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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

もし赤ずきんがサイコパスだったら

作者: 恋歌

昔々あるところに、赤ずきんと呼ばれている少女がいました。赤ずきんはかわいらしくて頭もとてもよく、皆から好かれていました。


ある日、赤ずきんのお母さんは赤ずきんを呼び出してこう言いました。


「このぶどう酒とアップルパイをおばあさんに届けてきてくれる?体の具合がよくないらしくて、お見舞いに」


それを聞いた赤ずきんは、そのお見舞いの品が入ったバスケットを受け取ってすぐに出発しました。


お母さんはそれを見て、一人ほくそ笑みました。


「あそこまでの道にはオオカミがいる。果たして赤ずきんは無事に辿り着けるかしら」


実はお母さんは赤ずきんと血は繋がっておらず、ずっと赤ずきんのことを疎ましく思っていました。なので、ここで死んでくれれば好都合だと思ったのです。


そんなことはつゆ知らず、赤ずきんはおばあさんの家への道を歩いていました。


すると、木陰から一匹の小さなオオカミが姿を現しました。 まだ子供のようです。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん。僕のお母さんを知らない?」


オオカミは小さな瞳を潤ませて赤ずきんに近づきました。


「ごめんなさい、知らないわ。はぐれちゃったの?」


「うん。僕小さいから、気づかずに行っちゃったの」


「そう。なら、私と一緒に来る?」


子オオカミは喜んでしっぽを振り、一人と一匹は並んで歩き始めました。


しばらく歩いていると、道端に一輪の花が咲いていました。それはまるで虹が地上に降りてきたかのように神秘的で美しいものでした。


「まあ、きれいなお花。おばあさんにあげましょう」


赤ずきんがしゃがみ込んでそれを摘もうとすると、子オオカミが赤ずきんのスカートの裾をくわえて引っ張りました。


「その花は危ないよ!触れたら毒がまわって死んじゃうって言ってた」


赤ずきんは微笑み、白い手袋をはめた手を見せた。


「私はほら、大丈夫よ」


そのまま赤ずきんはその花を摘み取り、手に持ちました。


その時、大きな大きなオオカミが向こう側から駆けてきました。


「お母さん!」


子オオカミが叫びました。


「ぼうや、無事だったのね!よかった。あなたがうちのぼうやを誘拐したの?」


母親オオカミは赤ずきんを睨みました。


「違うよ、このお姉ちゃんは僕を助けてくれたんだ!」


「そうなの?まあそんなの関係ないわ。私たちにとって人間はただの食料。あなたには大人しく私たちの餌になってもらうわ」


そして、母オオカミは赤ずきんに襲いかかろうとしました。


赤ずきんはバスケットを置いて子オオカミを抱き上げ、先ほどの毒の花を掲げるように持ちました。


「これがなにかわかる?」


「……!それは」


母オオカミは立ち止まり、じりじりと後ずさりました。彼女はその花の危険性をよく知っていました。子オオカミにそれを教えたのは、他ならぬ彼女なのですから。


「もしあなたが私を襲うなら、この子の命はないわよ?」


赤ずきんはにこっと笑い、子オオカミの鼻先に花を近づけました。子オオカミは騒ぐこともできず固まっていました。


「人質にとるつもり?」


「ええ、そうよ。だって私、おばあさんのお見舞いに行かなきゃいけないもの」


変わらず愛くるしい笑みを浮かべる赤ずきんに、母オオカミは怒りよりも恐怖の感情を抱きました。


「わかったわ。あなたを襲うのはやめる。だからぼうやを返して」


「ありがとう。でも今すぐは無理よ。返した途端にあなたに襲われちゃかなわないしね。

あなたは…そうね、ここから少し離れたところに大きな木があるでしょ?そこに行って。あなたが行ったのを見てから私はこの子を解放するから、あとは勝手にして」


母オオカミは頷き、その方向へ駆けていきました。


それを見た赤ずきんは、抱えていた子オオカミを地面に下ろしました。子オオカミは怯えた目で赤ずきんを見ました。


「別にもう何もしないわよ。私は約束は守るわ」


「……ほんとに僕を殺す気じゃなかったよね?」


赤ずきんは無言で微笑みました。それが彼女なりの返事でした。それは子オオカミにも伝わったようで、彼は何も言わずに走り出しました。


「……お礼も言わないなんて、お行儀の悪い子ね」


一人つぶやき、赤ずきんは花をバスケットに入れました。そして、それを手に持ってまた歩き始めました。


次第に風景が変わり、いつの間にか赤ずきんは森の中に入っていました。幽霊が出るということで皆に敬遠されているこの森ですが、赤ずきんは幽霊を信じていないので全く怖がりませんでした。


「ちょっと、そこのお嬢さん」


若い男に呼びかけられ、赤ずきんは立ち止まりました。その男は猟師のようでした。


「なあに?」


「おいしいりんごがあるんだけど、食べない?余ってて困ってるんだ」


猟師は、血のように赤いりんごを赤ずきんに見せました。


赤ずきんはそれをじっと見て、首を横に振った。


「残念だけど、知らない人からものをもらってはいけないと言われているの。ごめんなさい」


「ちっ、仕方ないな」


猟師はつぶやき、腰に下げていた銃をとって赤ずきんに銃口を向けました。


「悪いけど、君にはここで死んでもらう」


さらさら、と木の葉が擦れる音がこの空間の中で唯一の音でした。


「……なんで私が死ななきゃならないの?」


赤ずきんは怯える様子もなく、淡々と質問しました。


「どうせ君は死ぬんだから教えてあげよう。君のお母さんは、君の死を望んでるんだ。君が君自身の父親、つまりお母さんの旦那を殺したからだよ。それはわかってるだろ?」


それを聞いて、赤ずきんは首を傾げました。全く心当たりがなかったからです。


「覚えていないのかい?」


そう言って、猟師は話し始めました。赤ずきんが病気だった父親の食事に毒を盛ったこと。その理由が父親の『ゆっくり眠りたい』という発言だったこと。その後、その話をすることは村の人々にも赤ずきん本人にもよくないと考えた村長が箝口令をしいたこと。


赤ずきんは静かに聞いていましたが、幾度か頷いてから口を開きました。


「じゃあ、お母さんが私を殺せばいいんじゃないの?なぜあなたが私を殺すの?」


「お母さんは情が移ってしまったから、自分では君は殺せないんだ。だから君と無関係の俺に頼んできた。あと俺はな、君のお母さんのことを愛してる。君を殺したら結婚を申し込むつもりだ」


ふふふ、と赤ずきんは笑いました。


「お母さんは今でもお父さんのことを愛しているわ。かわいそうだけど無理よ」


「無理じゃないかもしれないだろ!さあ、おしゃべりは終わりだ。何か言い残すことはあるか?」


猟師は銃を持ち直しました。赤ずきんの心臓の位置にぴったり合わせています。


「なら、少しだけ時間をちょうだい。神様にお祈りするから」


「いいだろう。好きなだけ祈るといい」


そう言うと、猟師は銃を下げて手近な岩に腰掛けました。


それを見た赤ずきんは、ポケットの中に手を入れて十字架を取り出しました。それは持ち歩くのには少し大きすぎるほどの大きさで、きらきらと光を浴びて輝いていました。


「なんだそれは。おもちゃか?」


「いいえ、本物よ。少なくとも私にとっては」


「は?」


赤ずきんはにこっと笑い、十字架の先を猟師に向けてぎゅっと握りました。


猟師は不思議そうにそれを見ていましたが、なにかがおかしいと思い自分の体を見ました。そして、心臓のあたりに穴が開いているのに気がつきました。


「これは、銃か?だがしかし銃なんてどこにも……」


赤ずきんは、地面に倒れた猟師に近寄って十字架を顔に近づけてあげました。


「これよ。これはね、私が護身用に作った十字架の形の銃なの。念のため持ってきておいてよかったわ」


「なん、だと。そんなものが……」


猟師は悔しそうな顔のまま、息絶えました。


赤ずきんはそれを無表情で眺めていましたが、自分の靴に血がついているのを見て猟師の服でぬぐいました。


「このままここに置いておくのはよくないわよね」


そして、赤ずきんはこの近くにある古井戸の存在を思い出しました。そこは誰も人が近寄らないところなので、ちょうどいいと思ったのです。


しかし、そこで問題が生じました。十三歳の少女である赤ずきんには、猟師のような体格のいい男を古井戸まで運ぶだけの力がありません。


赤ずきんはいい方法を思いつき、猟師の腰についていた丈夫な素材の袋を取り外しました。案の定それは獲物を入れておくためのものだったようで、とても大きい袋でした。


赤ずきんはその中に猟師を入れました。ぎゅうぎゅうではありましたが、なんとか入りました。


ちょうどその時、後ろから「赤ずきんちゃん?」と声をかけられました。


赤ずきんが振り向くと、そこには斧を持った木こりがいました。


「なにしてるんだい?」


「化け物を捕まえたの。それを古井戸に沈めようと思ったんだけど、重くて」


赤ずきんは流れるように作り話をしました。それはもはや才能と呼べそうなほどの自然さでした。


木こりは袋を見て、恐れるように一歩下がった。


「そ、そりゃどんな化け物なんだ?」


「心配しないで。今はもう悪さができる状態じゃないわ。あとは古井戸にさえ沈めてしまえば、死ぬはずよ」


「そうなのかい?じゃあ、俺が運んでやるよ。貸しな」


「絶対に中身は見ないでね。見たら死んでしまうかもしれないから」


完全に嘘とは言えない言葉を口にし、赤ずきんは木こりに袋を渡しました。


「よし、じゃあ赤ずきんちゃんは用事を済ませてきな」


「え?」


「そのバスケット。ただ遊んでたわけじゃないだろ?」


そこで初めて、赤ずきんはおばあさんのお見舞いのことを思い出しました。


赤ずきんはきこりに礼を言って、再びおばあさんの家を目指しました。


それほどそこから距離が離れていなかったので、赤ずきんはすぐにおばあさんの家に着くことができました。おばあさんの家の庭には色鮮やかな花が一面に咲いていて、この小さな訪問者を歓迎しました。


赤ずきんが重そうな木の扉をノックすると、

中から「誰なの?」とおばあさんの声がしました。


「私よ、赤ずきんよ」


「どうぞ、入って」


家に入った赤ずきんを待っていたのは、今にも死んでしまいそうなほどやせ細ったおばあさんでした。おばあさんはベッドに寝ていましたが、ゆっくりと体を起こしました。


「あらあら、よく来たね。ちょっと待ってて、今お茶を出すから」


「やめて、動かないで!大丈夫だから」


赤ずきんはおばあさんが立ち上がろうとするのを慌てて止めました。


「それより、はいこれ。お母さんから」


おばあさんが赤ずきんからバスケットを受け取ると、わずかにおばあさんの目に生気が戻りました。匂いで中にアップルパイが入っていることがわかったからです。赤ずきんのお母さんの作ったアップルパイは、おばあさんの大好物でした。


「ありがとね。これで元気になるわ」


おばあさんは早速アップルパイを取り出し、切るのももどかしかったのかそのままかぶりつきました。


「美味しい!やっぱりこれは最高ね」


すると次の瞬間、おばあさんの体は横にぐらっと傾き、床に倒れこむような形になりました。そのままぴくりともしません。


「おばあさん!」


赤ずきんがおばあさんを抱き起こしたときにはもう、おばあさんは死んでしまっていました。


赤ずきんはただただ不思議でした。おばあさんはお母さんの実の母で、お母さんが毒を盛ったとは考えにくかったからです。しかもお母さんはそのアップルパイを味見していました。なら、なぜおばあさんは死んでしまったのでしょう。


ふと、赤ずきんはバスケットの中から毒の花がのぞいているのに気づきました。そしてその近くに落ちている包み紙を手に取ってよく見てみると、少し破れていました。


「アップルパイに毒が移ったのね」


赤ずきんは毒の花を床に置き、今までつけていた手袋をとりました。それにも毒が移っている可能性があるからです。


その後木こりが訪ねてきておばあさんの遺体を見つけ、赤ずきんは村に戻ることになりました。


ですが以前と同じようにお母さんと暮らすのは無理です。なので赤ずきんは自分の犯した罪の部分を省略して木こりに話し、木こりの娘として生きることになりました。


そして赤ずきんは最期まで、幸せに暮らしました。


めでたし、めでたし。



ありがとうございました。

一応二次創作なのですが、原作をよく知らないのでほぼオリジナルのような気がします。

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[良い点] すごい面白かったですw
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