通常ならメイクは自分でするところを今日は美容院でフルコースをお願いした。

 こんな場所にくるのは大層気がすすまないため、よっぽど欠席してやろうかと思っていたくらいだが、いっそ呼んだ新婦が後悔するくらい華やかにしてやろうと思い至ったのである。

 だが小説や映画のように白いドレスを選ぶ度胸もなくて訪問着を着てきた。

 ただ、かんざしに紫の花がついている──『裏切り』の花言葉を持つ花蘇芳を刺してきた。

 まぁ『高貴』だの『豊かな生涯』だのポジティブな花言葉も持ってるけど。

 新郎新婦はどうせ花言葉なんて知らないんだろうから問題ないだろう。


 気がすすむ訳ないでしょう?──元彼と、彼をとった元親友の結婚式なんて。

 そもそもなぜそんな席に羽須美を呼んだのかさっぱり分からない。

 厚顔無恥にもほどがあると思う。

 別れたのは二年も前のことで、もうとっくにふっきれてはいる。

 ──だけど、それとこれとは別。

 もう彼のことなんてどうでもいい。だが、祝う気にもなれない。そんなところである。



 結婚式は特に見る気もせず、直接披露宴会場に向かう。

 受付で座席表を貰い、新郎新婦の友人席に目を通すと高校の同級生であるため男女同じテーブルが用意されているらしい。

 ……というか、女性の友人が極端に少ないので一つのテーブルが埋まらないための苦肉の策であると言える。

 それはそうだろう。例の一件があって以降、羽須美と彼女の共通の友人達からハブにされているのだから。

 羽須美の席の隣には見覚えのある男性が座っていた。


「久しぶり」

 声をかけると窓の外を見ていた園田くんがこちらを向いた。

「……あぁ、久しぶりだね、篠田さん」

「高校卒業以来かな、元気してた?」

「うん、篠田さんも元気そうで。──あの、彼女とは、もう?」

 言葉を濁しながら聞いてきた。先に続く言葉は何だろう。

『もう、仲直りしたの?』 『もう、あれっきり?』こんなところかな。

「うーん。正直なんで呼ばれたのか分からないって感じ」

「あ、やっぱりそうなんだ。ごめん、変なこと聞いて」

「いや、顔色伺われるよりは全然マシだから大丈夫」

 しかし沈黙が重い。そりゃそうか。


 唐突に園田くんが口を開いた。

「着物似合ってるね。ドレスの子ばっかりだから、新鮮」

 まさか、かんざしを嫌味でつけるためなんですとは言えず「ありがとう。そうだね、やっぱりみんなドレスが多いよね」と返事をする。

 羽須美だって他の友人の結婚式にはドレスを着て行った。訪問着で出席したのは今回が初めてだ。しかも羽須美は着物を持っていないため、母から借りたものだ。こんな自己満足にわざわざ買うのもバカらしいし。

 

 披露宴の途中、新郎新婦が羽須美のテーブルに挨拶に来た。作り笑いで「おめでとう」と新郎を祝福すると、ぎこちなく「ありがとう」と返って来た。新婦に「おしあわせに」とは言わない。

 彼女は何か言いたげにこちらを見ていたが、言葉を発しなかったためあたしも何も言わなかった。


 披露宴はつつがなく終了し、二次会への流れとなった。

 もちろん羽須美はそんなものに出席をするわけもなく、さっさと帰宅の途に着いた。

「良かったらさ、一緒に飲みに行かない?気晴らしに」

 駅の改札で声をかけられ、振り返ると園田くんがいた。

 愚痴を聞いてくれるとでも言うのだろうか。先ほどのテーブルでさっぱり会話が発生していないのでちょっと面食らう。でも正直、この鬱々とした気分を払拭して帰りたいこともあり、そのまま園田くんの誘いに乗って飲みに行ったのだ。





 携帯のアラームで目が覚めると、見知らぬ天井が目に入った。

 ──ここ、どこよ。

 昨夜は結局二軒ハシゴをし、その後の記憶がさだかでない。

 寝ぼけた頭で懸命に思い出そうとするがまったく記憶が戻ってこない。

「あ、起きた?」

 そこへシャワーを浴びてきたらしい園田くんが声をかけてきて一気に目が覚めた。

「うそ!あたし──まさか、やった?!」

「あー……やったというか、おれがやらかしたというか……」

 たいそう申し訳なさそうに謝られた。どうやら、園田くんも相当酔っていたらしい。

 あーそうか、やっちゃったか……。

 ちょっと園田くんには「混乱してるからちょっとの間一人にしてもらえる?」とお願いし、外出してもらった。

 まぁ混乱しているとはいえ、今現在彼氏がいるわけでもないし、過ぎたことを考えてもしょうがないのでさっくり気持ちを切り替える。

 指し当たって困るのは、服。

 だって着物の着付けなんて出来ないし。

 とりあえずシャワーを浴びてバスローブを身に着けてさてどうしたものかと悩んでいたら、控えめにドアがノックされた。

 鍵を開けると園田くんが紙袋を持って立っていた。

「ごめん、そろそろいい? お詫びにもならないけど──服、買ってきた」

 なんて素敵なタイミング!園田くん最高です!

「ありがとう。正直助かります」

 お礼を言って紙袋を受け取り、速攻バスルームへ入る。

 うーん、可愛い服だなぁ。

 紺地に黒のドットが入っているリボンタイのシフォンブラウスにフレアスカート。それにオフホワイトのカーディガン。園田くんの趣味かしら。普段こんな可愛いめなの着ないからなんだかものすごい恥ずかしいわ。それに……キャミソールや下着類も靴まで一式入っていた。

 これ、園田くんが選んで買ってきた……んだろうなぁ。

 まぁ助かるので細かいことには触れずにおこう。

 不思議に思いながら部屋に戻ると園田くんはコーヒーを飲んでいた。

「ありがとう」

 もう一度お礼を言って自分の分のコーヒーを入れる。

「似合うね。サイズ、大丈夫だった?」

「うん、ぴったり。なんで?」

 それが不思議です。ほんとになんで?

「あー……。そこは謎のままとっておきませんか」

 答えてはくれないらしい。まぁいいか。

「ていうか、彼氏大丈夫?」

 いませんが。

「そっちこそ、彼女大丈夫?」

「いや、おれは今いないし」

「あたしも」

「ならよかった。ルームサービスのモーニング頼んだけど、食べられる?」

「もちろん。ありがとう」

 園田くん、ほんと細かいとこ気が利くなぁ。

 めったに食べることがない、ルームサービスを堪能して一息つく。

 んー、ほんと何があるか分からないもんだ。

 すぐにホテルを出る気にもなれず、ベッドに腰掛けてぼんやりとテレビを見てると園田くんが隣に座ってきた。

 ん?なんですか?

「ごめん、記憶にないのがもったいなさ過ぎるから改めて手、出していい?」

 言いながらリボンタイに手をかける。

 ぶは、ストレート!

「──いいよ。後悔させないでよ?」

 笑いながらあたしはリモコンに手を伸ばして、テレビを消した。







「で、今の彼氏とはどこで知り合ったの?」

「んー、高校のときの同級生」

「うっそ!誰?だれ??あたしが知ってる人?」

「知ってるよ。園田くん」

「えー!バスケ部のキャプテンじゃん」

「そ。まぁ付き合いだしたのは一昨年だけどね」

「そうなの?偶然再会したとか?」


 ──そう。元彼と元親友の結婚式でね。

 しあわせなあたしは、二人に子供ができたと聞いても素直に祝福できるのだ。

「おめでとうって伝えておいて?」

 あたしは笑ってそう言って、目の前のケーキに手を伸ばした。

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